学院を後にして、街へ。
 中央通りを進み、国の関連施設が建ち並ぶ区画へ移動した。

「この先に禁忌図書館があるわ!」

 そう言って道案内を務めるのは、シャルロッテだ。

 今日は、彼女の力を借りて、禁忌図書館に入ることになっている。
 すでに申請済みで、許可も問題なく降りたらしい。

 シャルロッテにお願いしてよかった。

 ただ、まあ。
 あの告白については予想外すぎて、どうしたらいいものか……

 一応、すぐに返事をしなくていい、とは言われている。
 しかし、真面目に考えないといけない。
 とはいえ、恋愛経験値ゼロの俺にとって、かなりの難問であることは間違いなくて、どうしたらいいものか……

「お兄ちゃん?」
「えっ」
「どうしたんですか? なんだか、すごく難しい顔をしています」
「えっと……いや、なんでもないよ」

 今は考えないことにしておこう。

 ちなみに、今日はエリゼ達も一緒だ。
 話をしたら、一緒に行きたい、と言われてしまった。
 幸い、同行人数に問題はなかったため、みんなで禁忌図書館へ行くことに。

「ここが入り口よ」

 そう言って、シャルロッテは転送用の魔法陣が設置されている建物を指差した。

 禁忌図書館は機密だらけ。
 なので、どこに建てられているのか秘密となっている。
 秘密を守るために、移動手段は転移魔法陣が使用されているのだ。

「よし、いくか」

 俺達は魔法陣を使い、禁忌図書館へ移動した。

「へぇ……ここが禁忌図書館か」

 普通の図書館は、大きなホールの中に無数の本棚が整然と並べられている。
 でも、ここは雑然としていた。
 規則的に本棚が並べられているということはなくて、片っ端から手当たり次第、乱雑に詰め込んだという印象を受ける。

 そして……とんでもなく広い。

 建物の中央は吹き抜けになっていて、上の階が見えた。
 十階くらいはあるだろうか?
 巨大な空間に数えきれないほどの本棚が並んでいるのが見える。

「わぁ、すごいですね……」
「ほんと。まさか、これほどの書物が収められているなんて思ってもいなかったわ」
「ふむ。興味深いわね……これ、勉強の役に立つかしら?」
「つ、ついつい一緒に来てしまいましたが、このようなところに、私も来てよかったんでしょうか……?」

 みんな、思い思いの反応を示していた。
 そんな中、メルはというと……

「いいね、いいね! うん。これは、心が踊るよ。ワクワクするよ! うわー、すごい楽しみだよ!」

 めっちゃ笑顔だった。
 子供のように瞳をキラキラと輝かせていた。

「なあ、メル」
「うん? どうしたんだい?」
「お前、本が好きだったんだな」
「もちろんさ!」

 ものすごくいい笑顔で肯定された。

「本は、人類が生み出した叡智の塊。そして、至高の発明品さ。たった一冊の本に、ありとあらゆる知識、あるいは物語が詰め込まれている。例えば、小説。極端にいえば文字の無作為な羅列に過ぎないのに、人の心を動かして、時に人生観を変えてしまうほどの物語が詰め込まれている。素晴らしいと思わないかい? そして、研究書。先人達の積み重ねが一冊に集約されていて、そして、それがまた未来へ紡がれていく。素晴らしいね! このように本というものは……」
「うん、わかった。わかったから、少し落ち着いてくれ」
「むう」

 まだ語り足りない、という様子でメルは頬を膨らませた。

 同じ転生者ということで、もっと大人なイメージがあったのだけど……
 趣味を語る時は子供のようだ。

 まあ、俺も同じようなものか。
 魔法を語る時は、こんな風になっていると思う。

「本が好きなのはわかったけど、本来の目的を忘れないでくれよ?」
「わ、わかっているさ。うん。もちろん、忘れていないとも」

 ちょっと忘れていそうな反応だった。

「とはいえ……」

 メルが、ぐるりと図書館内を見回した。

「これはちょっと骨が折れそうだね……まさか、ここまでとは」

 たらりと汗を流していた。

 禁忌図書館に入ればなんとかなると思っていたらしいが……
 さすがにこの本の量は想定外だったらしい。

「うーん、どうしようか? みんなで手分けしてみるかい?」
「バカ言うな。魔王のことをみんなに教えるわけにはいかないだろ。かといって、遠回しに伝えても、ちゃんと目的の書物にたどり着けるかわからない」
「なら、虱潰しに探すしかないのかな?」
「もっと良い方法がある」
「え?」
「魔法で探せばいい」