俺は人気のない物陰に移動して……

「透明迷彩<インビジブルコート>」

「存在消失<ゼロフィールド>」

「感覚強化<フィールプラス>」

 透明になる魔法、気配を遮断する魔法。
 それと、聴覚や視覚を強化する魔法を続けて使う。

 そして、ローラ先生の尾行を開始した。

 ローラ先生とその協力者なら神隠しについて詳しいだろう。
 こっそりと盗み聞きして、情報をいただいてしまおう。

「ここは……」

 ほどなくして大きな宿に到着した。
 たぶん、ローラ先生が泊まっている宿だろう。

 ローラ先生は部屋に移動して……
 俺は、窓の外から中の様子をうかがう。

 さきほどの男性と、他に、見知らぬ男女が複数人いた。
 そこにローラ先生が加わり、話が始まる。

「……例の事件ですが、今度の被害者は中等部の学生みたいです」

 魔法を調整しつつ、耳を澄ませると、そんな声が聞こえてきた。
 よし。
 ちゃんと魔法は機能しているみたいだ。

 盗み聞きなんて心苦しいのだけど……
 でも、なにかが気になる。

「退避を促していたのだけど……」
「すみません。現状、神隠しと生徒の因果関係が断言できず、強制力はなくて……」
「そうですね……もどかしいですね」

「ただ、これ以上に被害者は絶対に出してはなりません。抗議を受けたとしても、学生を強制的に退避。そして、レイドアロマへの移動を禁止しましょう」
「はい、わかりました。ただ……先生は生徒と一緒にいたようですが?」
「ストライン君とティアーズさんね。あの二人は……そうですね、たぶん、大丈夫。いざとなれば、私がなんとかします」

「現状についての確認をします。事件なのか事故なのか、そこはまだ不明。ただ今のところ、事件性の方が高い。断定はできないものの、神隠しを行う犯人がいる……その認識で問題ありませんか?」
「はい、ありません。ただ、先生がおっしゃったように、その方向で調査、捜索を進めていますが、なかなか成果は……」
「焦らず、しかし、確実に進みましょう。なにかしらの悪意が絡んでいるのなら、それを絶対に突き止めないといけません。事件の解決を急ぐのはもちろんですが、しかし、それ以上に神隠しに遭った生徒達の安全を最優先に」

 ……そんな会話が聞こえてきた。

 ローラ先生はとても真面目な口調で。
 でも、わずかな焦りと緊張も含まれていて。

 心の底から生徒を案じていることが伺えた。

 本当、優しい先生だな。
 今まで、あまり彼女のことを知る機会がなかったけれど……
 そのことをちょっと後悔する。

 もっと色々なことを知り。
 そして、教示を願い。
 そうしていれば、魔力だけではなくて、心の強さを得ていたかもしれない。

「……この辺にしておくか」

 これ以上は大した情報を得られそうにない。
 それと、ちょっとした罪悪感もあって……

 俺は、そっとその場を後にした。



――――――――――



「さてと……これから、どうしようかな?」

 神隠しについてではなくて、今後の方針そのものを考える。

 神隠しは気になる。
 もしかしたら魔王が関わっているかもしれない。

 ただ、表向きはまったく関係のない俺が首を突っ込んでいいものか?
 ローラ先生に任せておけば、きちんと解決してくれるような気がした。

 個人としても、これ以上、ローラ先生に負担をかけたくない。
 心配をさせたくない。

 無理をせず、撤退するか……?
 いや、しかし。
 魔王が関係しているとしたら、ヤツの手がかりは欲しい。
 そうなると、無理をしてでも留まるべきで……

「いた!」

 街を歩きつつ考えていると、ふと、メルの声が聞こえてきた。

 振り返ると、やけに慌てた様子のメルの姿が。
 もしかして、さらなる神隠しが……?

「大変だよ!」
「どうしたんだ? まさか、また神隠しが……」
「キミの姉妹や友達がレイドアロマに来ているんだけど!?」
「はぁ!?」

 ……思っていた以上に大変なことが起きていた。