翌朝。

 いつもより遅い時間に目が覚めた。
 酒を飲んだせいだろうか?
 ちょっとだるく、頭がぼんやりとしている。

 とはいえ、日常生活に支障が出るレベルじゃない。
 仮に問題が出たとしても、今日は休日なので問題はない。

「そういえば、みんなは?」

 せっかくだから、ということでみんなも泊まっていった。
 俺はリビングで寝て、広い寝室にみんなが寝ている。

「エリゼ? みんな?」

 寝室の扉をノックする。
 反応がない。

「入るぞ?」

 一応、断りを入れてから寝室に入る。
 エリゼもアラム姉さんもアリーシャもシャルロッテもフィアも、みんな、まだ寝ていた。

 ……寝ていたというか、ベッドじゃなくて、そこら辺の床に転がっていた。

「なんてところで寝ているんだ……エリゼ?」
「うぅ……」

 軽く揺すると、エリゼがこちらを見る。
 その顔は青い。

「エリゼ!? どうした、大丈夫かっ」

 まさか、なにかしらの病気に……?
 でも、エリクサーを飲んだことで、その問題は解決したはずだ。
 いったい、どうして……

「お、お兄ちゃん……」
「なんだ? どうした?」
「……頭が痛い、です……ガンガンと、割れるみたいに痛いですぅ……」

 ……えっと。

「お願い、レン……あまり大きい声を出さないで」
「うぅ……頭が痛いわ……なによ、これ」
「あうあう……どうにかなってしまいそうですわ……」
「頭の中で鐘を鳴らされているような、そんな気分です……」

 みんな、揃って頭痛に襲われているらしい。
 つまりこれは……

「なんだ、二日酔いか……」

 思わずため息をこぼしてしまう。
 そりゃ、アルコールに耐性のない子供が酒を飲めば、そうなるよな。

 まったく、人騒がせな。
 でも、病気じゃなくてよかった。

「うぅ、お兄ちゃん……私、どうなってしまうんですか……?」
「どうにもならないよ。寝てれば治る」
「そうなんですか……?」
「冷たい水を飲めば、少し楽になるだろう。待っててくれ」

 みんなの分の水を汲んできた。
 それぞれに水の入ったコップを渡した。

「俺は隣にいるから、なにかあったら呼んでくれ」

 そう言い残してリビングに移動した。

 せっかくの休日だ。
 なにかしたいとは思っていたが……
 今の状態のみんなを放置することはできない。

「ローラ先生に言って、二日酔いの薬をもらってきた方がいいかな? いや、どう言い訳したらいいんだ?」

 二日酔いの薬が必要な理由を聞かれたらアウトだ。
 うまくごまかす自信はない。

「みんなには悪いけど、自然に回復するのを待ってもらうしかないか……ん?」

 コンコンと扉がノックされた。
 誰だろう?
 怪訝に思いながら扉を開けると……

「やっほー」

 メルがいた。
 なぜか、大きなバッグやらリュックやら、大荷物を手にしている。

「どうしたんだ?」
「まずは、これをどうぞ」
「これは……二日酔いの薬?」
「必要でしょ?」
「どうして、そのことを……?」
「ふふっ、あの賢者を再び驚かせることに成功したね。この瞬間は、何度味わってもたまらないよ」
「えっと……?」
「ああ、ごめんごめん。正解を言わないといけないよね。まあ、単純な話。昨日、レンと話をした時にちょっとお酒の匂いがしたから、が二日酔いになっているんじゃないかな、って思ったんだよ。まあ、レンじゃなくて他のみんなみたいだけど」
「ああ、そういう」

 種を明かされると簡単な話だった。

「それで……そっちの荷物は?」
「あれ? 聞いていないのかい?」
「なにを?」
「挨拶をしておこうかな、って」
「うん?」

 メルはなにを言っているのだろうか?
 挨拶と言われても、なんのことか……

 って、もしかして。
 とある可能性が思い浮かぶ。
 そういえば、隣の部屋はまだ空いていたはず。
 そして、大荷物を持つメル。
 自然と答えが導き出される。

「ふふん、察したみたいだね?」
「メルは……隣に?」
「正解! 隣人として歓迎してくれる?」
「急な話だな……どうしてだ?」
「むー、つれないなあ。昨夜、一緒に協力しようって約束したばかりじゃない」
「それとコレがどう繋がる?」
「同じ目的を持つんだから、近くにいた方が色々とやりやすいでしょ? それともなに。ボクと近くの部屋なんて絶対にイヤ、っていう感じ?」
「そんなことはないけど……」
「なら、問題ないね。今日からよろしくお願いね♪」
「あっ、おい」

 メルはひらひらと手を振り、隣の部屋に向かおうとする。

「ん? まだ質問が? 悪いけど、後にしてくれないかな? この荷物、けっこう重いんだよ」
「あー……もういいや」

 トラブルの予感がしたけれど、メルを止めることはできそうにない。
 俺、女の子に弱いのかなあ……?

「手伝おうか?」
「ああ、それは大丈夫」
「でも、重いんだろう?」
「重いといえば重いし、荷物の開封や整理には時間がかかるかな」
「なら……」
「はあ」

 なぜか、呆れたようなため息をこぼされた。

「レンは、自分が男ということを忘れていない?」
「うん?」
「ボク、一応、女の子なんだよ? 男であるキミに色々と見せたくないものがある。例えば、下着とかね」
「あ」
「わかったみたいだね? レンの好意は嬉しいけど、手伝えることはないんだよ」
「……みんなに薬でも飲ませてくるか」
「そうするといいよ」

 なんていうか……
 最初から最後までメルのペースだ。
 こんな相手が隣人なんて、大丈夫だろうか?

「そんな不安に思わないでよ。ボクは、自分でいうのもなんだけど、いい女の子だよ? レンを困らせるようなことはしないよ」
「人の心を読むな」
「ふふ、顔に出ているんだよ。実にわかりやすい。賢者ともあろうものが情けないね」

 まったく反論できず、やりこまれてしまう。

 ……コイツ、苦手だ。