「火炎槍<ファイアランス>!」

 メルはこちらに向かって駆けつつ、同時に魔法を放つ。

 わざわざ距離を詰める?
 その意味を最初は理解できず、困惑してしまう。

「氷雪槍<アイシクルランス>!」

 アラム姉さんも魔法を詠唱して、炎の槍を相殺した。

 ただ、メルは止まらない。
 最初から相殺されることを想定していたかのように、まったく動揺せず、足を止めない。

 ダンッ! と、こちらの手前で強い一歩を踏み込む。
 同時に体勢を低く。
 その状態から、天に駆け上るかのような、鋭い蹴りを放ってきた。

「くっ……!?」

 状態を反らすことでなんとか回避した。

 危ない。
 少しでも遅れていたら顎に直撃して、たぶん、意識を刈り取られていただろう。

「甘いよ」
「!?」

 メルは、さらなる追撃を考えていたのだろう。
 無駄のない動きのため、すぐに次に攻撃を繋げることができる。

 蹴り上げた足を元に戻して、今度はそちらを軸足に。
 回転しつつ、反対の足で回し蹴りを放つ。

「ぐっ……!」

 今度は避けられない。
 両手を前で交差させて、どうにかこうにか防いだものの、ビリビリと痛みが走る。

 それだけじゃなくて……

「氷裂牙<フリーズストライク>!」

 格闘の合間に魔法を挟み込んでくる。

「光盾<ライトシールド>!」

 そちらは魔法で防いだ。
 近くの机を蹴り飛ばして、跳んで、距離を稼ぐ。

 メルは今までに見たことのない戦い方をする。
 魔法と格闘術を組み合わせた……魔法拳士というべきか。

 正直言って、ものすごく楽しい。
 どんな経緯で、どんな発想でそうなったのか、とことん語り合いたい。

 こんな状況だけど……
 危機感よりもわくわくの方が強い。

「やるね」
「メルこそ」
「こんなに強い人が……君のような人が、こんなことをしているなんて残念だよ。ボクの平穏のために、ここで倒させてもらうよ」
「ちょっと待ちなさい」

 強い決意を見せるメルに、同じく、アラム姉さんが強い調子で言う。

「話を聞いていれば、まるでレンが悪者みたいな言い方じゃない。いったい、あなたは何様のつもりなのかしら? どう考えても、あなたの方が平穏を乱す悪者でしょう」
「え」

 ここまでストレートに非難されるとは思っていなかったのだろう。
 メルが困惑気味に眉をたわめた。

「あなたがなにを考えているかわからないけど、私の弟は悪いことなんてしないわ。むしろ、良いことしかしていないの」
「えっと……」
「そんなこと、見ればわかるでしょう? だって、レンはこんなに可愛くて、そして賢いのだもの」

 いや、あの。
 そこで俺を抱きしめるのはやめて?

「そんなレンに手を出そうとするのなら、あなたの方が悪よ! 私は容赦しないわ」
「えっと……あれ?」

 メルが、やや間の抜けた声をこぼした。

 そんな彼女を見て、ふと疑問に思う。
 魔法陣は、本当に彼女が仕掛けていたのだろうか?
 色々と行き違い、誤解があるのではないか?

「……メル」
「……なに?」
「とりあえず、ちょっと話をしないか? なんか、互いに大きな誤解をしているような気がしてきた」
「奇遇だね。ボクもそう思っていたところだよ」



――――――――――



「それじゃあ、魔法陣はメルの仕業じゃないのか……」

 一度矛を収めて、話をして……
 結果、メルは犯人ではないことが判明した。

 メルも、独自に事件の犯人を探していたらしい。
 事件現場でちょくちょく見かけたのはそのせいだ。

 そして今夜。
 俺と同じ推理をして、学校に忍び込んで……
 そして、同じく学校に忍び込んだ俺とアラム姉さんと遭遇した。

 疑うよな、そりゃ。

「悪い、紛らわしいことをしたな」
「ううん。ボクの方こそごめん。ちょっと早とちりがすぎたかも……」

 互いに反省。
 ここにエリゼがいたら、「仲直りの握手ですね!」とか言っていたと思う。

「……もしかしたら、これは犯人の罠かもしれないわね」
「どういうことですか、アラム姉さん?」
「私達の動きは、犯人に予想されていたの。あえて目立つところに魔法陣を残して、それを見た私達は誤解をして争う……そんな計算だったのかも」

 可能性はある。
 今回の事件の犯人、思っていたよりも狡猾だ。

 くそ。
 ここまで見事にやられてしまうと、さすがに悔しいな。

「一度、エリゼ達と合流しましょう。話はそこで改めて」
「それ、ボクも参加させてもらってもいいかな? 色々と説明しておいた方がいいだろうし」
「ええ、お願いするわ」
「ありがと」
「……」

 二人の会話を聞きつつ、考える。

 犯人の策に翻弄されてしまった。
 でも、このままやられっぱなしでいるつもりはない。
 逆にやり返してやりたい。

 そのためには……