「テストはこれからですよ!」

 クラリッサさんは炎剣を大きく横に薙いで、俺と距離をとる。

 こちらの追撃を防いだところで、炎剣を消す。
 そして、改めて魔力を練り上げていく。

 ブワッと、空気が震えたような気がした。

 今までにない強烈な一撃が来る。
 そう予感した俺は、判断に迷う。

 先制攻撃をして、潰すか。
 あるいは、防御に専念するか。

「さあ、これはどうですか。雷神槌<トールハンマー>!」
「いっ……!?」

 クラリッサさんが唱えたのは、上級魔法だ。
 風属性に含まれている。
 使用者の力量にもよるが、岩を砕いて溶かすこともある。

 決して個人に使うような魔法ではなくて、戦場で多くの敵を相手にする時に使うような魔法だ。

 無数の雷撃が雨のように降り注ぐ。
 それらは圧倒的な暴力となり、光の濁流が襲いかかってきた。

 まずい。
 防ぐことはもちろん、避けることも叶わない。

 ここは……

「氷紋爆<ダイヤモンドノヴァ>!」

 上級魔法で迎撃した。

 大地が隆起して、氷の塊が飛び出してきた。
 氷河時代に逆戻りしたかのように辺り一面が白くなり、氷塊が嵐となって吹き荒れる。

 氷と雷。

 その二つが激突して、バチバチバチィ! という激音が響いた。
 耳を刺すような刺激。
 思わず顔をしかめてしまう。

 でも、そんなことは気にしていられない。
 魔法の維持に集中して、クラリッサさんの魔法を必死に抑え込む。

 ほどなくして……

 俺の氷がクラリッサさんの雷を打ち砕いた。
 それだけで終わらず、無数の氷撃が彼女を飲み込む。

 幾重にも幾重にも、その体を包み込んで……
 最終的に、家一軒ほどもある巨大な氷の中にクラリッサさんを閉じ込めることに成功した。

「……ふぅううう」

 な、なんとか勝てた……

 かなり危ういところだった。
 まさか、ここまでの実力者だったなんて。
 前世の俺に匹敵するほどの強さだ。

 とはいえ、俺も、転生してからのんびり過ごしていたわけじゃない。
 毎日、トレーニングを重ねてきた。
 だからこそ、無事に勝利を掴むことができたのだ。

「レンっ、まだよ!」

 シャルロッテが悲鳴に近い声をあげた。
 何事かと思っていると……

 キィンッ!!!

 氷が砕けて、クラリッサさんが自由を取り戻した。

「うそだぉ……」

 本気の一撃だぞ?
 俺だとしても、まともに直撃したら、10分は動けないぞ?
 それなのに、クラリッサさんはわずか数分で脱出してしまう。

 なんて人だ。
 この力、すさまじい……
 冷や汗が止まらない。

 でも、不思議と俺は笑っていた。

 楽しい。
 楽しい。
 楽しい。

 なんのしがらみもない、自由な戦いで。
 これほどまでの強敵と渡り合うことができる。
 心が踊り、自然と笑顔になってしまう。

 転生して、色々と変わったと思っていたのだけど……
 変わっていないところもあるみたいだ。

「って……そうだ!」

 戦闘に夢中になるあまり忘れていたが、もう5分経っているはずだ。

「5分、経ちましたよね? この勝負、俺の勝ちです」
「……」
「文句なんてありませんよね? まさか、前言撤回なんてしませんよね?」
「……」
「これで、シャルロッテにふさわしい相手と認めてくれますよね?」
「……ええ、そうですね。認めましょう」

 クラリッサさんは静かな声で言う。

 ただ、妙な迫力を感じた。
 例えるなら、嵐の前の静けさというか……
 ピリピリと空気が震えているような気がした。

「その若さで、これほどの力を持つなんて……素晴らしいですね。親バカと呼ばれるかもしれませんが、さすがシャルロッテ。これほどの力を持つレン君を見出すことができるなんて、本当に素晴らしいですよ」

 よかった。
 ちゃんと認めてくれたみたいだ。

 これで終わり……なんて思っていたのだけど。

「ですが……戦いはまだ終わりではありません!」
「え? でも、5分は過ぎて……」
「シャルロッテにふさわしい相手であることは認めましたが、私個人としては、負けを認めていません。認めたくありません。なので、きちんとした決着をつけることにしましょう」

 うわっ、この人、相当な負けず嫌いだ!?
 さすがシャルロッテの母親!

「これほどの力を持つ相手に出会えるなんて、何年ぶりでしょうか……ふふふっ、うふふふふふ♪ 素敵です、素晴らしいです。心が踊ります♪」

 ニヤリ、とクラリッサさんが笑う。
 その顔は、純粋に戦いを楽しんでいるもので……

 やばい。
 この人、生粋のバトルマニアだ。
 シャルロッテが言った、『狂戦士』の意味をようやく理解した。