メルと協力関係を結ぶことになり、まず最初に、今後の方針を話し合うことになった。

 最優先しなければいけないことは、魔王の行方を探ることだ。
 ヤツは俺と同じように、この時代に転生しているはず。
 その影がチラホラとしている。

 ただ、その行方は未だにわからない。

 なにを企んでいるのか?
 それはわからないが、ろくでもないことであることは間違いない。
 手遅れになる前になんとかしたいところだけど……

「さて、どうしたものか?」
「やっぱり、魔王の転生体を見つけることを一番に考えるべきじゃないかな?」

 そう意見を求めると、メルはあっさりと言う。

 ここは寮の屋上。
 朝も早いため、他の生徒に話を聞かれる心配はないけど……
 それにしても、わりと簡単に答えを出すんだな。

 俺はけっこう悩むタイプだけど……
 メルは、即決即断なのかもしれない。

「魔王を見つけるのは同意。でも、それをどうするか? あと、それだけでいいのか?」
「って、いうと?」
「500年前もそうだけど……結局、魔王の目的とか正体とか、色々なことが謎のままなんだよな」

 突然現れた世界の脅威。
 恐ろしく強い力を持ち、人類に敵対する存在。

 わかっていることといえばそれだけ。
 その正体や目的。
 人間らしい思考があるのかさえ、わかっていない。

「とはいえ、どこをどう調べればいいか……お手上げ状態なんだよね」
「図書館などの資料は?」
「とっくに調べたよ。でも、手がかりはゼロ」
「欠片もヒットしない?」
「欠片もヒットしないね」

 メルによると、この国だけではなくて、他国の図書館にも足を運んで魔王について調べたらしい。
 しかし、魔王に関する情報を得ることはできない。
 魔王の『ま』の字も記されていないとか。

 まあ、仕方ないと思う。
 450年前に、世界は一度滅びたらしいからな。
 魔王に関することが記された書物があったとしても、その時に失われているだろう。

「手がかりはなしか……」
「ところが、そうでもないんだよね」
「心当たりが?」
「確信はないけどね。闇雲に調べるよりはマシじゃないかな、と思っているよ。アソコなら、ボクたちが望む情報を得られると思う」
「もったいぶった言い方をしないでくれ。正解は?」
「禁忌図書館」

 世界中の裏の書物が集められているという図書館だ。

 人の道を踏み外した外法が記された魔法書。
 秘匿された記録が記された歴史書。

 ……などなど。
 なにかしらの理由により、陽の光を浴びることのない書物が集められた図書館だ。
 世界中の裏事情が詰め込まれている、といっても過言ではない。

「確かに、禁忌図書館なら魔王について記された書物があるかもしれないな」
「でしょ? 他に手がかりもないから、調べてみる価値はあると思うんだよね」
「でも、アソコは立ち入り禁止だぞ?」

 国にとって都合の悪い歴史書が隠されているかもしれないし……
 大量虐殺を可能にする魔法書も隠されていると言われている。

 そんなところなので、当然、一般人の立ち入りは許されていない。
 閲覧目的の図書館ではなくて、情報を秘匿、封印しておくための図書館なのだ。

 そんなことをするくらいならば、いっそのこと、裏の書物は焼いてしまえば? と思うかもしれないが……
 消失すると呪いを撒き散らすという書物もあるみたいだから、下手に手を出すことができないのだ。

 あと、いざという時の切り札として利用したいとか。
 歴史的観点から、全てを燃やしてしまうのは惜しいとか。
 色々な理由があって、処分することは避けているらしい。

「立ち入りが禁止されているのに、どうやって入るつもりだ? まさか、忍び込むつもりか?」
「そんなことはしないよ。禁忌図書館の書物は莫大だからね。一晩、ちゃちゃっと忍び込んで調べられるような量じゃないよ。正式な許可をとって、じっくりと調べないと」
「どうやって許可を?」
「そこで、賢者さまの出番さ」

 イヤな予感がした。

「その力と知恵をもって、なにかいい方法を考えて」
「おいおい……まさかの丸投げか?」
「ボクが下手なことを考えるよりも、レンに全部任せたほうがうまくいくと思うんだよね」
「思わない」
「そこは見解の相違かな?」
「あのな……」

 禁忌図書館の資料を調べるというのは、確かに良いアイディアかもしれない。
 しかし、その方法を全部丸投げするなんて……

 メルのヤツ、面倒だからっていう理由で放り投げたんじゃないだろうな?
 ありえそうな話で頭が痛い。

「というわけで、頼んだよ。ボクはボクで、別の方向からアプローチしてみるよ」
「あっ、おい!?」

 言うだけ言って、メルは去ってしまう。
 アイツ、適当すぎる。

「はあ……とはいえ、他に方法もないか」

 さて、どうしたものか?



――――――――――



「禁忌図書館……ですか?」

 寮のロビーに降りると、ちょうどローラ先生がいた。
 せっかくのタイミングなので、禁忌図書館について尋ねてみる。

「どうして、そんなものに興味を?」
「えっと……なんかすごい魔法を習得できないかな、と」
「ふふ。魔法大会で優勝したのに、ストライン君は、とても勉強熱心ですね」
「あはは……それで、どうにかして入ることはできませんかね?」
「うーん……難しいですね。気軽に立ち入ることができないからこその、禁忌でして……入れる人はごく一部なんですよ」
「ダメですか……」

 予想していたとはいえ、がっくりとくる。

「絶対に立ち入れない、というわけではありませんけどね。保全をする人や、書籍を管理する人。また、書籍の閲覧をする人も、いないわけではありません」
「それ、俺は……」
「うーん……こういうのはなんですけど、ストライン君の家は貴族ではありますが、位が低いので……ちょっと難しいと思います」
「ですかー……」
「位の高い貴族なら、あるいは……というところでしょうか」

 位の高い貴族か。

 ……待てよ?
 それなら心当たりがある。