「わー♪ 色々なお店がありますね!」

 運動用のグラウンドに多数の露店が出店されていた。
 大半が生徒によるもの。
 少数ではあるが、街の人々も関わっている。

 例えば、ケーキ。
 街で提供されているものを、生徒達がお願いして提供してもらう。
 生徒達はおいしいケーキを売りに、露店を開くことができる。
 店は学院でアピールできる。
 ウィンウィンの関係だ。

 そういう店がたくさんあるため、商品はバリエーション豊かだ。

「あら、おいしい匂いがするわ」

 アラム姉さんの視線を追いかけると、たこ焼き屋があった。
 ソースの香ばしい匂いが漂う。

「たこ焼き……初めて聞く料理ですわね。フィア、これはなにかしら?」
「えっと……お祭りなどでよくある、簡単な料理ですね」
「興味がありますわね……ねえ、一つくださいな」

 シャルロッテはたこ焼きを買い……
 しかし、たこ焼きが盛られた紙皿を見て、小首を傾げる。

「これ、どうやって食べますの?」
「シャルロッテさん、こうやって食べるんですよ」

 エリゼが同じくたこ焼きを買い、セットの爪楊枝ですくい、ぱくりと食べた。

「あふ、あふ……んー、おいしいです♪」
「た、立ったまま、ここで食べますの……? しかも、一口で……?」
「そういう食べ物なんです」

 えへん、となぜかエリゼが胸を張る。

 シャルロッテは迷い顔だ。
 お嬢様なので、作法に厳しいのかもしれない。

 でも、覚悟を決めた様子でぱくりと食べる。

「……んーーーっ!?」

 涙目になった。

「あぁ、お、お嬢様!?」
「ダメよ、たこ焼きは熱いから、ゆっくり食べないと」
「今更言っても遅いわ。エリゼ、水を!」
「は、はい!」

 ちょっとした騒ぎになった。

「はぁあああああ……酷い目に遭いましたわ……」
「ごめんなさい。熱いっていうこと、ちゃんと伝えておくべきでした……」
「いいえ、エリゼさんは悪くないわ。それに……熱いけれど、とてもおいしいですわ」

 エリゼは残りのたこ焼きを笑顔で食べる。
 今度は火傷なんかしないで、はふはふとしつつも、おいしく食べていた。

 その後は、みんなで色々な露店を見て回る。

 焼きそば、かき氷、フルーツドリンク。
 的当て、輪投げ、金魚すくい。

 食べ物だけじゃなくて遊戯も用意されていて、ついつい子供心に返って全力で遊んでしまう。

「お兄ちゃん、みなさん。次はどこに行きますか?」
「エリゼ、あまり離れないように。迷子になるわよ」
「大丈夫ですよ」
「まったく」

 なんて言いつつも、アラム姉さんは優しい顔をしている。
 妹が可愛くて仕方ないのだろう。

 ただ、それだけじゃなくて……

「……エリゼ、すっかり元気になったわね」

 どこかしんみりとした様子で言う。

「昔はあんなに病弱だったのに」
「そうだったんですか?」

 話を聞いていたアリーシャが意外そうな顔をした。
 彼女は昔のエリゼを知らないから、そう思うのも当然かもしれない。

「よく熱を出して、ちょっと無理をしたら倒れていたの。命が危ない時もあったわ」
「それは……」
「でも、レンが助けてくれた」

 よしよし、と頭を撫でられる。

「えっと……アラム姉さん?」
「思えば、なにもしていなかったわね。あの時はありがとう、レン。エリゼを助けてくれて」
「そんなの当然じゃないですか。エリゼは、大事な妹なんですから」

 それに、エリゼには色々と感謝している。
 エリゼがいたからこそ、俺は変わることができた。

 ただ力を追い求めるだけじゃなくて……
 誰かのために戦う、ということを知ることができた。

「それと、一応言っておきますけど……アラム姉さんも大事な人ですよ」
「え?」
「嫌な例えですけど……アラム姉さんになにかあった場合、全力で助けますからね」
「……レン……」

 アラム姉さんは感激した顔になって、

「もう、この子ったら」
「ふぐっ!?」

 思い切り抱きしめられた。

 む、胸が……!?

「私も同じよ。レンのためなら、どんなことでもするわ。だって、私はお姉ちゃんだもの」
「ぐぐぐ……!?」

 アラム姉さんは喜んでくれているみたいだけど……

「……レン、なんだか嬉しそうですわね」
「……ず、ずるいです」
「……私も、お兄ちゃんをぎゅっとしたいです」
「……ふーん。レンは、そういうことを狙っていたわけね」

 女性陣の冷たい声が。
 誤解だ!
 俺はなにもしていない!?

 そう叫びたいのだけど、でも、抱きしめられているせいでなにもできなくて……
 この後、誤解を解くのに30分くらいかかった。