魔法という技術が開発されたのは、今から1200年ほど前と言われている。

 断言していないのは、きちんと立証されていないからだ。
 今の時代はもちろん、前世でも魔法が生まれた時期は明らかにされていない。

 ただ、アニスという少女が最初の魔法使いだということは判明している。

 というのも、ありとあらゆる魔法の書物に……今の時代ではなくて、500年前のことだけど……アニスのサインが記されていたのだ。
 初級魔法教本を始めとして、禁忌と言われている魔法書にまでアニスの名が記されていた。
 他にも、魔法が関わる色々な面でアニスの名前が出てきている。

 以上の理由から、アニスが魔法を開発した存在と言われていた。
 故に、始祖魔法使い。
 世界最古の魔法使いであり、最強の魔法使いだ。

「すごい……まさか、こんなところにアニスの書があるなんて」

 500年前でも、アニスの魔法書はほぼほぼ消失していた。
 それなのに、こんなところでお目にかかれるなんて……
 やばい。
 ちょっと震えてきたぞ。

「お兄ちゃん、どうしたんですか? この本、もしかしてとてもすごいものなんですか?」
「あ、ああ。かなり、いや、ものすごくすごいものだ」
「なら、読みますか?」
「え? いいのか? エリゼが読んでいたんだろう?」
「お兄ちゃんが読みたいなら、私は構いませんよ。正直なところを言うと、書いてあることが難しすぎてよくわからないので」
「じゃあ、遠慮なく。ありがとな、エリゼ」
「いえいえ。お兄ちゃんのお役に立てたみたいでうれしいです♪ えへへ」

 頭を撫でてやると、エリゼはうれしそうにはにかむ。
 こんなものではなくて、今度、しっかりとしたお礼をしよう。
 甘いものを奢るとか、そういう感じで。

 その後、一人になりアニスの書に目を通す。

 アニスの書は古代文字で書かれていた。
 エリゼが難しいというのも納得だ。

 でも、俺はまったく問題がない。

 というのも、古代文字というのは500年前……前世の頃の文字なのだ。
 俺にとって見慣れた文字なので、翻訳する必要はなくて、解読に苦労することもない。
 サラサラと読み進めることができた。

「ふむふむ」

 夢中になってアニスの書を読む。
 魔法に関する様々な知識が詰め込まれていて、とても興味深い。
 これ一冊読むだけで、普通の魔法使いならかなりレベルアップできるのでは?

 ものすごく持ち帰りたい。
 でも、さすがに無理だよな。

 後でメルにも見てもらって、内容を覚えてもらおう。
 それなら問題ないはずだ。

 『魔力収束の研究とその結果について』

 アニスの書によると、世界に満ちている魔力は常に一定量であり、増減することも減少することもないらしい。
 その魔力を使い、人々は魔法を発動させる。

 ただ……絶対量が決まっている。
 そのため、魔法を使う人が多ければ多いほど、世界に満ちる魔力が減ってしまう。

 世界に満ちる魔力を100として、魔法使いが百人いたとする。
 そうなると、一人につき、1しか魔力を使用することができない。

 それは非効率的であり、無駄だ。
 誰もが優秀な魔法使いというわけではない。
 才能のないものが魔法を使うことは魔力の無駄遣いであり、才能ある者の成長、活動を妨げている。

 そのようなことは許されない。
 魔法は才能ある者だけが使うべきであり、そうでない者は排除されないといけない。
 正しい力は正しい者のために。
 それが魔法の本来ある使い方である。

 ……なんてことが書かれていた。

「アニスって、かなり過激な思想の持ち主だったんだな」

 ある意味で、選民思想だ。
 前世でこんなことを発表したら、とんでもない騒ぎになっていたぞ。

「うん? これは……」

 読み進めていくと、気になる記述を見つけた。

『……はもう終わりだ。……失敗した。もう一人の……止められない。後世のために……』

 ここから先、ところどころ文字がかすれていて、ちゃんと読むことができない。
 消えているところは想像で補うしかないな。

「ここ、文字が微妙に違うような……?」

 別人が書いているという感じはしない。
 ただ、文字のクセが微妙に異なる気がする。

「大体、500年前の記述か……」

 さらに読み進めていく。

『絶滅は……いけば、避けられるかもしれない。ただ、そのためには魔法を……して、女性のみにしなければならない。なぜなら、女性は子供を残すことができるからで……故に……構造を改革して……書き換えることにした』

「……なんか、さらりと重大なことが書かれているような気がするな」

 女性のみにしなければならない。
 これは、もしかして、魔法のことを差しているのでは?

「後に書かれている文章から推理すると……」

 男性と女性の違いはなにか?
 身体的特徴や外見的特徴。
 色々なものがあるけれど……

 もっとも大きな部分は、子供を作ることができるかどうか、という点にあると思う。
 極端な話、女性がいなければ子孫を残すことができず、人間は絶滅してしまう。

 故に、女性に力を残したのではないか?
 力……魔法を。

 女性だけが魔法を使えるようにした。
 そうすればより強い魔法を使うことができる。
 生き延びる可能性が高くなる。

 まとめると……

 500年前の災厄を生き延びるために、女性だけが魔法を使えるようにして、生き延びる確率を上げた。
 それが功を奏して、人類は絶滅することなく、その種を今に繋げることができた。

「けっこう大胆な予想だけど……こう考えると、わりと辻褄は合うんだよな」

 500年前。
 女性に力を集中させることで、人類は災厄を生き延びることができた。
 ただ、代償として男性は魔法を使うことができなくなった。

 俺が魔法を使えるのは、転生したから。
 女性だけに、っていう方法を実行する前に消えたから、その範囲外なのだろう。

「妙なところで俺の謎が解けたな、うん」