色々な懸念はある。
 それでも時間は流れていくもので、魔法大会決勝戦の時が訪れた。

 舞台上に立つと、観客達の歓声が大きくなる。
 そんな中でメルと対峙した。

「やあやあ、レン君。ごきげんいかが?」
「お前、なんでそんなに明るいんだよ……?」
「決まっているだろ。この瞬間が楽しいからさ」

 ワクワクするのは否定しないが……
 でも、あんな事件の後だ。

 こいつ、気持ちの切り替えが相当に早いな。

「約束、覚えている?」
「賭けの話か?」
「うん。負けた方が常識的な範囲内で、なんでも言うことを聞く」
「ついでに、メルは知っていることを全部話す」
「あれ? それだとボク、負けるのが前提みたいだけど」
「そりゃ、俺は負けるつもりはないからな」
「ボクも負けないよ?」

 互いに不敵に笑う。

 そんな俺達を見て、ローラ先生がやれやれと吐息をこぼす。
 決勝戦は特別なので、ローラ先生が審判を務めることになったのだ。

「あなた達、やる気たっぷりなのはいいことですけど、賭けはよくないですよ?」
「えっと……聞こえていましたか?」
「バッチリ」
「聞かなかったことに」
「まったく……今回だけですよ?」

 ローラ先生が茶目っ気に笑う。
 わりと話のわかる人なんだよな。
 生徒からの人気が高いのも頷ける。

「では」

 ローラ先生が片手を高くあげた。

 瞬間、観客達の声がピタリと止まる。
 俺とメルの間に流れる空気が張り詰めたものになる。

「楽しい試合になることを祈るよ」
「俺もな」
「賢者の称号を得た人の力、見せてね」
「なっ」

 俺の前世を知るような言葉がメルの口から飛び出して、思わず動揺してしまう。
 その間に……

「決勝戦、始め!」

 試合が始まってしまう。

「メルっ、お前はいったい……!?」
「今は試合に集中してほしいな。でないと、あっさり負けちゃうよ? 惑わすつもりはなかったんだけど……まあ、ボクは全力でいくからね」
「くっ」

 聞く耳を持たないとはこのことか。
 俺の問いかけを聞き入れることはなく、メルは魔法を詠唱する。

「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」

 魔法で空間を歪めて、メルの攻撃を防いだ。

「やるね」

 攻撃が防がれたというのに、メルは嬉しそうにしていた。
 もしかしてバトルマニア?
 いや、そんな風には見えなかったけど……

 どちらにしても、俺の方はまったく戦いに集中できていない。
 先程のメルの発言のせいだ。

 どういう意味なのか?
 どういう意図なのか?

 どうにもこうにも集中できず、後手後手に回っていた。

「炎爆陣<クリムゾンフレア>!」

 今度は火属性の上級魔法だ。
 巨大な魔法陣がリングの上に描かれて、そこから無限の炎が溢れ出す。
 溢れ出した炎は災厄となり、俺という獲物を飲み込むため、怒涛の勢いで押し寄せてきた。

 これだけの攻撃……『空間歪曲場<ディメンションフィールド>』では防ぎきれない。
 ならば……!

「氷雪陣<アイシクルフォール>!」

 対属性となる水属性の魔法を放つ。
 炎の塊と氷の壁が互いを相殺した。

 今の魔法、それなりの魔力を込めたのに相殺が精一杯だった。
 コイツ……やっぱり強い!

「お前は……!」
「おしゃべりしているヒマなんてないよ。ほら、どんどん行くよ」

 雨のように魔法が連射された。
 詠唱速度がとんでもなく速い。

 さすがに、シャルロッテの遅延魔法に比べると遅いが……
 それでも、普通に唱える分にはかなりのものだ。
 無駄という無駄が一切省かれていて、次から次に魔法を放ってくる。

 俺の質問に答えるつもりは一切ないらしい。

 話を聞きたいならボクに勝ってみせろ……ということか?
 いいだろう
 そういうことなら、やってやろうじゃないか。

 ようやく迷いが消えて、覚悟が決まる。