魔法大会最終日。
朝、学院の寮に驚きのニュースが走る。
レン・ストライン。
メル・ティアーズ。
決勝戦で激突するはずの二人がなにかしらの事故に遭い、治療を受けているという。
容態は不明。
事故の内容も不明。
なにもかも不明で、生徒達には動揺が広がっていた。
魔法大会はどうなってしまうのだろう?
そもそも、二人は大丈夫だろうか?
そんな中。
「ふふ」
一人の生徒は小さな笑みを浮かべていた。
狙い通りだ。
レンとメルは勘違いをして、戦い、そして脱落した。
二人を害したのは、邪魔だから、の一言に尽きる。
事件のことを探っていたため、このままだと成し遂げられないかもしれない。
故に排除する。
それともう一つ。
なぜかわからないが、二人は強大な魔力を持っていた。
その魔力を利用することで、本当の狙いである、特殊な魔法陣を発動することができる。
今までの魔法陣は、ぶっちゃけてしまうと、全てどうでもいい。
実験のため。
それと、真の狙いから目を逸らすための陽動だ。
狙い通り、レンとメルはどうでもいい魔法陣に釣られた。
そして、互いを敵と認定して激突した。
自信はあった。
二人が衝突するような、細かなところで色々な仕掛けを残しておいた。
だからこその結果であり、満足いくものだ。
後は、真の目的である特殊な魔法陣を発動するだけだ。
その魔法陣は、普通は見えない。
絶対に発見することはできないという自信があった。
なぜなら、今まで設置してきた魔法陣で構成されているからだ。
魔法陣の設置場所を線で繋ぐと、学園を覆う巨大な陣が描かれていることに気づくだろう。
そう。
今までの魔法陣は実験と陽動だけではなくて、それ自体が最終目標の魔法陣の一つになるように設計されていたのだ。
「さあ……仕上げを行いましょう」
――――――――――
学園の屋上。
魔法大会の間は立ち入り禁止となっていて、誰もいない。
ただ、誰もいないはずの屋上の扉が開いた。
その人は笑みを浮かべつつ、屋上の中心に移動する。
床に膝をついて、手を当てて……
「ど、どういうこと……!?」
動揺の声をこぼす。
そのタイミングで、俺は表に出た。
「そこまでだ」
「っ……!? あ、あなたは……」
その人はとても驚いた顔をしていた。
どうしてあなたがここにいるの? と、驚いていた。
その疑問に答えるよりも先に、別の答え合わせをしよう。
「一連の事件の真犯人は、君だったんだな……ハンナ・リーゼロッタ」
――――――――――
「……っ……」
ハンナは奥歯を噛み、とても苦い顔をした。
でも、それは少し。
すぐにいつもの優しい顔に戻る。
「えっと……真犯人ってどういうことですか? というか、レン君は大丈夫だったんですか?」
「ああ、なにも問題はない。俺とメルが怪我をしたっていうのは、嘘だからな」
「え」
昨夜。
あれから色々と考えたんだけど、真犯人を釣り上げるために、あえて敵の策に乗ることにした。
真犯人が予想していたであろう、俺とメルの排除。
それが実際に起きたかのように見せるため、先生にも協力してもらい、そういう噂を流してもらった。
先生は渋っていたものの、そこは、アラム姉さんが強引に押し通しだ。
そういうところは得意なのだ、あの人は。
で……
事は犯人が思い描いた通りに進んでいる。
と、勘違いさせて、ここに真犯人が現われるのを待っていた、というわけだ。
「目的はまだわからないんだけど……あちらこちらに魔法陣を仕掛けていたのは、ハンナだったんだな?」
「えっと……なんのこと?」
「そして今、ここにある、各地を繋ぐ巨大な魔法陣を起動しようとしている」
「だから、なんのことかわかりません。レン君は、なにか勘違いをしていませんか?」
「……悪いけど、証拠はあるんだ」
本当なら、もっと早くこの結論に達していた。
ハンナのことを怪しむ機会はあった。
あった、というか……
心のどこかで怪しんでいた。
でも、彼女は違うだろう、と思いこんでいた。
身近にいる人が犯人なんて思いたくなくて、目を反らしていた。
これは俺のミスだ。
だから、俺がなんとかしないといけない。
みんなはいざという時のために、いつでも動けるように待機しているけど……
今は、俺だけに任せてほしい。
「証拠……ですか?」
「これ」
俺は、ポケットからお守りを取り出した。
以前、ハンナからもらったものだ。
「知っているか? お守りっていうのは、祈りや願いを乗せて神様に運ぶものなんだ。だから、精神的なエネルギーである魔力が乗りやすい」
「……」
「たぶん、このお守りには、位置を把握するための仕掛けがあったんだろうな。それで俺の行動を把握して、メルと衝突するように仕向けた。調べてみたら、メルも同じようなものをもらっていた、ってさ」
「……」
「で……このお守りにある魔力は、ハンナのもの。そして、魔法陣に残されていた魔力とハンナの魔力は一致した。すでに調査済み。俺を思うように動かすために、このお守りを使ったみたいだけど……絶対に失敗しないっていう、入念すぎる計画が仇になったな」
「……」
ハンナは沈黙を保っている。
ややあって、小さな吐息をこぼして……
「……うまくいっていたと思ったのに、ホント、苛立つ人ね」
こちらを鋭く睨みつけてきた。
朝、学院の寮に驚きのニュースが走る。
レン・ストライン。
メル・ティアーズ。
決勝戦で激突するはずの二人がなにかしらの事故に遭い、治療を受けているという。
容態は不明。
事故の内容も不明。
なにもかも不明で、生徒達には動揺が広がっていた。
魔法大会はどうなってしまうのだろう?
そもそも、二人は大丈夫だろうか?
そんな中。
「ふふ」
一人の生徒は小さな笑みを浮かべていた。
狙い通りだ。
レンとメルは勘違いをして、戦い、そして脱落した。
二人を害したのは、邪魔だから、の一言に尽きる。
事件のことを探っていたため、このままだと成し遂げられないかもしれない。
故に排除する。
それともう一つ。
なぜかわからないが、二人は強大な魔力を持っていた。
その魔力を利用することで、本当の狙いである、特殊な魔法陣を発動することができる。
今までの魔法陣は、ぶっちゃけてしまうと、全てどうでもいい。
実験のため。
それと、真の狙いから目を逸らすための陽動だ。
狙い通り、レンとメルはどうでもいい魔法陣に釣られた。
そして、互いを敵と認定して激突した。
自信はあった。
二人が衝突するような、細かなところで色々な仕掛けを残しておいた。
だからこその結果であり、満足いくものだ。
後は、真の目的である特殊な魔法陣を発動するだけだ。
その魔法陣は、普通は見えない。
絶対に発見することはできないという自信があった。
なぜなら、今まで設置してきた魔法陣で構成されているからだ。
魔法陣の設置場所を線で繋ぐと、学園を覆う巨大な陣が描かれていることに気づくだろう。
そう。
今までの魔法陣は実験と陽動だけではなくて、それ自体が最終目標の魔法陣の一つになるように設計されていたのだ。
「さあ……仕上げを行いましょう」
――――――――――
学園の屋上。
魔法大会の間は立ち入り禁止となっていて、誰もいない。
ただ、誰もいないはずの屋上の扉が開いた。
その人は笑みを浮かべつつ、屋上の中心に移動する。
床に膝をついて、手を当てて……
「ど、どういうこと……!?」
動揺の声をこぼす。
そのタイミングで、俺は表に出た。
「そこまでだ」
「っ……!? あ、あなたは……」
その人はとても驚いた顔をしていた。
どうしてあなたがここにいるの? と、驚いていた。
その疑問に答えるよりも先に、別の答え合わせをしよう。
「一連の事件の真犯人は、君だったんだな……ハンナ・リーゼロッタ」
――――――――――
「……っ……」
ハンナは奥歯を噛み、とても苦い顔をした。
でも、それは少し。
すぐにいつもの優しい顔に戻る。
「えっと……真犯人ってどういうことですか? というか、レン君は大丈夫だったんですか?」
「ああ、なにも問題はない。俺とメルが怪我をしたっていうのは、嘘だからな」
「え」
昨夜。
あれから色々と考えたんだけど、真犯人を釣り上げるために、あえて敵の策に乗ることにした。
真犯人が予想していたであろう、俺とメルの排除。
それが実際に起きたかのように見せるため、先生にも協力してもらい、そういう噂を流してもらった。
先生は渋っていたものの、そこは、アラム姉さんが強引に押し通しだ。
そういうところは得意なのだ、あの人は。
で……
事は犯人が思い描いた通りに進んでいる。
と、勘違いさせて、ここに真犯人が現われるのを待っていた、というわけだ。
「目的はまだわからないんだけど……あちらこちらに魔法陣を仕掛けていたのは、ハンナだったんだな?」
「えっと……なんのこと?」
「そして今、ここにある、各地を繋ぐ巨大な魔法陣を起動しようとしている」
「だから、なんのことかわかりません。レン君は、なにか勘違いをしていませんか?」
「……悪いけど、証拠はあるんだ」
本当なら、もっと早くこの結論に達していた。
ハンナのことを怪しむ機会はあった。
あった、というか……
心のどこかで怪しんでいた。
でも、彼女は違うだろう、と思いこんでいた。
身近にいる人が犯人なんて思いたくなくて、目を反らしていた。
これは俺のミスだ。
だから、俺がなんとかしないといけない。
みんなはいざという時のために、いつでも動けるように待機しているけど……
今は、俺だけに任せてほしい。
「証拠……ですか?」
「これ」
俺は、ポケットからお守りを取り出した。
以前、ハンナからもらったものだ。
「知っているか? お守りっていうのは、祈りや願いを乗せて神様に運ぶものなんだ。だから、精神的なエネルギーである魔力が乗りやすい」
「……」
「たぶん、このお守りには、位置を把握するための仕掛けがあったんだろうな。それで俺の行動を把握して、メルと衝突するように仕向けた。調べてみたら、メルも同じようなものをもらっていた、ってさ」
「……」
「で……このお守りにある魔力は、ハンナのもの。そして、魔法陣に残されていた魔力とハンナの魔力は一致した。すでに調査済み。俺を思うように動かすために、このお守りを使ったみたいだけど……絶対に失敗しないっていう、入念すぎる計画が仇になったな」
「……」
ハンナは沈黙を保っている。
ややあって、小さな吐息をこぼして……
「……うまくいっていたと思ったのに、ホント、苛立つ人ね」
こちらを鋭く睨みつけてきた。