「やあやあ、無事にボクの依頼を達成してくれたみたいでうれしいよ」

 後日。
 寮の部屋で、にこにこ顔のメルに話しかけられた。

 シャルロッテとクラリッサさんの件がうまくいったことを知ったのだろう。
 エリゼとアラム姉さんには話したけど、他はまだ。
 どこで知ったのやら。

「言っておくけど、まだわからないからな。クラリッサさんに認められたものの、シャルロッテの権限で禁忌図書館に入れるかどうか」
「その時は、クラリッサさんにお願いすればいいんじゃないかな? 未来の婿殿のお願いなら、無下にはされないさ」
「理由を聞かれたら、どうごまかせばいいんだよ?」
「それこそ適当で問題ないよ。もっと魔法のことを知りたいとか、そういうことで納得してもらえると思うよ」
「いけるのかねえ……」
「いけるさ。というか、いけるようにしてもらわないと困るよ」
「わかっている」

 魔王に関する手がかりをなんとしても手に入れなければいけない。

 現状、後手後手に回ってしまっている。
 貴重な情報を手に入れることで、この辺りで、先手を打ちたいところだ。

「まあ、うまく許可が降りたとしても、1日か2日が限度だ、って言っていたな」

 シャルロッテ曰く……

 ブリューナク家なら、確かに禁忌図書館の立ち入りが許可される。
 しかし、自由に行動できるわけではないし、色々な制限がかかる。
 時間も限られている。

 こんな状況で魔王について調べることができるのだろうか?

「はいはい、暗い顔をしない。禁忌図書館に入れる可能性ができただけでも奇跡みたいなものなんだから。それ以上を求めるというのは欲張りというものじゃないかな?」
「その通りかもしれないが、メルに言われるとなんとなくむかつくな」
「酷いよ。ボクがなにをしたのさ?」
「なにもしてないからむかつくんだろ」

 コイツ、別の方向からアプローチしてみると言っていたが……
 結局、なんの成果も出なかったらしいからな。

 俺はシャルロッテの彼氏役をしたり、クラリッサさんとガチバトルをしたり、色々と苦労したというのに……
 少しは文句を言いたくなる。

「まあまあ、細かいことを気にしていたら疲れるよ?」
「まったく……」
「それで、ボクらはいつ禁忌図書館に?」
「明後日。昼は学院があるから、放課後だな」
「学院なんてサボればいいんじゃないかな?」
「そんな目立つようなことはしたくない」
「真面目だね」
「メルが不真面目なんだよ」

 やれやれとため息をこぼす。

「それで、どうするんだい?」
「放課後、学院の裏口で」
「表じゃないの?」
「他の面子にバレたら面倒なことになる。私も行く、とか言い出しそうだからな」
「なるほど、了解したよ」



――――――――――



 そして、放課後。
 裏口に移動すると……

「やあ」

 以前と同じように、にこやかに笑うメルの姿が。
 でも、彼女だけじゃない。

「むぅううう……」
「あら、遅いじゃない」
「まあ、約束の時間はまだだから、問題ないわ」
「あ、あのあの……えと、その……あううう」
「レン、あなたが最後よ。まったく、レディを待たせるなんてなっていませんわね」

 なぜか、エリゼとアリーシャとアラム姉さんフィアがいた。
 シャルロッテがいないと禁忌図書館に入れないから、それは仕方ないとして……
 他のメンバーは?

「おい、どういうことだ?」

 シャルロッテを睨みつけるが、彼女は小首を傾げる。

「あら? みんなで行くのではありませんの?」
「そんなこと、一言も言ってないんだけど」
「ですが、みなさんに色々と協力してもらっての結果ですわ。それなのに、みなさんを放置するのは、いささか不義理だと思うのですが」
「うっ」

 もっともな正論だ。

「お兄ちゃん!」

 エリゼが頬を膨らませて、ものすごいジト目を向けてきた。
 まずい。
 これはものすごく不機嫌な時の合図だ。

「シャルロッテさんの彼氏役をするだけじゃ飽き足らず、今度は内緒のデートに繰り出そうとするなんて……しかも、メルさんと一緒! 三人、両手に花! むう、むうううっ! お兄ちゃんはいつから女たらしになったんですか!」
「い、いや、これはデートとかそういうんじゃなくて……」
「言い訳無用です!」
「はい……すみません……」

 拗ねた妹に勝てる兄なんていない。
 俺は素直に頭を下げて、みんなの同行を認めるのだった。