闇属性の魔法を使えるようになったけれど、全てを極めたわけじゃない。
 初級を使えるようになっただけなので、まだまだ先は長い。
 これからがスタートなので、今まで以上にがんばらないと。

 そんなわけで……

 俺とエリゼは、その後もエル師匠の元で修行を積んだ。
 人を捨ててリッチになるほどなので、エル師匠の知識はすごいものが。
 俺の知らない魔法理論をたくさん知っていて、色々なことを吸収することができた。

 エリゼも才能を開花させて、次々と回復魔法を習得していく。
 将来は、優秀は治癒師になれるかもしれない。

 そうして訓練を続けて……
 あっという間に三ヶ月が経った。



――――――――――



「お兄ちゃん、今日はどんなことを教えてもらえるんでしょうね?」
「んー……どうだろうな」

 いつものようにエリゼと一緒に街を抜け出して、エル師匠が待つ丘へ向かう。
 その途中、俺は考え事をしていた。

 たまにだけど、訓練中に視線を感じるんだよな。
 その視線の主は……最初、エル師匠の頭に止まった青い鳥だ。

 気の所為かもしれないが、じっとこちらを見ている時がある。
 その視線に、意思のようなものを感じる……かもしれない。

 なんともいえない、微妙な感じだ。

「……なんなんだろうな、あの鳥は」
「お兄ちゃん?」
「いや、なんでもない。早く行こう、エル師匠が待っている」
「はい」

 丘へ移動すると、いつもいるはずのエル師匠の姿がない。
 代わりに、犬や猫、狐や狸……たくさんの動物がいた。

 動物達は俺とエリゼに気がつくと、一斉に駆けてきた。
 尻尾を振ったりしつつ、遊んで遊んでとじゃれてくる。

「お、おい。やめろって。俺は修行をしに来ただけで、遊んでいるヒマなんてないんだ」
「わぁ♪ もふもふです」

 エリゼは、一瞬で動物達の虜に。
 とてもごきげんな様子で、動物達を撫でている。

「少しくらい遊んでもいいですよね?」
「でも、それより修行を……」
「……お兄ちゃん……」
「……はぁ、わかった」

 どうにもこうにも、エリゼにお願いをされると弱い。
 謎の力が働いているかのようで、無条件で従いたくなってしまう。

「師匠もいないし、少し遊ぶか」
「はい!」

 俺は手の平を上に向けて、魔力を収束させる。

「<水珠>ウォーターボール」

 魔法で水を使ったボールを作り出した。
 ちょっとブヨブヨしているものの、すぐに割れたり消えたりすることはなく、普通のボールとして使うことができる。

「そら、取ってこい!」
「「「オンッ!!!」」」

 犬と狸と狐。
 さらに猫と猪……動物達が一斉にボールを追いかけた。

 そんなに好きなのか?

「動物さん達、すごく喜んでいますね」
「最近は、俺達がエル師匠を独占していたから、遊び相手に飢えていたのかもな」

 だとしたら悪いことをした。
 強くなるためとはいえ、さすがに、他人の楽しみを邪魔するつもりはない。

 仕方ない。
 今日はとことん遊ぶとするか。

 そんなことを考えていると、犬がボールを咥えて戻ってきた。
 尻尾をブンブンと振っていて、また投げて? と目で訴えている。

「よし、いけ!」
「「「オンッ!!!」」」

 ボールを投げて、取ってきてもらう。
 ただそれだけなのだけど、動物達はすごく楽しいらしい。
 とても生き生きとした様子で野原を駆けている。

「ん?」

 何度かボールを投げていると、ふと、青い鳥が俺の肩に降りてきた。
 エル師匠と一緒にいる、なんだか不思議な鳥だ。

「ピー」
「いて」

 くちばしでツンツンと突かれた。

「なんだよ、お前も遊んでほしいのか?」
「ピー」
「よしよし」

 指先で頭を撫でてやると、鳥はうれしそうに鳴いた。
 喜んでいるのだろうか?

「ほう。そやつが懐くとは珍しいな」
「エル師匠」

 丘の反対側からエル師匠が姿を見せた。

「すまないのう、遅れてしまった」
「いえ、大丈夫です。それより、なにかあったんですか?」
「なに。ちょっとした野暮用だよ。それよりも、今日は実技をしようと思う。レン、この前教えた魔法を使ってみてほしい」

 そう言いながら、エル師匠は魔法人形を設置した。

 なんだろう?
 うまく言葉にできないのだけど、エル師匠の様子がいつもと違うような気がする。
 気になるが、師匠の言葉を無視することはできない。

 とにかくも、手の平に魔力を収束させた。
 使用するのは、闇属性の中級魔法。
 最初は初級だけしか使えなかったのだけど、今は中級まで使用できるようになっていた。

「魔炎疾風牙<デモンパニッシャー>!」

 影が隆起して、無数の槍となって地面から生えてきた。
 それらは意思を持つように動いて、魔法人形を串刺しにする。
 『999』という数値が表示された後、魔法人形は壊れてしまう。

「どうですか、エル師匠?」
「うむ……すばらしいな。文句のつけようがない」
「ありがとうございます」
「レン」

 エル師匠の雰囲気が変わる。
 じっとこちらを見つめて、どこか寂しそうな、それでいてうれしそうな……
 複雑な感情を見せた。

「おめでとう。今日で、免許皆伝だ」
「え?」

 予想外の言葉に、思わず間の抜けた顔をしてしまう。