「これで全員みたいね」

 周辺の探索を行い、ローラ先生はそんな結論を出した。

 俺も同じ意見だ。
 誘拐された生徒達は、エリゼ達を含めて、全員、助け出した。

 念の為、魔法で探知をしてみたものの、生徒らしき反応はない。
 被害者はこれで全員だろう。

「じゃあ、あなた達もここから逃げて。少し行ったところに、街に通じる転移陣を設置しています」
「えっと……はい」

 エリゼは、よくわからない様子ながらも素直に頷いた。
 詳細はわからないけれど、なんとなく、なにかの事件に巻き込まれたことは理解したのだろう。

 みんなは素直に牢を出て、転移陣がある場所へ……

「ひゃ!?」

 突然、地面が揺れた。
 パラパラと天井から土が落ちてくる。

 転びそうになるエリゼを抱きとめつつ、周囲を見る。

「地震……? いや、これは……」

 禍々しい気配を感じた。

 極寒の地に裸で放り出されたかのように、心細く、不安と恐怖でいっぱいで。
 喉元に刃を突きつけられたかのように、心が震える。

「魔王? いや、でも……」

 魔王の気配に近い。
 でも、どこか違う。

 どういうことだ?
 不思議に思いつつ、気配がする方に向かう。

「あっ、ちょっと!?」

 ローラ先生の引き止めるような声が聞こえてきたものの、今は無視。
 この先にある『なにか』を確認しておかないと、手遅れになる……そんな予感がした。

「確か、この先に……なっ!?」

 それなりに広い通路を、『なにか』が埋め尽くしていた。

 それを一言で表現するのなら、黒い霧。
 それに尽きる。

 通路を埋め尽くしていて、先がまったく見えない。

 普通に考えるなら、崩落が起きて有毒ガスが湧き出した、というところだが……
 それはありえないと断言できた。

 なぜなら、黒い霧に意思のようなものを感じられた。
 まったくの無風なのに、黒い霧が動いていた。
 蛇を連想させる動きで、ゆっくりと渦を巻いている。

「なんだ、これは……?」

 わずかに魔王の気配を感じる。
 ということは、ヤツが生み出した魔物……?

 ただ、こんなもの、前世を含めて見たことも聞いたこともない。

「ォ……ォォォオ……」
「!?」

 黒い霧がうめき声のようなものを発した。
 同時に、一部が手の形となり、こちらに伸びてくる。

 ゾクリとした悪寒。
 本能的な恐怖。

 慌てて後ろに下がると、黒い霧はそれ以上追いかけてくることはなくて、手を引き戻した。

「攻撃しようとした……? でも、今のは……」
「大丈夫ですか!」
「ローラ先生!?」

 とてもまずいタイミングでローラ先生が駆けつけてきてしまう。

 いや、彼女だけじゃない。
 エリゼ達も一緒だ。

「まったく、このようなところで勝手な行動を……な、なんですか、これは!?」

 黒い霧に気がついて、ローラ先生は悲鳴に近い声をあげた。

 それでも、さすがというべきか。
 危険性を一目で見抜いたらしく、気軽に近づくようなことはしない。

「あれは……?」
「わかりません。いつの間にか……転移陣はこの先ですよね?」
「ええ。それに、歩いて出る道も、この先以外にないわ」

 なんてこった。
 思わず頭を抱えてしまいたくなる。

 事件を解決するためにやってきたのに、関わるにつれて、より混沌と化しているような気がした。
 呪われていないか、俺?