ひょんなことから、シャルロッテと一緒に寝ることになってしまった。
 まともに眠れるのだろうか? なんて心配を抱いていたのだけど……
 クラリッサさんとの戦いで疲れていたらしく、目を閉じるとすぐに夢の中へ旅立つことができた。

 そのままぐっすりと眠り、そして翌朝。

「んんんぅ……んやぁ」

 苦しさを感じて目を覚ますと、シャルロッテに抱きしめられていた。

「っ!?」

 慌てて離れようとするが、がっちりとホールドされていて抜け出せない。
 たぶん、シャルロッテはぬいぐるみかなにかと勘違いして、俺を抱きしめているんだろう。

 やばい、こんな状況でシャルロッテが目を覚ましたら……

「痴漢ですわ、死刑よ!」

 ……なんて感じで、攻撃魔法を連打するに違いない。

 そんなバイオレンスな朝はごめんだ。
 朝は小鳥のさえずりで起きて、ゆっくりと紅茶を飲みたいんだ。
 そんなのんびりとした朝が好きなんだ!

 俺はそっとシャルロッテの抱きしめから逃げようとするが……

「ん……んぅ?」

 シャルロッテが目を開けた。

 終わった。
 悲鳴と怒号が響き渡ることを覚悟して、俺は思わず目を閉じるが……

「ふわぁ……もう朝なのね。おはよう、レン」
「え?」
「なによ、朝はちゃんと挨拶しないとダメよ。ほら、もう一度。おはよう」
「お、おはよう……?」

 どういうことだ?
 怒っていない?

 ものすごく平然としているのだけど……なぜ?
 これじゃあ、一人、慌てている俺がバカみたいじゃないか。

「えっと……」
「あら、ごめんなさいね。レンのこと、ぬいぐるみと勘違いして抱きしめていたみたい」

 シャルロッテがさらりと言って、俺を離した。

「どうしたの、ぽかんとして?」
「……いや、なんでもない」

 これはつまり……
 俺のことはそういう目で見ていない、ということか?

 ほっとしたような……
 でも、ちょっとモヤモヤするような……
 とても複雑な気分だった。



――――――――――



「あ、あ……危ないですわ……目が覚めたらレンが目の前にいるとか、なんていうドキドキで、心臓が止まってしまうかと思いましたわ。ああ、もう。わたくし、今、すごく顔が熱くて、まだ、ドキドキしてて……ど、どうにかしていつも通りに戻らないと!」



――――――――――



 一週間は七日。
 そのうち五日は学院に通い、残りニ日は休日だ。

 最初の休日を使い、シャルロッテの家を尋ねた。
 そこで終わりになる予定だったのだけど、思いの外クラリッサさんに気に入られてしまい、そのまま泊まることに。
 そうして、二日目もシャルロッテの実家で過ごすことになった。

 寮に戻ったら、みんなにあれこれと問い詰められそうだ。
 エリゼとか、ものすごく拗ねていそうで怖い。
 なにげにアリーシャも怖い。
 あと、アラム姉さんとか、笑顔で問い詰めてきそうで怖い。

 ……俺の周りにいる女性、怖い人多くないか?

 まあ、今はそのことは考えないでおこう。
 単なる逃避なのだけど、それくらいは見逃して欲しい。

 休日二日目もシャルロッテと一緒に過ごすことになり、俺達は街へ繰り出した。
 クラリッサさんに舞台のチケットをもらったのだ。

 恋人という設定もあるが……
 せっかくの計らいを無下にすることもできず、素直に舞台を観に行くことにした。

「ふんふふ~ん♪」

 隣を歩くシャルロッテはごきげんだ。
 満面の笑顔で、鼻歌を歌っている。
 いいところのお嬢さまだから、舞台などは楽しみなのだろう。

 そんなシャルロッテは、今日はおめかしをしていた。
 ワンピースタイプの服をベースにケープを重ねるなどして、流行のファッションを取り入れている。

 指輪などの装飾品はないけれど、代わりに、うっすらと化粧をしていた。
 ふわりと香水の匂いもする。

 学院ではこんな姿を見たことがないから、とても新鮮だ。
 シャルロッテのかわいらしさが引き出されていて、ついつい目がいってしまう。

「どうかいたしまして? わたくしの顔、なにかついています?」
「いや、なにも」
「そう? ならいいけど」

 よかった。
 俺がドキドキしていることに、シャルロッテは気がついていないみたいだ。
 もしも気がついたら、面倒なことになるだろうな。

 わたくしに見惚れるなんて仕方のない子。
 でも、それは恥じることじゃないですわ。
 なぜなら、あたしは超絶美少女なのですから!

 ……とか言いそうだ。

「シャルロッテは舞台が好きなのか?」

 このままシャルロッテをちらちら見ていたら、本当にバレてしまうかもしれない。
 ごまかすために適当に話を振る。

「いえ、そんなに好きではありませんわ。どちらかというと、退屈に感じてしまいますわね。眠くなってしまいます」
「そうなのか? なら、どうしてそんなに機嫌が良さそうなんだ?」
「え?」
「え?」

 互いにきょとんとした。

「わたくし、機嫌が良さそうでした?」
「ものすごく」
「それは……ふふ。レンとのデートが思っていたよりも楽しみだったのかしら?」
「ぐはっ」

 予想外の一撃に、思わず咳き込んでしまう。
 俺とのデートが楽しみなんて。
 それじゃあまるで、俺達が本物の彼氏彼女の関係みたいじゃないか。

 そう言うと、

「んー……それも悪くないかもしれませんわね。ふふっ」

 シャルロッテは絶妙なセリフを口にして、小悪魔的に笑うのだった。