「私の邪魔をしないで!」

 悲鳴のように叫び……
 そして、ハンナの体から圧倒的な魔力がほとばしる。

「これは……!?」
「そうよ、見て! これが私の力! 新しい私なのよ!!!」

 魔法陣は潰したものの、それでも、今までに集めた魔力が残っていたのだろう。
 それらを取り込み、ハンナはパワーアップを果たした様子。

「邪魔をする人は消えて……火炎槍<ファイアランス>!」

 牽制の一撃。
 その判断は正しく、俺が避けたところで、ハンナは二撃目を放つ。

「嵐刃円舞<ストームワルツ>!」

 これは……上級魔法だ!
 風の刃を複数出現させて、嵐で切り刻む。

 いきなり殺意の高い魔法を使ってくるか……
 それだけ、ハンナが本気ということだろう。

「金剛盾<アースシールド>!」

 さすがに上級魔法をなにもせず、回避することは難しい。
 魔法で防御した。

「閃熱崩壊牙<カスタトロフ>!」

 再び上級魔法。
 熱と衝撃で対象を打ち砕く。

「加速<アクセル>!」

 魔法を使い、一時的に身体能力を強化。
 防ぐのではなくて、避けることでハンナの魔法をやり過ごす。

「どうしたの!? さっきから逃げてばかりじゃない。それとも、そうするしかできないのかしら? 私がそれだけの力を手に入れたから……あはっ、あははははは!」
「まったく、調子がいいな」

 反撃するのは簡単だ。

 というか……
 それだけではなくて、ハンナを打ち負かすことも簡単だ。

 彼女は、確かに強い。
 強大な魔力を手に入れた。

 でも、それを使いこなせているわけじゃない。
 子供が大人が使う剣を持ったとしても、強くなるわけじゃない。
 振り回されてしまうだけ。

 それと同じで、ハンナは大量の魔力をうまく扱えていない。

 もっとも、才能はあるみたいだから、それも時間の問題だろう。
 このままずっと戦い続ければ、いずれ慣れて、手がつけられなくなる。

「そうなる前に、どうにか止めたいが……どうするかな?」

 なまじ強い力を持っているだけに、こちらの攻撃が届かない。
 全力を出せば突破できるけど、やりすぎてしまうかもしれない。

 ハンナの笑顔を思い返す。

 俺は、どうしても彼女が悪人とは思えなかった。
 なにか事情があってこんなことをしていると思っていた。

 だから、できることなら暴走する彼女を止めたい。
 意味なく傷つけることは避けたい。

「紫電波<プラズマウェイブ>!」
「金剛盾<アースシールド>!」

 ハンナはぽんぽんと中級、上級魔法を連発する。

 この状況が続くと、さすがに辛いな。
 どうにかしてハンナを止めたいけど、でも、そのための一手が見つからない。

 俺は、たぶん、このまましのぐことができる。
 でも、周囲はそうもいかない。
 下手をしたら学院が壊れるかもしれないし……
 誰か巻き込まれるかもしれない。

 ハンナに怪我をさせることを覚悟で戦うしかないか?
 いや、でも……

「……まったく、なにをやってるのさ」

 ふと、そんな声が乱入した。

 振り返ると、そこにいたのは……

「メル!?」
「やっほー」

 メルは呑気に言って、俺の隣に並ぶ。

「お前、なんでここに……!? 待機しているはずだろう」
「なにやらドンパチが始まったみたいだから、様子を見に来たのさ」
「そうなる可能性も伝えていただろうに」
「でも、困っているんじゃない?」
「うぐ」

 図星をつかれてしまい、言葉を失う。

「あの子が犯人。でも、できれば傷つけることなく無力化したい。だけど、ものすごい暴れているから一人だと難しい。そんなところかな?」
「……どこかで覗き見していたのか?」
「まさか。これくらいの推理、初歩中の初歩だよ。ふふん♪」

 ドヤ顔がちょっと苛ついた。

「なによ、あなた……あなたも私の邪魔をするの? 私を認めないの? 私の……敵なのね!!!」

 ハンナの怒気が膨れ上がる。
 魔力もさらに増した。

「ほら。ボクも敵認定されたみたいだから、一緒に戦うしかないね」
「それが狙いだったんだろう。まったく……」

 トラブル続きで困る。

 ただ……

「いくぞ!」
「オッケー」

 少し体が軽くなったような気がした。