「魔法って……うん? キミはなにを言っているんだい? 特定の書物を探す魔法なんてないだろう?」

 メルが不思議そうな顔をした。

 確かに、メルの言う通り特定の書物を探す魔法なんてものはない。
 今の時代だけではなくて、転生前の時代でもそんな魔法はなかった。

 でも、ないなら作ればいい。

「ちょっと工夫すれば似たようなことができる」
「え?」
「見てろ」

 集中。

 探知系の魔法の構造式を思い浮かべた。
 ただ、そのまま発動することはない。
 構造式そのものに手を加えていく。

 対象を生命体ではなくて、無機物に変更。
 書物。
 その上で、術者が望む条件を満たすようにする。

 ついでに、似たようなものもヒットするようにした。
 ピンポイントで絞り込むと、目的のものが意図せず外れてしまうことがあるからな。

 で、最後に『魔法』としての形を組み立ててやる。
 これはパズルのようなものだ。
 構造式と魔力を重ね合わせていき、一つの形にする。

「よし、完成だ。名付けるなら……検索<サーチ>といったところかな? 条件に従い、目的のものを探すことができる。ピタリと条件に当てはまるもの以外もヒットして、効果範囲はそれほど広くないけど、ないよりはマシだろう」
「えぇ……」

 説明をすると、メルが顔をひきつらせた。

「どうしたんだ?」
「魔法の構造式に手を加えて、新しい魔法を作り出すとか、ありえないんだけど……どうしてそんなことができるわけ?」
「特訓」

 これ、転生前からしていることだから、俺にとっては当たり前のことなんだよな。
 まあ、他の連中も同じようなことができていたかというと、怪しいところではあるが。

「うーん、さすが賢者。ついつい忘れがちだけど、そのとんでもない力、改めて思い知ったよ。よっ、なんでも賢者」
「そこはかとなくバカにされている気がするな……」

 ジト目を向けると、メルはごまかすように口笛を吹いた。

「この魔法で昔の書物を探そう。まあ、それが当たりとは限らないが……闇雲に探すよりはずっとマシだろう」
「うん、了解」

 俺が魔法を使い、メルが目的の本を持ってくる。
 その繰り返しで、1時間ほどで三十冊の本を集めることができた。

「これらが450年前の書物か」
「本は失われたと思ってたんだけど、意外と残っているものなんだね」
「たぶん、その時に起きたことを未来に伝えようとしたんだろうな。必死に守ってきたんだと思う」

 本の外装はかなり適当で、一見すると子供の落書き帳に見える。
 ただ、中は文字でびっしりと埋め尽くされていた。

 外装などにこだわる余裕はなくて、ただただ情報を詰め込もうとした結果、こうなったのだろう。
 当時の必死な想いが伝わってくる。
 未来を想い、書き記したのだろう。

 それを思うと、少し胸が熱くなった。

「ものすごく濃い内容だな。これ、全部読めるかな?」

 みんなで手分けすれば、ある程度は進められるだろうけど……
 魔王のことは秘密にしておきたい。
 というか、あんなものに関わってほしくない。

 伏せたまま協力してもらうことは難しい。
 俺とメルでなんとか読破するしかないか。

「あ、時間のことは心配しないでいいよ」
「なにか考えが?」
「まあね♪」

 メルは得意そうに笑い、パラパラと本をめくる。
 一ページ1秒ほど。
 まともに読んでいるとは思えないが、メルの視線は本に集中していて、忙しなく動いていた。

 なにをしているのか気になるが、メルはすごく集中している様子で声をかけづらい。
 とにかく待つことにしよう。

 そして、1時間後。

「んー……終わり!」

 全ての本を置いて、メルがぐぐっと伸びをした。

「ふうううぅ、これでバッチリだよ!」
「なにが?」
「この本に書かれていること、全部記憶したから」
「……本気で言ってるのか?」

 パラパラと流し見しただけなのに、全部記憶したって……
 どんな記憶回路を持っているんだ、コイツは?

 世の中には、完全記憶能力とかそういう能力を持つ人がいるけれど……
 そういう人達でも、本に書かれていることを記憶するためには、しっかりと読み込まないといけないはずだ。
 メルはただ単に、パラパラとめくっていただけ。

「これがボクの特殊能力なんだ。どんなものでも一目見ただけで記憶することができるの! 完全記憶能力の上位互換かな」
「すごいな……そんな能力を持っていたのか」
「ウソなんだけどね」
「コノヤロウ」

 睨みつけると、メルは適当に笑う。

「冗談だよ、冗談」
「あのな……ふざけるのはその性格だけにしてくれ」
「りょーかい。って……あれ? ボク、今ディスられた?」
「さてな」

 ちょっとした仕返しだ。

「結局、どういうことなんだ? ちゃんと覚えたのか?」
「それは大丈夫。ボクも魔法を使ったんだよ」
「魔法を?」
「一度見た映像を頭の中に焼きつけて、記憶する魔法。完全記憶能力の上位互換、っていうのもあながちウソじゃないんだよね」
「そんな魔法があるのか……」
「ボクのオリジナルだけどね」

 メルはドヤ顔をしてみせた。

 初見は神秘的な感じがしていたが……
 こうして話をしてみると、わりと調子のいいところがあるな。

「まあ、記録した映像は脳内再生するしかないから、自分以外の人は見ることができないっていうこと。それと、魔力の消費量が半端ないから、長時間の使用は困難で、全ての記録を再生するには時間がかかるっていう問題点があるんだけどね」
「それでも、十分にすごいと思うぞ」
「えへへー、でしょ? ボクってすごいでしょ? とはいえ、さすがに疲れたよ。残り時間、ボクはゆっくりしているよ。悪いけど後はお願い」
「わかった、後は任せておいてくれ」
「任せました」

 茶化すように言って、メルは近くの椅子に座り、テーブルの上にぐでーとなった。
 そのまま寝息を立てる。

「さて……みんなの様子を見てみるか」

 エリゼのところに行こう。
 最近、放置気味だったからな。
 ここで構わないと、さらに膨れてしまいそうだ。

「エリゼ」

 エリゼはすぐに見つけることができた。

「あっ、お兄ちゃん」
「なにかおもしろい本でも見つけたか?」
「はい。とても興味深いものを見つけました」

 エリゼに本のタイトルを見せてもらう。

 『アニスの書』

 アニス……それは、魔法を生み出したといわれている始祖魔法使いの名前だった。