「「「おめでとうーーー!!!」」」

 夜。
 寮の部屋で祝勝会が開かれた。

 メンバーは、俺とエリゼとアラム姉さん。
 アリーシャとシャルロッテとフィア。

「お兄ちゃん、おめでとうございます♪」
「おめでとう、レン。姉として、私も嬉しいわ」
「さすがね、レン。あたしは、レンが優勝すると思っていたわ」
「えと、あの……す、すごい試合でした」
「ま、あたしに勝ったんだから当然よね!」
「ありがとう」

 みんなの言葉に笑顔で応えた。
 みんな、自分のことのように喜んでくれることが嬉しい。
 俺も素直に喜びたいところなのだけど……

「……うーん」

 メルのことが気になって気になって、祝勝会に集中できない。
 気がつけば、彼女が何者なのか考えている。
 まるで恋煩いだ。

 まあ、あんな賭けをしたから、話をする機会は自然とやってくるだろう。
 ただ、メルは素直に話をしてくれるだろうか?
 俺の疑問に対して、とぼけたりしないだろうか?

 考えれば考えるほど、モヤモヤが膨らんでいく。

「お兄ちゃん」
「うわっ」

 気がつけば、エリゼの顔が目の前にあった。
 じーっと、至近距離で見つめてくる。

「ど、どうしたんだ?」
「お兄ちゃんこそ、どうしたんですか? ぼーっとしていますよ」
「そ、そうか?」
「そうですよ。心ここにあらず、っていう感じです」

 むっすー、という感じでエリゼが頬を膨らませた。
 不機嫌ですよ、とわかりやすくアピールしている。
 まるで小動物だ。

「私達じゃない、他の女の子のことを考えていましたね……?」
「えっ」

 図星なので、ついつい言葉に詰まってしまう。

 そんな俺の反応を見て、エリゼがますます険しい表情になる。

「やっぱり! お兄ちゃんが他の女の子のことを……」
「レン、どういうこと? 姉として、そういう話はしっかりと聞いておく必要があるわ」
「ふーん。レンって、見境がないのね。こんな時まで、女の子のことを考えているなんて」
「えと、えと……そ、そういうのはよくないと思いますっ」
「ちょっと! 考えるならあたしのことを考えなさいよ」

 なぜか、他の四人も加わる。
 たくさんのジト目にさらされて、なんともいえない居心地の悪さを味わう。

 いや、待った。
 俺、なにも悪いことは……

「お兄ちゃんっ!」

 みんなを代表するように、エリゼが大きな声をあげた。
 俺は兄なのだけど、妹さまに逆らうことできず、その場で正座をしてしまう。

「は、はいっ」
「今日は、お兄ちゃんが魔法大会で優勝したおめでたい日なんです。そのお祝いをしているんです。お兄ちゃんにも、色々と考えるところはあるのかもしれませんが、今は、他のことは考えないでほしいです」
「そう……だな。俺が悪かったよ」

 俺のために祝勝会を開いてくれている。
 エリゼの言うことはもっともなので、素直に頭を下げた。

 うん、そうだな。

 メルのことは、正直、とても気になる。
 今すぐにでも話をしたいくらいだ。

 でも、焦っても仕方ない。
 あんな話をした以上、今更、逃げるなんてことはないだろう。

 今は、今を楽しむことにしよう。

「楽しまないとな」
「はい、その通りです!」
「それじゃあ、気を取り直して、祝勝会を再開しましょうか」

 アリーシャがそう言って、みんながグラスを持つ。
 中に入っているのは、もちろんジュースだ。

 実は、シャルロッテが酒をこっそりと持ち込んでいたのだけど……
 アラム姉さんに見つかり、全て没収された。

 ちょっと残念。
 前世でも、酒はほとんど飲んだことはないんだよな。
 そんなもの、強くなるためには不要。
 というか邪魔でしかない、という感じで。

 まあ、無理に飲むものじゃない。
 みんなが一緒ならジュースでも水でも、なんでもいい感じだ。

「それじゃあ、改めて……」
「「「かんぱーいっ」」」

 一口でジュースを飲む。

 ほのかに香る果実の匂い。
 そして、喉を刺激する微炭酸。
 最後に、独特のアルコールの感じがして……

「うん?」

 アルコール?

 自問自答した時、

「えへへぇ、お兄ちゃーーーんっ」

 赤い顔をしたエリゼが、にへらという笑顔を浮かべながらこちらに抱きついてきた。
 そのまま、猫のようにすりすりと顔を擦りつけてくる。

「え、エリゼ? なにをしているんだ?」
「んー、お兄ちゃん成分を補充しているんですぅ」
「なんだ、そのわけのわからない成分は?」
「わけがわからないとか、そんなひどいこと言わないでくださいっ! お兄ちゃんは鬼ですか!? 鬼畜ですか!? 妹にそんな態度をとるなんて、私、泣いちゃいますよ!?」
「お、おう……悪い」
「わかればいいんです、わかれば。というわけで……えへへへぇ、このまま、ぎゅうってさせてくださいね♪」

 エリゼは甘えん坊だけど……
 いつも以上に甘えまくってくる。

「レン、おめでとう」
「ありがとうございます、アラム姉さん」
「優勝したレンには、ご褒美をあげないとね。はい、なでなで」
「えっと……?」
「それから、ぎゅーっ」
「あ、アラム姉さん!?」
「ふふ、照れているの? かわいい。もっともっと、甘やかしてあげる」

 アラム姉さんも、エリゼのように頬が赤い。

 そんな状態で、にっこり笑顔。
 なぜか、俺のことを猫可愛がりする。

「ちょっとぉ、レン!」

 同じく赤い顔をして、目が座っているアリーシャに絡まれた。

「あんた、魔法大会で優勝するなんて、どういうことなのよ!? あたしだって優勝を狙っていたのに、それをあっさりとかっさらうなんて……くうううっ、むかついてきたわ! レンっ、絶対にあんたに追いついて見せるんだからね! いい!? 待ってなさいよ!?」
「わ、わかった。わかったから、絡まないでくれ」
「なによ!? あたしがいつ絡んでいるっていうの!? そんなことしてないでしょ! 言いがかりはやめてくれない!?」

 まさに今、絡まれているんだけど……

「ひっく、ぐす、えっぐっ……うううぅ、わたしはダメです。ダメダメ人間ですぅ……こんなわたしが生きていていいんでしょうか? いいえ、ダメですよね。神様、ごめんなさい、わたしなんかが存在してて……」
「フィア!?」

 フィアは、なぜかおもいきり泣いていた。
 意味不明な謝罪をしつつ、だーっと滝のような涙を流している。

「あはははっ、フィア、あなたなんで泣いてるのよ、あはははっ!」
「ちょ、シャルロッテ!? そんな風に笑うなんて失礼だろ!?」
「だって、おもしろいんだもの、あはははっ! あはっ! って、よーく見たらレンの顔もおもしろいし……ぷっ、くすくす……あはははっ、ダメ、お腹痛い、笑い止まらない、あはははははっ!!!」

 どこに笑いのツボがあるのか、まったく理解できない様子で、シャルロッテが笑い声を響かせていた。

「お兄ちゃん、にゃあ♪」
「よしよし」
「次は絶対に負けないんだから!」
「ぴゃあああああ……!」
「あはっ、あははははは!」

 なんだ、この地獄絵図は……?

 とある予感……というか確信を覚えながら、『ジュース』のラベルを見る。
 アルコール度数5%、と書かれていた。

「シャルロッテが持ってきた酒が残っていたのか。というか、一口でこんなになるなんて、みんな酒に弱すぎだろ」

 祝勝会が一転して、酒乱大集合大会になってしまい、どたばた騒ぎが繰り広げられるのだった。

「まあ……これはこれでアリか」

 こんなドタバタ騒ぎ、初めてだ。
 楽しくて、自然と笑顔になって……

 俺は、もう一杯、ジュースを……もとい、酒を口にした。