「ふむ」

 坑道の探索をすること、30分ほど。
 未だ全容は解明できず、ここが誘拐犯のアジトという証拠も出ていない。

 もしも今、メルと会話ができていたら、「やれやれなにをやっているんだい?」と文句を言われることだろう。

 とはいえ、ここが『当たり』であることは、ほぼ間違いないだろう。
 そんな確信がある。

「廃棄されたはずの坑道に人が出入りしている痕跡……まあ、真っ当な集団じゃないことは確かだよな」

 複数の足跡。
 それと、整備されたランタンなど。

 何者かが坑道を利用していることは間違いない。

 浮浪者の可能性も否定はできないが……
 それなら、わざわざ坑道の奥深くに入り込む必要はない。

 人目につかない場所を利用する。
 人目を避けなければいけない、なにかやましいことをしている、と考えるのが普通だろう。

「これで推測が外れていたら、ローラ先生に怒られること確定だな。いや。無事に事件を解決したとしても、無茶をして、って、それはそれで怒られそうで嫌だな」

 ローラ先生は優しく、思いやりがある人だ。
 怒ったとしても、さほど怖くないだろう。

 だからこそきつい。
 泣かれたりしたら、ものすごく心が痛みそうだ。

「そうならないために、俺達の正体は伏せつつ、事件を解決したいが……ん?」

 声が聞こえた……ような気がした。

 念の為、壁のくぼみに隠れた。
 次いで、耳を澄ませる。

「……そろそろ、商品を……」
「……これだけの人数がいれば……」
「……良い儲けに……」

 複数人による会話らしきものが聞こえてきた。

 会話の内容は……
 『商品』という単語があるから、商売に関することだろうか?

 普通に考えて、鉱山や鉱石に関する話だろう。
 ただ、レイドアロマの鉱山は、ほぼほぼ枯渇しているはず。

 そうなると、声の主達が言う『商品』の正体は……?

「嫌な予感がするな」

 とある想像が思い浮かぶけれど、本当に最悪の想像なので、外れていることを願う。

 その後、しばらく様子を見ていると、声は遠ざかっていった。
 気配もしない。

 本当なら魔法による探知も行いたいのだけど……

「相手に優れた魔法使いがいると、逆探知される可能性もあるんだよな」

 今回は、まだ俺のことは伏せておきたい。
 見つかる可能性がある行動は取らず、慎重に進むことにした。

 見落としのないように注意を払いつつ。
 音と気配を探り。
 時折、足を止めて入念な確認をして。

 そんな慎重な行動をとったおかげで、誰にも見つかることなく、とある場所に到着した。
 たどり着いた場所は……

「おいおい……なんだよ、これは」

 広い空間に出た。

 元々は休憩所として使われていたのだろう。
 中央に、いくつものテーブルが並べられている広場。
 その脇に細い道が伸びていて、そこから、さらに先に小部屋が並んでいる。

 おそらくは、その小部屋が休憩所となっていたが……
 今は鉄格子がハメられて、牢屋として改造されていた。

 そして……その中に行方不明になったと思われる女子生徒がいた。
 学院の制服を着ているから、まず間違いないだろう。

「やっぱり、神隠しなんて大層なものじゃなくて、ただの誘拐事件だったか」

 犯人達の目的は……たぶん、女子生徒そのもの。
 さきほどの会話から察するに、奴隷として売り飛ばすことが目的なのだろう。

 なぜ、学院の生徒に限定しているのか、そこは謎だけど……

「まあ、疑問の解明は後でいいか。とにかく、今はみんなを助けて……っと」

 足音が聞こえてきて、引き返して隠れた。

「問題ないか?」
「ええ、大丈夫よ」
「商品の様子は?
「それも問題ないわ。魔法を使えないようにしているから、おとなしいものよ」
「ははっ。天下のエレニウム魔法学院の生徒も、魔法が使えないとただの子供か。まあ、油断はしないようにな」
「あなたもね」

 武装した男。
 それと、魔法使いらしき女がそんな会話を交わしていた。

 魔法が使えない? どういうことだ?

 言葉の意味を確かめるため、俺はその場に留まり、さらなる観察を……

「……動かないで」

 その時、背後から声が聞こえてきた。