さらわれた生徒達を見つけたものの、すぐに突撃することはない。

 犯人らしき者達の会話によると、魔法を封じられているらしい。
 そのまま助けに行けば、下手をしたら俺達も罠にハマってしまうかもしれない。

 他、どのような罠があるかわからず……
 それに、犯人に気づかれずに事を進めたいため、牢の鍵も手に入れたいところだ。

 なので、まずは牢の周囲を調べることにした。

「あっ、これ、鍵じゃないですか?」

 五部屋目の探索をしていたところ、やや錆びた鍵束を見つけることができた。

「こうしてまとめておくっていうことは、牢の鍵なのかなー、って思うんですけど」
「そうね……うん、試してみる価値はあるわ。お手柄よ」
「えへへ、ありがとうございます」

 にっこり笑うのだけど……
 女子生徒のフリをするっていうのは、けっこう大変だな。
 ……主に精神的に。
 なにか大事なものがゴリゴリと削れていくような気がした。

「私も、魔法を封じている装置の制御権を掌握する方法を見つけたところです。これで、生徒達を救出することができますね」
「それは……良かったです!」

 良いことなのだけど……ふむ?
 なにか、やたら都合の良い展開が続いているような気がするが……

 少し罠を警戒してしまう。
 とはいえ、その時はその時だ。

 人質がいつまでも安全とは限らない。
 のんびりしているわけにはいかないから、あからさまな違和感を覚えない限りは前に突き進んでいくことにしよう。

「みなさん、大丈夫ですか?」
「え……もしかして、ローラ先生?」
「助けに来てくれたんですか!?」
「よかった、これで家に帰れる……」

 ローラ先生は牢を回り、生徒達を助けて、一人一人声をかけていく。

 これまであまり意識したことはなかったけど、ローラ先生はとてもいい人だ。
 涙ぐむ生徒にしっかりと寄り添い、抱きしめて安堵させている。

 心の底から生徒達を心配していたみたいだ。
 だからこそ、自ら誘拐犯のアジトに乗り込んできたんだろう。

 その様子を後ろから眺めつつ……

「ふむ?」

 ふと、違和感を覚えた。

 生徒達から魔力を感じられない。
 なぜか空っぽになっている。

 魔法を封じる装置の影響?
 でも、それなら魔力を奪う必要はないはずなのだけど……

「どうしたんですか? 奥に行きますよ」
「あ、はい」

 いつの間にか、周辺の牢に囚われていた生徒達は救出されたみたいだ。
 ローラ先生があらかじめ用意していた転移陣を使い、外に送り出していた。

 残されている牢は一つか二つ。
 なにやら気配がするから、まだ捕まっている生徒はいるのだろう。

 ……これ、かなりの数の被害者がいるな。

 犯人は、いったいなにを目的としていたのだろう?
 謎すぎる。

 考えつつ、ローラ先生に続いて最奥の牢へ向かい……

「あっ」
「あっ」

 中にいるエリゼと目が合った。

 って、なんでエリゼがここに!?
 よく見たら、エリゼだけじゃなくて、アラム姉さんにアリーシャ。
 それと、シャルロッテとフィアもいた。

「どうして、こんなところにおにいふぐ?」
「大丈夫ですか!? 怪我はないですか!? 私達は、助けに来たんです!」

 慌てて牢を開けて、エリゼの口を塞いだ。

「あなた……」
「あわわわ」

 アラム姉さんがものすごく不審な目を向けてくる。
 俺の正体にまでは気づいていないらしいが、なにか感じるものがあるようだ。

 ちなみに、エリゼはふぐふぐと言っている。
 なぜか、エリゼにだけは一目で正体がバレた。

 わりと完璧な変装だと思うのに……なぜだ?
 妹だから、なのか?

「みなさん、大丈夫ですか?」
「あら、ローラ先生。どうして、先生がこのようなところに?」
「それは私の台詞なのですが……みなさんも誘拐されていたんですね」
「誘拐?」

 シャルロッテは、現状をあまり理解していない様子だ。
 それを見て、ピンと来た。

 たぶん、彼女達は、この街で起きている事件を知らない。
 なら、なぜここにいるのか?

 ……俺のことを、こっそり追いかけてきたんだろうなあ。

 好奇心は人一倍強い彼女達だ。
 俺が目的を濁したせいで、どういうことだ? と疑問を持ち、ほどなくしてそれが好奇心に変わり、後をつけてきたのだろう。

 まいった。
 まさか、こんなことになるなんて……

 隠し事をしない方がいいのだろうか?
 でも、魔王の問題に巻き込むわけには……

「レン」

 そっと、アラム姉さんが俺の耳元でささやいた。

「よく見たら、あなた、レンね?」
「な、なんのことでしょう……?」
「ごまかしても無駄よ。姉の目は欺けないわ」

 妹に続いて、姉にも速攻でバレてしまう。
 この姉妹、勘が鋭すぎる……

「厄介事みたいだから、今は、素直に指示に従うけど……後で事情を聞かせてもらうわよ?」
「……ハイ……」

 当然、俺に拒否権なんてないのだった。
 とほほ……