「おはよ♪」
「……なにしているんだ?」

 翌朝。
 目が覚めると、メルの顔が目の前にあった。

 よく見ると、俺の上にメルが乗っていて、顔をこれ以上ないほど近づけている。

「朝這い?」
「新しい言葉を作るな」
「ひゃん」

 メルを粗雑にどかして起き上がる。

「むー。朝から美少女が起こしに来てくれたんだから、もっと喜ぶべきじゃないかな?」
「自分で言うな。というか、鍵はどうした? 宿の部屋は別々だろう」
「あんな鍵、ボクにとってはないも同然だね」
「誇らしげに犯罪を語るな」

 まったく。
 明日から魔法で結界を作っておいた方がいいかもしれない。

「それで、朝から部屋にやってきた理由は?」
「だから、朝這い♪」
「冗談はいいから」
「まったく、つまらないなあ」

 ようやくメルは真面目に話をしてくれるみたいだ。
 部屋の椅子に腰かけて、思考を巡らせるように顎に手をやりつつ、そっと口を開く。

「また神隠しが起きたみたい」
「……確かなのか?」
「まだ断定はできないけどね。今日、街を出る予定だった生徒がいなくなっているみたいだよ」
「生徒は遠ざけられていたんじゃないのか?」
「けっこう前にここを訪れていたみたい。しばらく滞在予定だったけど、神隠しが起きているから、強制退去。今日、街を去る予定だったんだけど……」
「その前に神隠しに遭った……か」
「まだ断定はできないけどね」

 メルの話によると、生徒の姿が消えたのは、今朝……つまり、ついさっき判明したらしい。
 今は捜索が行われているようだ。

 ただの散歩とか。
 あるいは、誘拐事件とか。
 そういう可能性もあるため、断定はできないとのこと。

 とはいえ、物事を楽観的に考えても仕方ない。
 俺たちは、これを神隠しと考えて行動した方がいいだろう。

「どうする?」
「その生徒について調べてみよう。俺は、生徒を捜してみるから、メルはその生徒の情報を頼む」
「らじゃー」

 俺はベッドから降りて、服を……

「……」
「なにをしているんだ?」
「着替えを見ようかな、と」
「出ていけ」

 メルを部屋から蹴り飛ばした。



――――――――――



「ふむ」

 昼前。
 独自に生徒の行方を調査していたのだけど、成果はない。

 聞き込みの成果はゼロ。
 誰も生徒の姿を見ていないという。
 街を守る衛兵でさえ見ていないのだから、一人、街を出ていったという可能性はないだろう。

 誘拐されて、樽などに入れられて運び出された可能性も探ってみた。
 しかし、それらしい物を積んだ人の行き来はなかったらしい。

 最後に魔法を使い、生徒を探知してみることにした。
 生徒の持ち物を借りて、情報を記録。
 街全体を探知してみたのだけど……

「これも反応なし……か」

 100パーセント、生徒を見つけられると断言できるほど、俺はうぬぼれていない。
 魔法の構成、構築が甘く、見落としがあるかもしれない。

 とはいえ、ここまで手がかりが得られないのは誤算だ。
 多少の手がかりは得られると思っていたんだけどな……

「……あるいは」

 最悪の可能性が頭をよぎる。

 神隠しに遭った生徒がすでに死んでいたとしたら?
 その場合は、捜索は極めて困難になる。

「どうするかな……」

 メルと合流するか?
 でも、なにかしらの情報は手に入れておきたい。

「あら、ストライン君」
「ローラ先生?」

 迷っていると、再びローラ先生と出会うのだった。