「こんなところでどうしたんですか? お祖母さんとは会えましたか?」
「えっと……」
神隠しの調査をしていました。
なんて、素直に言えるわけがない。
そんなことをしたら最後、強制送還されてしまうだろう。
「祖母との面会はまだです。ただ、最近少し体調がよくないみたいなので、なにかお見舞いの品を探していたところです」
「そう……大変ね」
「いえ」
「なにか私にできることがあれば、遠慮なく言うように。先生としてだけではなくて、ストライン君の、そうね……先輩として力になるわ」
「先輩?」
「私も、エレニウム魔法学院に通っていたの」
それは初耳だ。
「ほんの少し前のことなんだけどね。ほんの少し前よ?」
なぜ、ほんの少し、を強調するのだろう?
……年齢を気にしているのだろうか?
「どんな学生生活だったんですか?」
「そうね。学ぶだけじゃなくて、たくさんの友達ができたわ。ただみんな、ちょっと勉強が苦手で……ふふ。赤点を回避するために、よく、私が主導になって勉強会を開いていたの」
「へぇ、楽しそうですね」
「ありがとう。それで、その時の経験があって、先生もいいかな、って思うようになったの」
それで今に至る、というわけか。
意外なところでローラ先生のことを知ることができた。
「ところで……」
「なに?」
「えっと……いえ。やっぱり、なんでもありません」
神隠しのことを聞こうと思ったけれど、やめておいた。
ローラ先生にそんなことを質問したら、事件に首を突っ込もうとしているのでは? と怪しまれてしまうかもしれない。
余計なことはしない方がいい。
「なに? 遠慮しなくていいのよ」
「そうですね、えっと……ローラ先生は、この後、時間はありますか?」
「そうね……少しなら問題ないわ」
「なら、ちょっと買い物に付き合ってくれませんか? 祖母のお見舞いの品を買いたいんですけど、女性の意見も聞きたくて」
「なるほど。そういうことなら協力するわ」
ちょうどいい具合に話を逸らすことができたと思う。
「それに、今、レイドアロマは色々と物騒だから……私がストライン君のボディガードになってあげる」
「先生が……ですか?」
「なに、その驚いた顔は? ストライン君は天才かもしれないけど、先生も、けっこう強いのよ?」
ならぜひ手合わせを!
……という言葉が出そうになり、慌てて飲み込んだ。
いけない、いけない。
今は神隠しの調査が最優先だ。
趣味に興じている場合じゃない。
「ありがとうございます。頼りにさせていただきますね」
「ええ、頼りにしてちょうだい」
――――――――――
祖母のお見舞いのための買い物という名目で、ローラ先生とレイドアロマを一緒に見て回る。
意外というか、街は活気に満ちていた。
衰退しつつある街ではあるものの、ここに暮らす人々の力強さが失われているわけではなさそうだ。
「お祖母さんは、どんなものが好きなのかしら?」
「うーん……よくわからないんですよね。だから、わかりやすいお菓子なんかにしようかと」
「なるほど。なら、そこにお菓子を扱うお店があるから、行きましょうか」
「はい」
ローラ先生と一緒に店へ向かい……
そして、首を傾げる。
店は閉まり、『臨時休業』という張り紙がされていた。
「今日、お休みみたいですね」
「おかしいわね……普通に営業日だと思っていたんだけど。うーん?」
ローラ先生は小首を傾げているが、俺は、この店が休業の理由を知っていた。
神隠しに遭った生徒が最後に目撃されたのが、この店らしい。
故に、今日は事件の調査に協力するなどして休業になっているのだろう。
それを知らないということは、ローラ先生は、神隠しの調査をしていないのだろうか?
それとも、まだ情報を受け取っていないだけなのか?
妙なところで妙な疑問を覚えてしまった。
なんて不思議に思っていると、
「すみません」
見知らぬ男性がローラ先生に声をかけてきた。
ナンパ? と思うものの、違う。
ローラ先生の知り合いらしく、気さくな笑顔を向けている。
「あら。どうかしたんですか?」
「えっと……例の件でお話したいことが」
「例の……わかりました。すぐに行きます」
「はい、お願いします」
短いやり取りを交わして、男性は立ち去ってしまう。
例の件というのは、たぶん、神隠しのことだろう。
その一言だけでローラ先生の表情が厳しくなったからな。
「えっと……すみません、ストライン君。先生は、ちょっと急用ができてしまいまして……」
「俺のことは気にしないでください。お見舞いの品くらい、自分でなんとかしますし……それに、こんなにたくさんの人がいるから、危険なんてことはありませんよ」
「それは……そうですね。ただ、裏通りなどは人が少ないから、そういうところに行ってはいけませんよ? あと、なにかあれば大きな声を出すように。いざという時は、魔法の使用も許可します。それと……」
ローラ先生の注意事項の説明は10分くらい続いた。
昨日もそうだけど、心配性なのかな?
「では、先生はこれで行きますね」
「はい、また」
ローラ先生と別れて……
「……よし」
一人になったところで、俺はニヤリと笑うのだった。
「えっと……」
神隠しの調査をしていました。
なんて、素直に言えるわけがない。
そんなことをしたら最後、強制送還されてしまうだろう。
「祖母との面会はまだです。ただ、最近少し体調がよくないみたいなので、なにかお見舞いの品を探していたところです」
「そう……大変ね」
「いえ」
「なにか私にできることがあれば、遠慮なく言うように。先生としてだけではなくて、ストライン君の、そうね……先輩として力になるわ」
「先輩?」
「私も、エレニウム魔法学院に通っていたの」
それは初耳だ。
「ほんの少し前のことなんだけどね。ほんの少し前よ?」
なぜ、ほんの少し、を強調するのだろう?
……年齢を気にしているのだろうか?
「どんな学生生活だったんですか?」
「そうね。学ぶだけじゃなくて、たくさんの友達ができたわ。ただみんな、ちょっと勉強が苦手で……ふふ。赤点を回避するために、よく、私が主導になって勉強会を開いていたの」
「へぇ、楽しそうですね」
「ありがとう。それで、その時の経験があって、先生もいいかな、って思うようになったの」
それで今に至る、というわけか。
意外なところでローラ先生のことを知ることができた。
「ところで……」
「なに?」
「えっと……いえ。やっぱり、なんでもありません」
神隠しのことを聞こうと思ったけれど、やめておいた。
ローラ先生にそんなことを質問したら、事件に首を突っ込もうとしているのでは? と怪しまれてしまうかもしれない。
余計なことはしない方がいい。
「なに? 遠慮しなくていいのよ」
「そうですね、えっと……ローラ先生は、この後、時間はありますか?」
「そうね……少しなら問題ないわ」
「なら、ちょっと買い物に付き合ってくれませんか? 祖母のお見舞いの品を買いたいんですけど、女性の意見も聞きたくて」
「なるほど。そういうことなら協力するわ」
ちょうどいい具合に話を逸らすことができたと思う。
「それに、今、レイドアロマは色々と物騒だから……私がストライン君のボディガードになってあげる」
「先生が……ですか?」
「なに、その驚いた顔は? ストライン君は天才かもしれないけど、先生も、けっこう強いのよ?」
ならぜひ手合わせを!
……という言葉が出そうになり、慌てて飲み込んだ。
いけない、いけない。
今は神隠しの調査が最優先だ。
趣味に興じている場合じゃない。
「ありがとうございます。頼りにさせていただきますね」
「ええ、頼りにしてちょうだい」
――――――――――
祖母のお見舞いのための買い物という名目で、ローラ先生とレイドアロマを一緒に見て回る。
意外というか、街は活気に満ちていた。
衰退しつつある街ではあるものの、ここに暮らす人々の力強さが失われているわけではなさそうだ。
「お祖母さんは、どんなものが好きなのかしら?」
「うーん……よくわからないんですよね。だから、わかりやすいお菓子なんかにしようかと」
「なるほど。なら、そこにお菓子を扱うお店があるから、行きましょうか」
「はい」
ローラ先生と一緒に店へ向かい……
そして、首を傾げる。
店は閉まり、『臨時休業』という張り紙がされていた。
「今日、お休みみたいですね」
「おかしいわね……普通に営業日だと思っていたんだけど。うーん?」
ローラ先生は小首を傾げているが、俺は、この店が休業の理由を知っていた。
神隠しに遭った生徒が最後に目撃されたのが、この店らしい。
故に、今日は事件の調査に協力するなどして休業になっているのだろう。
それを知らないということは、ローラ先生は、神隠しの調査をしていないのだろうか?
それとも、まだ情報を受け取っていないだけなのか?
妙なところで妙な疑問を覚えてしまった。
なんて不思議に思っていると、
「すみません」
見知らぬ男性がローラ先生に声をかけてきた。
ナンパ? と思うものの、違う。
ローラ先生の知り合いらしく、気さくな笑顔を向けている。
「あら。どうかしたんですか?」
「えっと……例の件でお話したいことが」
「例の……わかりました。すぐに行きます」
「はい、お願いします」
短いやり取りを交わして、男性は立ち去ってしまう。
例の件というのは、たぶん、神隠しのことだろう。
その一言だけでローラ先生の表情が厳しくなったからな。
「えっと……すみません、ストライン君。先生は、ちょっと急用ができてしまいまして……」
「俺のことは気にしないでください。お見舞いの品くらい、自分でなんとかしますし……それに、こんなにたくさんの人がいるから、危険なんてことはありませんよ」
「それは……そうですね。ただ、裏通りなどは人が少ないから、そういうところに行ってはいけませんよ? あと、なにかあれば大きな声を出すように。いざという時は、魔法の使用も許可します。それと……」
ローラ先生の注意事項の説明は10分くらい続いた。
昨日もそうだけど、心配性なのかな?
「では、先生はこれで行きますね」
「はい、また」
ローラ先生と別れて……
「……よし」
一人になったところで、俺はニヤリと笑うのだった。