「やっぱり、恋人といえば距離感よ」

 アラム姉さんは得意そうにそう言った。

 おかしいな?
 アラム姉さんに彼氏がいたという話は聞いたことがないんだけど……
 どうして、そんなに得意そうなんだろう?

「自然と生まれている距離感が大事。そこで距離が開いていたら、不自然に見えて、本当の恋人ではないとバレてしまうと思うわ」
「なら、どうしたらいいんですか?」
「距離感っていうものは、長い時間をかけて作るもの。一朝一夕では難しいわ。だから、せめて物理的に近くなりましょう」

 だから、なんでアラム姉さんはそんなにドヤ顔なのだろう?
 恋愛マスターなのだろうか?
 恋愛をしたことがないはずなのに?

 とにかく。

 アラム姉さんの言う通り、俺とシャルロッテは物理的な距離を近くしてみることにした。
 具体的にどうしたかというと……

「……」
「……」

 肩をぴたりとくっつけて。
 ついでに、手も握り。
 並んで座る。

 これは……恥ずかしいな。
 触れ合うところから、シャルロッテの体温が伝わってくる。
 その温もりが心地良いやら恥ずかしいやら……なんて表現したらいいのだろう?

 こんな経験、初めてだ。
 前世で戦いばかい追い求めていた弊害が、今、やってきていた。

「んー……ちょっと物足りないわね。シャルロッテさん」
「は、はい?」
「もう少し、レンにくっついてくれない? こう、肩に頭を乗せて、甘えるような感じで」
「そ、そのようなことをしなければいけませんの!?」

 シャルロッテが悲鳴のような声をあげた。

「あー……アラム姉さん、いきなりレベルを上げなくても。シャルロッテも、嫌なことは無理にしなくてもいいぞ」
「べ、別にわたくしは、嫌なんてことは……」
「え?」
「な、なんでもありませんわ!」

 嫌じゃないとしたら……
 ……
 なんなんだ?

 考えたけど、シャルロッテの言葉の意味がわからない。

「えっと、その……こ、こうすればよろしいんですの?」

 シャルロッテが、そっと俺の肩に頭を乗せてきた。
 なんだか、警戒心の高い野良猫みたいだ。

 でも、餌付けされたら、とことん甘えてくる。
 そんな感じ。

「二人共、ちょっと表情が固いけど……まあ、そこはおいおい慣れていくでしょう。見た感じは、わりといいわ。うん。こうして見ると、シャルロッテさんも悪くないわね。家柄も見た目も性格も問題ないし、レンのお嫁さんに……」
「ふ、フリですわよ!?」

 暴走を始めるアラム姉さんに、シャルロッテは赤くなりつつ、声を大きくするのだった。



――――――――――



「次は、ボクとフィアの案だよ」

 メルがうきうきで。
 フィアは、おどおどで。

 そんな感じで話を切り出してきた。

「え、えっと……やっぱり、恋人らしさというのは目に出てくると、お、思うんです」
「うんうん、フィアの言う通り! 相手のことを見つめる目! 瞳! そこに愛情が込められていて、優しさも含まれている。それが恋人、っていうものだよね」

 アラム姉さんと同じように、メルはドヤ顔で語る。
 前世では恋愛経験豊富だったのだろうか?

「そんなわけで、じっと見つめ合って。もちろん、ただ見つめ合うだけじゃダメ。相手への想いを込めて、言葉でなくて視線で伝えるように」
「が、がんばってください!」

 言われる通り、シャルロッテと見つめ合う。

「……」
「……」

 視線と視線が交差する。
 しかも、距離が近い。

 なんていうか、これ……
 照れるな。

 ついつい目を逸してしまいそうになるのだけど、

「はい、そこ! しっかりと見つめ続ける」

 メルのチェックが入り、視線を外すことは許されない。

「……」
「……」

 さらに視線を交わしていく。

 なんだか頬が熱い。
 俺、照れているのかな?

 それはシャルロッテも同じかもしれない。
 朱色の頬。
 潤んだ瞳。

 そして……

「お? これは、脈アリかな? どっちが、とは言わないけどね」

 なんて……
 メルは一人、ニヤニヤと笑っていた。