エル師匠との別れから一週間。
「……」
特になにをするわけではなくて、俺は自室でぼーっと過ごしていた。
エル師匠の言葉が胸に引っかかっている。
一人になるな。
孤独を恐れろ。
絆を結べ。
「そんなもの……」
強くなるために必要なのだろうか?
切り捨ててしまった方が効率的なのではないか?
そう考えるものの……
でも、最後にエル師匠と握手を交わした、あの温かさを忘れることはできない。
あの時に得た温もりは、正直、強くなることと関係はないだろう。
それでも、とても大事なもののような気がして……
「ふう」
俺は、今日も頭を悩ませていた。
――――――――――
迷いを抱いた時は、体を動かすに限る。
そんなわけで、俺は、トレーニングの一環として家の周りを走っていた。
「ふう」
十周したところで足を止めて、肩にかけておいたタオルで汗を拭う。
「気晴らしにはなったかな」
思い切り汗をかいたことで、いくらかスッキリした。
悩みや迷いが消えたわけではないが……
今すぐに解決しないといけないものでもない。
ゆっくりと考えていこう。
そう割り切ったところで、家の中へ戻り、シャワーを浴びる。
ラフな格好になったところで、キッチンで冷たい水をもらい、一気飲み。
それから自室へ……
「あ……お兄ちゃん」
エリゼの部屋の扉が開いて、妹が顔を見せた。
「おはよう、エリゼ」
「はい……おはよう、ございます……」
そう応えるエリゼは元気がない。
よく見てみると、顔色も良くない。
「どうしたんだ、エリゼ? なんだか元気がないみたいだけど……風邪か?」
「わからないです……なんだか、体が重くて……頭もぼーっとして……」
「大丈夫か?」
「大丈夫……です……」
エリゼは強がるように笑って見せて……
しかし、それは長続きせず、苦しそうに顔を歪ませる。
そして……
ドサリ、と倒れてしまう。
「エリゼっ!!!?」
悲鳴をあげるのなんて、いつ以来だろう……?
――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ベッドの上でエリゼが苦しそうに息をこぼしていた。
その顔は赤く、高熱があることがうかがえる。
あの後……
エリゼをベッドに運び、すぐに父さんと母さんを呼んだ。
それからすぐに医者がやってきて、エリゼを診てくれる。
「むぅ……」
エリゼを診た医者は、難しい顔をした。
「うちの娘はどうなんですか!?」
「……ここではなんですから、別の部屋でお話しましょう」
医者の言葉で、俺達家族は別室に移動した。
一応、アラムもいる。
「エリゼは大丈夫ですよね? ただの風邪とか疲労とか、そういうものですよね?」
別室に移動すると、真っ先に母さんがそう尋ねた。
それに対して医者は、難しい表情を返す。
「残念ですが……そういう軽いものではありません。高熱に手足の痺れ、呼吸障害……あの症状は、オロゾ病に間違いないでしょう」
「そ、そんな……」
「エレン!」
ショックを受けた様子で母さんがよろめいて、父さんが慌てて支えた。
そのまま、父さんは母さんを椅子に座らせる。
「父さん、オロゾ病って……?」
魔法に関する勉強ばかりしていたせいで、一般知識が疎くなっていた。
これは反省点だな。
「……厄介な病気だ。女性にだけかかる病気のため、魔法となにかしらの因果関係があるのではないかと言われているが、まだ解明されていない」
「症状は?」
「高熱と体の痺れが続いて……やがて、死に至る」
「そんな……」
エリゼが死ぬ?
思いもしなかったことを言われて、一瞬、頭が真っ白になってしまう。
「お父様っ、治療方法は!?」
アラムが俺の聞きたいことを代わりに聞いてくれた。
最近はおとなしかったアラムだけど、エリゼのピンチとあって、元気を取り戻したみたいだ。
「それは……」
「オロゾ病の治療方法は……ありません」
「……え? え?」
「オロゾ病にかかる人は滅多にいない。それ故に研究が進まず、治療方法が確率されていない。未知の部分が多い病なんだ。だから……どうすることもできない」
「そんな……」
それは、つまり……
このままだと、エリゼは死んでしまう?
その時のことを想像して、どうしようもない絶望感と無力感に襲われた。
なぜだろう?
俺の目的は魔王に勝つこと。
そのために、わざわざ転生をして、魔王が逃げたと思われるこの時代まで追いかけてきた。
魔王に勝利することが至上の目的で……
言ってしまえば、他のことはどうでもいい。
家族ができたものの、俺の目的に絡んでくることはない。
どうでもいい。
その……はず、だったのに……
「……くっ!」
どうして、こんなにも無力感を味わうのだろう?
どうして、こんなにも心がざわつくのだろう?
イヤだ。
エリゼに死んでほしくなんてない。
生きてほしい。
また、あの笑顔を見せてほしい。
そんな想いが次から次に湧き上がってきた。
「だが、まだ希望はある」
なにかしら考えがあるらしく、父さんはそう言った。
「どんな病も直してしまう、伝説の霊薬……エリクサーだ。それがあれば、エリゼを治すことができる」
「でも、父さん。伝説なのに手に入れることができるんですか?」
「街の外にあるダンジョンにあると聞いている。未踏破のダンジョンなので、危険は大きいが……しかし、この際、そのようなことは気にしていられない」
父さんは、危険を気にすることなく、ダンジョンへ潜るつもりなのだろう。
それに対して、俺は……どうする?
「……」
特になにをするわけではなくて、俺は自室でぼーっと過ごしていた。
エル師匠の言葉が胸に引っかかっている。
一人になるな。
孤独を恐れろ。
絆を結べ。
「そんなもの……」
強くなるために必要なのだろうか?
切り捨ててしまった方が効率的なのではないか?
そう考えるものの……
でも、最後にエル師匠と握手を交わした、あの温かさを忘れることはできない。
あの時に得た温もりは、正直、強くなることと関係はないだろう。
それでも、とても大事なもののような気がして……
「ふう」
俺は、今日も頭を悩ませていた。
――――――――――
迷いを抱いた時は、体を動かすに限る。
そんなわけで、俺は、トレーニングの一環として家の周りを走っていた。
「ふう」
十周したところで足を止めて、肩にかけておいたタオルで汗を拭う。
「気晴らしにはなったかな」
思い切り汗をかいたことで、いくらかスッキリした。
悩みや迷いが消えたわけではないが……
今すぐに解決しないといけないものでもない。
ゆっくりと考えていこう。
そう割り切ったところで、家の中へ戻り、シャワーを浴びる。
ラフな格好になったところで、キッチンで冷たい水をもらい、一気飲み。
それから自室へ……
「あ……お兄ちゃん」
エリゼの部屋の扉が開いて、妹が顔を見せた。
「おはよう、エリゼ」
「はい……おはよう、ございます……」
そう応えるエリゼは元気がない。
よく見てみると、顔色も良くない。
「どうしたんだ、エリゼ? なんだか元気がないみたいだけど……風邪か?」
「わからないです……なんだか、体が重くて……頭もぼーっとして……」
「大丈夫か?」
「大丈夫……です……」
エリゼは強がるように笑って見せて……
しかし、それは長続きせず、苦しそうに顔を歪ませる。
そして……
ドサリ、と倒れてしまう。
「エリゼっ!!!?」
悲鳴をあげるのなんて、いつ以来だろう……?
――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ベッドの上でエリゼが苦しそうに息をこぼしていた。
その顔は赤く、高熱があることがうかがえる。
あの後……
エリゼをベッドに運び、すぐに父さんと母さんを呼んだ。
それからすぐに医者がやってきて、エリゼを診てくれる。
「むぅ……」
エリゼを診た医者は、難しい顔をした。
「うちの娘はどうなんですか!?」
「……ここではなんですから、別の部屋でお話しましょう」
医者の言葉で、俺達家族は別室に移動した。
一応、アラムもいる。
「エリゼは大丈夫ですよね? ただの風邪とか疲労とか、そういうものですよね?」
別室に移動すると、真っ先に母さんがそう尋ねた。
それに対して医者は、難しい表情を返す。
「残念ですが……そういう軽いものではありません。高熱に手足の痺れ、呼吸障害……あの症状は、オロゾ病に間違いないでしょう」
「そ、そんな……」
「エレン!」
ショックを受けた様子で母さんがよろめいて、父さんが慌てて支えた。
そのまま、父さんは母さんを椅子に座らせる。
「父さん、オロゾ病って……?」
魔法に関する勉強ばかりしていたせいで、一般知識が疎くなっていた。
これは反省点だな。
「……厄介な病気だ。女性にだけかかる病気のため、魔法となにかしらの因果関係があるのではないかと言われているが、まだ解明されていない」
「症状は?」
「高熱と体の痺れが続いて……やがて、死に至る」
「そんな……」
エリゼが死ぬ?
思いもしなかったことを言われて、一瞬、頭が真っ白になってしまう。
「お父様っ、治療方法は!?」
アラムが俺の聞きたいことを代わりに聞いてくれた。
最近はおとなしかったアラムだけど、エリゼのピンチとあって、元気を取り戻したみたいだ。
「それは……」
「オロゾ病の治療方法は……ありません」
「……え? え?」
「オロゾ病にかかる人は滅多にいない。それ故に研究が進まず、治療方法が確率されていない。未知の部分が多い病なんだ。だから……どうすることもできない」
「そんな……」
それは、つまり……
このままだと、エリゼは死んでしまう?
その時のことを想像して、どうしようもない絶望感と無力感に襲われた。
なぜだろう?
俺の目的は魔王に勝つこと。
そのために、わざわざ転生をして、魔王が逃げたと思われるこの時代まで追いかけてきた。
魔王に勝利することが至上の目的で……
言ってしまえば、他のことはどうでもいい。
家族ができたものの、俺の目的に絡んでくることはない。
どうでもいい。
その……はず、だったのに……
「……くっ!」
どうして、こんなにも無力感を味わうのだろう?
どうして、こんなにも心がざわつくのだろう?
イヤだ。
エリゼに死んでほしくなんてない。
生きてほしい。
また、あの笑顔を見せてほしい。
そんな想いが次から次に湧き上がってきた。
「だが、まだ希望はある」
なにかしら考えがあるらしく、父さんはそう言った。
「どんな病も直してしまう、伝説の霊薬……エリクサーだ。それがあれば、エリゼを治すことができる」
「でも、父さん。伝説なのに手に入れることができるんですか?」
「街の外にあるダンジョンにあると聞いている。未踏破のダンジョンなので、危険は大きいが……しかし、この際、そのようなことは気にしていられない」
父さんは、危険を気にすることなく、ダンジョンへ潜るつもりなのだろう。
それに対して、俺は……どうする?