「「加速<アクセル>!」」

 示し合わせたかのように、俺とメルは同じ魔法を唱えた。

 この方法が一番効果的。 
 俺は、戦う中でそんな答えに行き着いたのだけど……
 メルは直感で答えを見つけたようだ。

 やはり戦い慣れている。
 この平和な時代に、俺達くらいの歳の男女が、ここまで戦い慣れているなんてことはありえない。

 いったい何者なんだ?

 疑問はあるものの、今は、目の前の戦いに集中しよう。

 身体能力を強化して、駆ける。
 俺は左から。
 メルは右から。
 それぞれ挟み込むようにハンナに肉薄する。

「くっ……紫電波<プラズマウェイブ>!」

 一瞬の迷いの後、ハンナはメルに向けて魔法を放つ。

 俺の実力は、ある程度把握した。
 しかし、メルは未知数。
 それを警戒してなのか、ハンナは、まずはメルを叩くことにしたようだ。

 雷撃がメルを襲う。
 威力の高い中級魔法だ。
 直撃したらタダでは済まない。

 それなのに、メルはニヤリと不敵に笑い、なにもすることなく突撃する。
 そして、自ら雷撃の中に飛び込んだ。

「なっ!?」

 自殺のような行動に、ハンナが驚きの声をあげた。
 ただ、その顔は、さらなる驚きで上書きされることになる。

「えっ、消えた……!?」

 蜃気楼のようにメルの姿が消えた。
 雷撃も消えて、なにも残らない。

「後ろだよ」
「きゃっ!?」

 後ろ、なんて言いつつ、真横から奇襲をしかけたメルは、蹴撃でハンナを吹き飛ばす。
 タイミングを合わせて俺も拳を繰り出して、ハンナの顎を狙い、失神を誘う。

「くっ!」

 惜しい。
 あと少しのところで避けられてしまう。

 でも、即興の連携としては、かなりうまく機能した。
 いける。
 メルと一緒なら、このまま押し切ることができる。

「いったい、なにを……」
「さて、なんでしょう?」

 手の内を明かすようなことはしない。
 ただ、俺は見当がついていた。

 メルは、本当は『加速<アクセル>』を唱えていない。
 ただ、わかりやすく、誤解させるためにそう口にしただけ。

 本当は別の魔法を唱えていた。
 自分の幻を作り出す『幻影<ミラージュ>』だろう。
 そしてハンナの攻撃をやり過ごして、さらに接近することを可能にした。

 こんなところだろう。

 ……本当に戦い慣れているな?
 どこでその戦術を身に着けたのだろう?

「私はこの程度で……嵐刃円舞<ストームワルツ>!」

 再び上級魔法。
 風の刃が襲い来る。

 でも、慌てる必要はない。
 俺はその場に足を止めて、手を前にかざす。

 そして、ぐっと拳を握り……

 キィンッ!

 甲高い音が響くと共に、風属性の上級魔法が消えた。

「……え?」

 なにが起きたかわからない様子で、ハンナが呆ける。
 メルも目を大きくして驚いていた。

「今、な、なにを……?」
「さて、なんだろうな?」
「魔法が消えた? 不発? でも、そんなことは……」
「悪いが……その程度の力じゃあ俺には届かないよ」
「っ!!! 言ったわね、なら確かめてあげる!!!」

 いい感じに挑発に乗ってくれた。

「嵐刃円舞<ストームワルツ>!」

 さらにハンナは上級魔法を放つ。

 それに手の平を向けて……
 ぐっと握る。

 キィンッ!

「ま、また!? なんで……このっ、嵐刃円舞<ストームワルツ>! 紫電波<プラズマウェイブ>!」

 上級魔法、中級魔法と立て続けに放つ。
 もうメルのことは見えていない様子で、俺だけにターゲットを絞っていた。

「金剛盾<アースシールド>!」

 今度は魔法で防いだ。
 それを見て、ハンナはどこか安堵した様子でニヤリと笑う。

 ただ、安堵するのは早い。

「おーい、ボクのこと忘れていない?」
「しまっ……!?」
「紫電掌<プラズマインパクト>!」

 至近距離でメルの魔法が炸裂した。