舞台の上でエリゼと向き合う。

 エリゼも順調に勝ち上がっていたらしく……
 そして、どんな運命のいたずらか、またも身内で戦うことに。

 ほんと、神様は意地悪だ。

「お兄ちゃん!」
「うん?」
「私、がんばりますね! だから、お兄ちゃんも全力で来てくれると嬉しいです!」

 エリゼはやる気に満ちていた。
 身内で戦うなんて……と、現状を嘆いている様子はない。
 むしろ楽しんでいるらしい。

 ……俺もエリゼを見習うか。

「わかった、手加減はしないよ」
「はい、お願いします」

 たぶん、エリゼは嬉しいんだろうな。

 昔は病弱で、すぐに寝込んでいた。
 でも、それは克服できた。
 こうして大会に出場できるほどになった。

 どこまでできるか?
 それを試したいのだろう。

「始め!」

 審判の合図で、俺とエリゼは同時に動いた。

 俺は距離を詰めるため、前に。
 エリゼは距離を取るため、後ろに。
 それぞれ正反対の動きをした。

「火炎槍<ファイアランス>!」
「光槍<ライトアロー>!」

 それぞれ魔法を放ち、激突。
 どちらかが勝るということはなくて、相殺されてしまう。

 やるな。

 今の『火炎槍<ファイアランス>』はそれなりの魔力を込めていたのに……
 エリゼはそれを相殺してみせた。
 なかなかできることじゃない。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 試しに、もう一度同じ魔法を放ってみた。
 さて、どうする?

「よいしょ!」
「えっ」

 エリゼは魔法で防がない。
 なんと、単純に走って避けてみせた。

 『火炎槍<ファイアランス>』は初級の魔法だけど、魔力を込めれば威力は上昇するし、速度も上がる。
 走るだけで避けられるようなものじゃないんだけど……

 それだけエリゼの身体能力が優れているということか。
 エリクサーを飲んだおかげじゃない。
 元々、運動神経に優れていたんだろう。

「面白いな」

 兄妹対決ということを忘れて、この決闘を楽しみつつあった。

 魔力は高く、身体能力も高い。
 的確な判断をして、咄嗟の機転も効く。
 エリゼは強敵だ。

「これはどうする? 疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」

 中級の風魔法を放つ。
 リングの上に嵐が出現して、エリゼを飲み込もうとした。

「聖盾<ホーリーシールド>!」

 対するエリゼは光魔法で防いだ。

 簡単に防げるようなものじゃないんだけど……
 うん。
 本当に成長したな。
 妹の成長を嬉しく思う。

 ただ……

「火炎槍<ファイアランス>!」
「光槍<ライトアロー>!」
「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
「光槍<ライトアロー>! 聖盾<ホーリーシールド>!」

 魔法の応射が続く。

 よく食らいついているが……
 エリゼは次第に防戦一方になってきた。

 それも仕方ない。
 この辺は経験の差だ。
 普通の学生なら、入学した後に戦術を学ぶ。
 ただ俺は、前世の経験からすでに色々な戦術を覚えている。
 その差は大きい。

「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
「聖盾<ホーリーシールド>! って……え?」

 魔法を唱えるフリで、実際に魔力は注いでいない。
 ただ、エリゼは引っかかり、防御魔法を唱えてしまう。

 それが大きな隙となる。
 一気に距離を詰めて、エリゼの横に回り込む。
 そして、杖を突きつけた。

「ここから逆転する方法はあるか?」
「……ないです」

 エリゼは、ちょっとしょんぼりした様子で降参を告げて……
 でも、すぐに笑顔になった。

「やっぱりお兄ちゃんはすごいです! 私、ぜんぜん敵いませんでした!」
「そんなことないさ。エリゼも強かったと思う」
「本当ですか!? えへへ、お兄ちゃんに褒められてしまいました」
「うわっ」

 喜ぶエリゼはそのまま抱きついてきた。
 試合が終わったばかりで、まだリングの上なのだけど……

「ま、いいか」