たくさんの魔法学院の生徒が行方不明になっている。
 それなのに犯人の目撃情報、犯行現場に関する情報がまったく浮上しない。

 そんなこと、ありえるのだろうか?
 たった一人でそれだけの大きな犯罪を実行可能なのだろうか?

 単純な疑問。
 でも、それは見逃せないほどに大きくなり……
 犯人は単独犯ではなくて、複数犯なのでは? と考えるようになった。

 とはいえ、それも推測。
 確たる根拠があるわけじゃない。

 証拠がないからと、このまま手をこまねいていたら、新しい被害者が出てしまうかもしれない。
 それと、あまり時間をかけてしまうと、なにかしら手遅れになってしまう、という悪い予感もした。

 なので、ちょっと強引な策に出ることにした。



――――――――――



 街の外に近いところにある、魔法学院の生徒が利用する訓練場。
 そこに一人の女子生徒の姿があった。

 訓練をしているわけではない。
 神隠しの件があり、訓練場の利用は禁止されている。

 ならば、女子生徒はなにをしているのか?

「よいしょ、よいしょ」

 訓練に使う道具を片付けていた。

 神隠しの件で、急遽、訓練場の使用が中止された。
 そのため道具も放置されていた。

 訓練に使うための道具とはいえ、中には危険なものがある。
 なにも知らない子供が触れると事故になりかねない。
 そんな懸念があり、せめて道具だけでも片付けることにしたのだ。

 片付けをしているのは、目元まで髪が伸びている、おしゃれに気を使っていない女子生徒だ。
 髪を適当に伸ばしていて、服装もシンプルなため、とても地味な印象を受ける。

 ただ、とても真面目な生徒なのだろう。
 一人、作業を続けるものの、愚痴や文句をこぼすことはない。
 私がやらないと、という使命感があるらしく、一生懸命に道具を拾い、倉庫に移していた。

「ふぅ、こんなところかな?」

 ある程度、片付けが終わり、女子生徒は一息ついた。

「神隠しが起きるんじゃないか、って心配していたけど……あはは。さすがに、私のような地味な生徒をさらう人なんていないか」

 少し大きな独り言。
 それは、女子生徒が抱える不安をごまかすためのものだった。

 とはいえ、今は昼。
 しっかりと太陽が出ていて、空は青く、とても明るい。

 こんな中、事件が起きるとは思えない。

 幾分、心を楽にした女子生徒は、道具をしまう倉庫に鍵をかけた。
 これで仕事は完了だ。
 宿に戻り、翌日、レイドアロマを発つことにしよう。

「……あれ?」

 ふと、あくびがこぼれた。
 自然とまぶたが重くなってくる。

「おかしいな……」

 昨夜はしっかりと寝た。
 なんなら、寝すぎてちょっと頭が重いくらいだ。

 それなのに眠くなるなんて……
 慣れない作業をして、緊張を抱えていたせいで、思っていた以上に疲労が溜まってしまったのだろうか?
 だとしたら、早く宿に戻った方がいい。

「……えっと……あれ、なんで、これ……」

 足元がふらついて、まっすぐ歩くことができない。

 体がひどく重い。
 意識がぼんやりとする。

 明らかな異常事態なのだけど、ものをうまく考えることができない。
 そもそも、周囲に誰もいない。
 魔法を受けている様子もない。

「いったい、なにが……」

 もしかして、これが神隠しだろうか?
 女子生徒は危機感を覚えて逃げようとするが、すでに手遅れだった。

 体はまともに動かない。
 意識も朦朧としてきた。

 深い睡魔に抗うことができず、

「……あぅ」

 そのまま女子生徒は眠りに落ちた。