「……んぅ……」

 ふと、私は目を覚ました。

 いや。
 私ではなくて、俺だ。

 視線を落とすと、綺麗な体が見えた。
 それと、わずかに膨らんでいる胸。

 とはいえ、これは全て偽物。
 魔法で姿を変えているだけのもの。
 つまり、この女子生徒の正体は、レン・ストラインなのだ。

 ここは薄暗い倉庫のようだ。
 よくわからないものが雑に積み重ねられている。

 扉に手をやると、当たり前だけど鍵がかかっていた。
 ただ、簡単な南京錠なので脱出はたやすい。

「とりあえず、成功かな?」

 女性の姿のまま、俺はニヤリと笑う。

 誘拐犯の正体はわからず、手口も不明。
 しかし、長く放置するわけにはいかず、早急な解決が望まれている。

 なので、俺とメルは少々強引な手段に出ることにした。

 俺を餌として、犯人の正体を探る。

 敵を騙すために、俺は、魔法で女性に姿を変えた。
 さらに、完全に騙すために、意識も作り替えた。

 レン・ストラインという自我を一時的に封印。
 仮に作り上げた人格を植えつけて、まったくの別人を装う。
 事情を知らない者が見たら、俺と結びつけることはまず不可能だろう。

「辺りを調べてみるか」

 鍵を壊して外に出る。

 ここが誘拐犯の拠点なら運が良い。
 メルは外で待機をして、魔法を通じて俺の様子を観察している。
 俺が合図を送れば、街の兵士こちらに誘導する手はずになっていた。

「そのためにも、ここが誘拐犯の拠点っていう確かな証拠を見つけないとな」

 俺がここにいることがバレるとまずい。
 無力な生徒と思わせた方がやりやすい。
 それと、後でローラ先生に怒られたくない。

 なので、女装はそのままに周囲の探索を始めた。

 どうやら、ここは坑道のようだ。
 今は使われていない鉱山の一つなのだろう。

 山の中を掘り進めた道が遠く深く続いている。
 合間に木枠が組まれ、崩落を防いでいた。

 点々とランタンが設置されていた。
 軽く触れてみると、最近、使用された形跡がある。

 レイドアロマのほとんどの鉱山は閉鎖されているはず。
 それなのに、こうしてランランを使用した形跡があるということは……

「当たりかな?」

 俺はニヤリと笑い、坑道のさらに奥へ足を進めた。



――――――――――



「……あれ?」

 寝心地の悪さに、ふと、エリゼは目を覚ました。
 そして、すぐに妙な匂いに気がつく。

「土の匂い……あ、あれ?」

 宿で休んでいたはずなのに、いつの間にか、粗雑なゴザの上で寝ていた。
 それはエリゼだけではなくて、アラム、アリーシャ、シャルロッテ、フィアも同じだ。

 体を起こすと、まず最初に簡易な鉄格子が見えた。
 それを見て、エリゼは、自分達は今、横方向に掘られた穴を利用して作られた牢の中にいることを知る。

「???」

 牢にいることは理解したが、なぜこんなところにいるのか、それはさっぱりわからない。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。起きてください」
「んー……なぁに、トイレ? もう、エリゼはいつまでも甘えん坊さんね」
「ち、違います! トイレくらい一人で行けます! って、そうじゃなくてですね!?」

 エリゼは、寝たままのアラムを揺する。

 アラムはあくびをしつつ起き上がり、やや不満そうに言う。

「もぅ……どうしたの? まだ起きるような時間じゃないでしょう」
「お姉ちゃん、大変です! とにかく周りを見てください」
「周り? なにも……え?」

 ようやく自分が置かれている状況に気づいたらしく、アラムは目を大きくして驚いた。

「これは……エリゼ、どういう状況かわかる?」
「ごめんなさい、わかりません。ただ、もしかしたらですけど……私達、誘拐されちゃったのでは?」