驚いたことに、ブリューナク家の屋敷には魔法の訓練場があるらしい。
学院にある訓練場をコンパクトにしたような感じだろうか?
結界まで展開できるという優れものだ。
こんな施設を個人で所有しているなんて、シャルロッテは、思っていた以上にすごいお嬢様なのかもしれない。
そんなことを移動中に話してみると……
「まあ、家を褒められて悪い気はしませんが……でも、それはわたくし個人の力で成し遂げたものではありませんわ。わたくしがすごいのではなくて、母様や祖母……ご先祖様がすごいのですわ」
なんて、謙虚な話をされた。
シャルロッテらしく、また一つ、彼女の魅力を知ることができた。
「ですが……将来、わらくしが建てる予定の家の方がすごいですわよ? この屋敷よりも、もっともっとすごい家を建てる予定なのですから。ふふん!」
しっかりと偉そうにするところも忘れず、残念なオチがつくところもシャルロッテらしい。
「さて……ここでレン君の力を試させてもらいます」
訓練場に到着して、先を行くクラリッサさんが足を止めた。
その周りを執事やメイドが慌ただしい様子を見せている。
突然のことに準備が大変なのだろう。
それにしても……
誰かと戦う、ということだったけれど、誰もいない。
もしかして、執事やメイドと?
でも、戦闘に慣れている様子は感じられない。
「えっと……力を試すといっても、なにをするんですか?」
「さきほども言いましたが、実際に、魔法を主にした戦闘を行ってもらい、その実力を測らせてもらいます」
「その相手はどこに?」
「ここにいますよ」
クラリッサさんは、どこか自信にあふれる顔をしながら……自らを指さしてみせた。
なるほど。
つまり、俺はクラリッサさんと戦うわけか。
「って……えええええぇっ!!!?」
思わず大きな声をあげてしまう。
だって、仕方ないだろう?
恋人のフリをして挨拶にきたら、彼女の母親と戦うことになるなんて、そんな展開、誰が予想できるものか。
「どうしたのですか。なぜ、そんなにも驚いて?」
「そ、そりゃ驚きますよ。なんで、クラリッサさんと戦わないといけないんですか……?」
「言ったでしょう。レン君の力を見たいと」
「だからといって、自ら戦おうとしなくても……こういうのって、他の人に任せるのが普通じゃありません?」
「私は、一部を除いて、他人をあまり信用していません。それに、こういう大事なことは、自らの目でしっかりと確かめないと気がすみません。故に、私が戦うのです」
「なるほど……なるほど?」
わかるようなわからないような、微妙な理屈だ。
「なあ……シャルロッテの母親って、ちょっと変わってないか?」
小声でシャルロッテに問いかけた。
しかし、返事はない。
怪訝に思い、その顔を見てみると……
「あわわわ……」
シャルロッテは青い顔をして、カタカタと震えていた。
なんだ、これは?
怯えている? あのシャルロッテが?
「レン……恋人ができました報告作戦、やっぱりやめましょう」
いきなりどうした。
あと、そんなダサい作戦名だったのか。
「母様を相手にするなんて無茶ですわ、無謀ですわ、無理難題ですわ……あぁ、おとなしく本当のことを話して、試合はなしにしてもらいましょう」
「ど、どうしたんだ? もしかして、臆したのか?」
「そうですわね……その通りですわ……」
ちょっとからかうつもりだったのだけど、まさかの肯定。
本当にどうしたんだ?
いつも自信たっぷりのシャルロッテらしくない。
「母様は、ああ見えて国でも有数の魔法の使い手なの。使えない魔法はないと言われていて、わたくしの遅延魔法も母様から教わったもので……国で、ううん。世界でトップクラスの魔法使いですわ」
「へぇ、なるほど。それはそれは……」
実に興味深い。
それほどまでの力を持つのならば、一度、手合わせをしてみたい。
シャルロッテは戦わない方がいいと考えているみたいだが、それは逆効果だ。
俺の好奇心を煽り、その力を見てみたくなる。
前世の悪いクセはまだ残っていたみたいだ。
「レンは、もしかして戦うつもりなのです?」
「そのつもり」
「や、やめておきなさい! いくらレンでも、母様に勝てるわけがないわ。母様は本当にとんでもないのよ?」
「具体的に、どうとんでもないんだ?」
「例を一つあげると……わたくしは、遅延魔法でストックできる魔法は、最大で9。でも、母様は100を越える魔法をストックできますの」
「おおう、それは……」
単純計算で、シャルロッテの11倍の強さだろうか?
そんな単純に計れるものではないから、もっと強いのかもしれない。
「あと、母様は『狂戦士』なんて呼ばれていたことがありますわ」
「ず、ずいぶんと物騒な名だな……」
「戦いになると、文字通り、性格が変わってしまうのですわ。とんでもないバトルマニアで、レンみたいな強い人を見つけると、ものすごい笑顔で戦うのですわ」
「ほうほう」
「公式、非公式な戦いで連戦連勝。負け知らず。1万人を倒してきたと言われています。さすがに相手が悪すぎですわ……今回はやめておきましょう」
「だが断る」
「えぇ!?」
「そんなことを言われたら、逆に戦ってみたくなるじゃないか」
「レンはどういう思考をしているのですか!? わたくしの言っていること、全部本当のことなのに!? ウソでもないし、誇張もしていないのに!?」
「わかっているよ。シャルロッテは、そんなつまらないウソをつくヤツじゃないからな」
「なら、どうして……」
強者と戦うことで、色々と得られるものがある。
より高みへ登ることができる。
そんな理由もあるのだけど、それ以上に……
「ここでやめたりしたら、シャルロッテが困るだろ」
「え……?」
「見合い、なんとかしたいんだろ?」
「そ、それはそうですが……しかし、だからといってレンを母様と戦わせるなんて、そんな無茶をさせるわけにはいきませんわ」
「無茶じゃないさ。たぶん、なんとかなるんじゃないか?」
「……その自信はどこから湧いてくるのですか?」
「男は情けない、って思われてるかもしれないけど……でも、男にもそれなりの意地はあるんだ。女の子の前では格好つけたいものなんだよ」
「……」
シャルロッテがぽかんとした。
驚いているらしく、なにも言葉が出てこないみたいだ。
「安心してくれ。なんとかしてみせるから」
俺は軽く手を振り、クラリッサさんのところへ向かう。
「レンっ!」
背中に声をかけられた。
振り返ると、シャルロッテがじっとこちらを見つめている。
「……勝ってくださいませ。レンは、わたくしが倒すのですから……ですから、まだ他の人に負けたら絶対に許しませんから!」
「わかった。その約束、守るよ」
負けられない理由が一つ、追加されたな。
がんばろう。
学院にある訓練場をコンパクトにしたような感じだろうか?
結界まで展開できるという優れものだ。
こんな施設を個人で所有しているなんて、シャルロッテは、思っていた以上にすごいお嬢様なのかもしれない。
そんなことを移動中に話してみると……
「まあ、家を褒められて悪い気はしませんが……でも、それはわたくし個人の力で成し遂げたものではありませんわ。わたくしがすごいのではなくて、母様や祖母……ご先祖様がすごいのですわ」
なんて、謙虚な話をされた。
シャルロッテらしく、また一つ、彼女の魅力を知ることができた。
「ですが……将来、わらくしが建てる予定の家の方がすごいですわよ? この屋敷よりも、もっともっとすごい家を建てる予定なのですから。ふふん!」
しっかりと偉そうにするところも忘れず、残念なオチがつくところもシャルロッテらしい。
「さて……ここでレン君の力を試させてもらいます」
訓練場に到着して、先を行くクラリッサさんが足を止めた。
その周りを執事やメイドが慌ただしい様子を見せている。
突然のことに準備が大変なのだろう。
それにしても……
誰かと戦う、ということだったけれど、誰もいない。
もしかして、執事やメイドと?
でも、戦闘に慣れている様子は感じられない。
「えっと……力を試すといっても、なにをするんですか?」
「さきほども言いましたが、実際に、魔法を主にした戦闘を行ってもらい、その実力を測らせてもらいます」
「その相手はどこに?」
「ここにいますよ」
クラリッサさんは、どこか自信にあふれる顔をしながら……自らを指さしてみせた。
なるほど。
つまり、俺はクラリッサさんと戦うわけか。
「って……えええええぇっ!!!?」
思わず大きな声をあげてしまう。
だって、仕方ないだろう?
恋人のフリをして挨拶にきたら、彼女の母親と戦うことになるなんて、そんな展開、誰が予想できるものか。
「どうしたのですか。なぜ、そんなにも驚いて?」
「そ、そりゃ驚きますよ。なんで、クラリッサさんと戦わないといけないんですか……?」
「言ったでしょう。レン君の力を見たいと」
「だからといって、自ら戦おうとしなくても……こういうのって、他の人に任せるのが普通じゃありません?」
「私は、一部を除いて、他人をあまり信用していません。それに、こういう大事なことは、自らの目でしっかりと確かめないと気がすみません。故に、私が戦うのです」
「なるほど……なるほど?」
わかるようなわからないような、微妙な理屈だ。
「なあ……シャルロッテの母親って、ちょっと変わってないか?」
小声でシャルロッテに問いかけた。
しかし、返事はない。
怪訝に思い、その顔を見てみると……
「あわわわ……」
シャルロッテは青い顔をして、カタカタと震えていた。
なんだ、これは?
怯えている? あのシャルロッテが?
「レン……恋人ができました報告作戦、やっぱりやめましょう」
いきなりどうした。
あと、そんなダサい作戦名だったのか。
「母様を相手にするなんて無茶ですわ、無謀ですわ、無理難題ですわ……あぁ、おとなしく本当のことを話して、試合はなしにしてもらいましょう」
「ど、どうしたんだ? もしかして、臆したのか?」
「そうですわね……その通りですわ……」
ちょっとからかうつもりだったのだけど、まさかの肯定。
本当にどうしたんだ?
いつも自信たっぷりのシャルロッテらしくない。
「母様は、ああ見えて国でも有数の魔法の使い手なの。使えない魔法はないと言われていて、わたくしの遅延魔法も母様から教わったもので……国で、ううん。世界でトップクラスの魔法使いですわ」
「へぇ、なるほど。それはそれは……」
実に興味深い。
それほどまでの力を持つのならば、一度、手合わせをしてみたい。
シャルロッテは戦わない方がいいと考えているみたいだが、それは逆効果だ。
俺の好奇心を煽り、その力を見てみたくなる。
前世の悪いクセはまだ残っていたみたいだ。
「レンは、もしかして戦うつもりなのです?」
「そのつもり」
「や、やめておきなさい! いくらレンでも、母様に勝てるわけがないわ。母様は本当にとんでもないのよ?」
「具体的に、どうとんでもないんだ?」
「例を一つあげると……わたくしは、遅延魔法でストックできる魔法は、最大で9。でも、母様は100を越える魔法をストックできますの」
「おおう、それは……」
単純計算で、シャルロッテの11倍の強さだろうか?
そんな単純に計れるものではないから、もっと強いのかもしれない。
「あと、母様は『狂戦士』なんて呼ばれていたことがありますわ」
「ず、ずいぶんと物騒な名だな……」
「戦いになると、文字通り、性格が変わってしまうのですわ。とんでもないバトルマニアで、レンみたいな強い人を見つけると、ものすごい笑顔で戦うのですわ」
「ほうほう」
「公式、非公式な戦いで連戦連勝。負け知らず。1万人を倒してきたと言われています。さすがに相手が悪すぎですわ……今回はやめておきましょう」
「だが断る」
「えぇ!?」
「そんなことを言われたら、逆に戦ってみたくなるじゃないか」
「レンはどういう思考をしているのですか!? わたくしの言っていること、全部本当のことなのに!? ウソでもないし、誇張もしていないのに!?」
「わかっているよ。シャルロッテは、そんなつまらないウソをつくヤツじゃないからな」
「なら、どうして……」
強者と戦うことで、色々と得られるものがある。
より高みへ登ることができる。
そんな理由もあるのだけど、それ以上に……
「ここでやめたりしたら、シャルロッテが困るだろ」
「え……?」
「見合い、なんとかしたいんだろ?」
「そ、それはそうですが……しかし、だからといってレンを母様と戦わせるなんて、そんな無茶をさせるわけにはいきませんわ」
「無茶じゃないさ。たぶん、なんとかなるんじゃないか?」
「……その自信はどこから湧いてくるのですか?」
「男は情けない、って思われてるかもしれないけど……でも、男にもそれなりの意地はあるんだ。女の子の前では格好つけたいものなんだよ」
「……」
シャルロッテがぽかんとした。
驚いているらしく、なにも言葉が出てこないみたいだ。
「安心してくれ。なんとかしてみせるから」
俺は軽く手を振り、クラリッサさんのところへ向かう。
「レンっ!」
背中に声をかけられた。
振り返ると、シャルロッテがじっとこちらを見つめている。
「……勝ってくださいませ。レンは、わたくしが倒すのですから……ですから、まだ他の人に負けたら絶対に許しませんから!」
「わかった。その約束、守るよ」
負けられない理由が一つ、追加されたな。
がんばろう。