「金剛盾<アースシールド>!」

 ハンナは魔法で防ごうとするが……

「どうして!?」

 また魔法が発動しない。

 ただ、今回は俺はなにもしてない。
 単なる魔力切れだ。
 あれだけ中級、上級魔法を連発していたら、普通は魔力が底をつく。
 ハンナも魔力を失ったのだろう。

 もっとも。
 そうなるように誘導をしていたが。

「うあっ!?」

 避けることも防ぐこともできず、ハンナはメルの魔法をまともに受けた。
 ビクンと全身が震えて……
 そのまま意識を失い、倒れる。

「擦り傷や痺れはあるかもだけど、それはもうしょうがないよね」
「ああ、十分だ。加勢、ありがとう」
「いいよ。でも、これでチャラだからね?」

 俺を犯人と勘違いして、戦闘をしかけたことを指しているのだろう。

 それを言うと、俺もメルが犯人と疑っていたんだけど……
 まあいいか。

「ハンナを拘束して、話を聞こう。後の対応はそれからで」
「先生や……あるいは、騎士団に突き出さないの?」
「……なんか、根っからの悪人には思えなくて」

 強くなるために他人の魔力を奪おうとした。
 結果、傷つく人が現れても構わないと言った。

 どこからどうみても悪人なのだけど……

「俺の勘違いかもだけど、泣いて、怯えているように見えたんだ」

 まずは話を聞きたい。
 そして、ハンナのことを理解したい。
 どうするかは、その後に決めてもいいと思う。

 ……そんなことを考えられるようになった自分に驚きだ。

 エリゼやアラム姉さん。
 父さん、母さん。
 アリーシャにシャルロッテにフィア。
 みんなのおかげだろうな。

 大事なものができたから。
 だから、物事をもっと大事に考えられるようになったのだと思う。

「お人好しだねえ」
「そうか?」
「自覚なし、か。まさか、あの人がねえ……」

 あの人?
 どの人のことだ?

「ま、それは後でいいや。ボクは、キミの案に反対するわけじゃないから、好きにしたらいいよ。ボクを利用しようとした仕返しは、こうして一発して返したからね」
「助かるよ」
「ところで、さっきはなにをしたの? この子の魔法、立て続けに失敗していたけど」
「さて、なんだろうな」

 あの力は、魔法大会のために俺が新しく開発したものだ。

 相手の魔力に干渉して、発動した魔法を打ち消してしまう魔法。
 名付けるとしたら、『魔力相殺<ディスペル>』といったところか。

 成功確率は100パーセントじゃない。
 相手によって変動する。
 ただ、うまく使えば、魔法が大きな力となっているこの世界では、かなり強力な切り札になるだろう。

「さてと、そろそろ拘束をして……」
「まって!」

 メルが鋭い声を飛ばす。
 反射的にハンナを見ると、黒いもやのようなものがあふれていた。

「これは……」
「この禍々しい気配……」

 黒いもやは、獣のようにこちらを睨んだ……ような気がした。

 しかし、それ以上なにかすることはない。
 やがて夜の闇に溶けるように霧散した。

「今は……」

 魔王……か?
 ヤツの気配にかなり近いものがあった。

 もしかして、ハンナは魔王の影響を受けていた?
 あるいは、操られていた?

「……」

 アリーシャが持っていた魔剣。
 マーテリアの件。
 シャルロッテの父親が引き起こした事件。

 その全てで魔王の気配を感じた。
 そして、今回も。

「偶然……なわけないよな」

 なにかが動き始めている。
 そして、なにかが忍び寄ってきている。

 ゆっくりと。
 着実に。

 ……悪意を持って。