「能力強化<アクセル>!」

 身体能力を強化する魔法を使う。
 体が羽のように軽くなり、風の速度で駆ける。

「速い!?」
「まだまだ!」

 次いで、魔法を唱える。

「紅蓮刃<フレアソード>!」

 右手に炎の剣を作り出した。

 火属性の中級魔法で、見ての通り効果範囲はかなり狭い。
 代わりに威力は抜群だ。

 ひょっとしたらやりすぎかもしれない。
 普通……これだけの魔法をぶつけたら、一気に魔力が消費されて、昏倒することもあるだろう。
 下手をしたら怪我を負わせてしまうかもしれない。

 しかし。

 手加減をしていたらメルに勝てない。
 というか、そんなことをしたら逆に負けてしまう。

 メル・ティアーズ。

 彼女は、一流の魔法使いだ。
 だからこそ、俺は全力で立ち向かう。

「氷雪刃<アイシクルソード>!」

 俺に応えるように、メルは氷の剣を作り出した。
 水属性の中級魔法で、俺の魔法の対極に位置する。

「せぇえええええいっ!!!」
「はぁあああああっ!!!」

 炎と氷が激突した。
 威力は互角。
 競り合う形になり、至近距離で睨み合う。

「これが賢者の力……さすがだね」
「メルもやるな」
「でも、負けられないよ。ボクは、あなたに勝つ。それが最初の目標だからね」

 どういう意味だろう?

 問いかける間もなく、メルは次の行動に移る。
 魔力で編み込まれた剣を振り払い、後ろに跳躍。
 大きく距離を取る。

 そして、とある魔法の詠唱を開始。
 それは……

「上級魔法? いや、これは……」

 メルが解き放とうとしていた魔法は、上級魔法に似ていて、しかし、上級魔法ではない。
 今の時代では失われたとされている技術。
 過去の時代の上級魔法だ。

 今よりも魔法が栄えていた時代の上級魔法。
 威力は比べ物にならない。

 そんなものを使えるのは俺だけと思っていたが……
 まさか、メルも使えるなんて。

 驚いたけど、同時にわくわくした。

 メルは間違いなく強い。
 もしかしたら、俺の知らない魔法、技術を操るかもしれない。

 その力を、直接、この身で体験することができる。
 魔法の道を極めたいと思う者にとって、これほど嬉しいことはない。
 久しぶりに前世の気持ちを思い出した。

「なら、俺も思い切りいくか」

 魔法の詠唱を開始する。

 転生してから、本当の意味では一度も全力を出していない。
 それはそれで、この時代が平和という証なのかもしれないが……
 正直なところ、くすぶっているものはあった。

 でも……
 今は全力を出すことができるかもしれない。
 ありったけをぶつけることができるかもしれない。
 心が躍る。

「炎紋爆<エクスプロージョンノヴァ>!」
「神撃<グランドクロス>!」

 会場を埋め尽くすかのような巨大な炎球。
 世界を塗り尽くすかのような白撃

 その二つが真正面から激突した。



――――――――――



 極大魔法と極大魔法の争い。
 全てを吹き飛ばすかのような、激しい爆発と衝撃波が踊る。
 炎と光が荒れ狂い、リングを埋め尽くす。

 それだけでは終わらない。

 多大な負荷を受けたことで結界が壊れた。
 リングを覆っていた光の膜が割れて、粉々に砕け散る。

 ただ、そこが限界。
 二つの魔法の余波は観客席まで届くことはなくて、衝撃は収まりつつあった。

 そして、勝負の行方は……