転生賢者のやり直し~俺だけ使える規格外魔法で二度目の人生を無双する~

「ふぅ」

 控え室に戻り、そこで教師や医師の診察を受けた。

 怪我をしていないか?
 無理をしていないか?
 一試合毎にチェックが入るのだ。

 もちろん、俺は問題なし。
 次の試合に進むことができた。

「次は誰かな?」

 初戦はいきなり身内だった。
 アリーシャは強いから戦い甲斐はあるのだけど、やっぱり、身内で潰し合うのは微妙な気持ちになってしまう。

 あと、せっかくなら見知らぬ強敵と戦いたい。
 まったく予想外の戦術を使ってくる相手とかがいい。
 身内だと、ある程度は手の内は知っているからな。

「はい?」

 ふと、控え室の扉がノックされた。

 先生が連絡事項を伝え忘れたのかな?
 そんなことを思っていたら、入ってきたのはハンナだった。

「一回戦突破、おめでとう。試合、こっそり応援していましたよ」
「ありがとう」

 予想外の来客に驚きつつ、祝福を素直に受け取り、嬉しく思う。

「解説はいいの?」
「ずっとやるわけじゃなくて、交代でやっているんです。今、私は休憩なので」
「そっか」
「それで……試合を終えたばかりですみませんなんですけど、ちょっと相談したいことが」
「……例の事件について?」
「はい」

 勝利の余韻は一瞬で吹き飛んで、気が引き締まる。

「さきほど妙な気配を感じて……今は使われていない教室を調べたら、地震を引き起こす魔法陣が設置されていました」
「そんな……本当に?」
「はい。幸い、私の手でなんとか止めることはできたんですけど……」

 それは本当に助かる話だ。
 大会の最中に地震が起きていたら、程度にもよるけど混乱が起きてしまう。
 下手をしたら、その混乱で怪我人が出る。

「先生に報告はしておきました。現場はしばらく残すそうなので、一応、時間のある時にレン君にも見てもらいたいです」
「……急ぎ?」
「たぶん、大丈夫です。魔法陣の効力は完全に失われているので」
「うん。なら、今日の試合が終わった後に確認しておくよ」
「お願いします」

 ハンナがぺこりと頭を下げた。
 律儀で丁寧な子だ。

「私が見ても、魔法陣がどういうものなのか、どんな目的で設置されているのか、さっぱりわからなくて……でも、レン君ならもしかして、と」
「俺のこと、ずいぶん買ってくれているんだな」
「男なのに、とか、そんなことは思いませんよ。レン君は、そんな偏見を吹き飛ばすくらいの活躍をしているじゃないですか」

 そう言われてみるとそうかもしれない。

 とはいえ、俺は特に意識していないんだよな。
 降りかかる火の粉を払っているだけだ。
 その対象が俺だけじゃなくて、身内も含まれている、というだけの話。

 前世の俺なら、わざわざ学院を守ろうとは思わなかっただろうけど……
 なんだろうな。
 不思議だ。
 今は、絶対に守らないと、っていう気持ちになっている。

 どうしてこんな変化が起きたんだろう?

「それともう一つ」

 ハンナが気まずそうな顔をして言う。

「その……魔法陣が設置されていた教室の近くで、やはりメルさんを見かけまして……」
「間違いない?」
「遠目だったので、たぶん、っていう曖昧な答えになってしまいますけど……」
「ふむ」

 決定的な証拠はない。
 ただ、ここまで状況証拠が揃うと、メルが途端に怪しくなってしまう。

 事件の犯人なのか?

 それはわからないけど、それなりに関わっていることはもう間違いないだろう。
 その目的を確認したいけど……

「あいつはあいつで秘密主義なんだよな」

 一見すると気さくで明るく、秘密なんて抱えていないように見える。
 でも、心に壁を感じた。
 ある一線以上は決して踏み込ませない。
 自身が抱える感情も考えも表に出すことはない。

 ほんと、なにを考えているのやら。

「とりあえず、そのことを伝えておかないと、って思いまして……」
「うん、ありがとう。知らないと知っているじゃあ今後の対応が変わってくるから、すごく助かるよ」
「ちょっとでも力になれたなら嬉しいです。がんばって、今回の事件を突き止めて、一緒に解決しましょう」
「……ああ」

 改めて決意をして、ハンナと握手をした。

「っと……私、そろそろ戻らないと」
「俺は、もうすぐ次の試合だな」
「事件のこともそうですけど、試合もがんばってくださいね。私、応援しています。あ、そうだ」

 ハンナはポケットからお守りを取り出した。

「これ、どうぞ」
「いいの?」
「はい。効果があるかどうか、わからないですけど……」
「いや、嬉しいよ。ありがとう」

 ハンナはにっこりと笑い、控え室を後にした。

 一人になり、静かになった空間で考える。

「メルは……敵なのか? それとも……」
 第二試合の相手はシャルロッテだった。
 身内戦が連続すると、どんな運命のいたずらだ、と神様をちょっと恨みたくなってしまう。

 でも、これはこれで楽しそうだ、なんて思う俺は俺で問題かもしれない。

「ふふんっ、今日のわたくしはついていますわ!」

 訓練場で向き合うシャルロッテは得意そうな笑みを浮かべていた。

「なんで、ついているんだ?」
「レン、あなたと戦うことができるからよ!」
「えっと……話が見えてこないんだけど」
「わたくしは、元々、優勝はあまり気にしていないので。ただ、レンと戦い、そして勝つ。それを一番の目標にしてきたのですわ」
「そう……なのか? もしかして、前に負けたことを気にしている?」
「さらっと人の傷に触れないでくれません!?」

 シャルロッテが頬を膨らませて、拗ねるように怒った。
 やっぱりあれは、あまり触れられたくないことらしい。

「あなたはすごい人。それと、男だけどしっかりした人。それはわかっているのですが……わたくしにもプライドがありますわ。負けたままではいられません」
「なるほど。ならこれはリベンジマッチ、っていうわけか」
「ええ、その通りですわ」
「そういうのは嫌いじゃない」

 俺は笑う。
 シャルロッテも不敵に笑う。

 互いに睨みつけて……

「開始!」

 審判の合図で同時に前に出た。
 そして魔法を発動。

「火炎槍<ファイアランス>!」
「氷烈牙<フリーズストライク>!」

 互いの魔法が激突して、打ち消し合う。
 俺の方は初級魔法だったのだけど、魔力量と属性の相性のおかげで、なんとか互角のところに持ち込めたようだ。

「雷撃槍<サンダーランス>!」

 シャルロッテはさらに魔法を放ち、

「閃光爆炎陣<フラッシュインパクト>!」

「竜哮波<ドラグーンハウリング>!」

「乱撃炎撃<マルチフレア>!」

 さらに、立て続けに中級魔法を唱えてきた。

「ちょっ!?」

 あまりにも詠唱が早すぎないか!?
 俺の倍以上……いや、その上をいっている。

 反撃は無理だ。
 防御も難しい。

 あえて受け止める、という手もあるけど……
 シャルロッテがなんの対策もしていないとは考えづらいので、それはやめておこう。

 回避に専念した。
 跳んで、転がり、再び跳ぶ。
 いくらかかすったものの、直撃は避けることができた。

「なんだよ、そのデタラメな詠唱速度は……!?」
「ふふんっ、素直に教えてさしあげると思って?」

 不敵に笑いつつ、さらにシャルロッテは魔法を次々と放つ。
 もはや連射だ。
 魔法の嵐が吹き荒れて、どんどんこちらの魔力が削られてしまう。

 まだ余裕はあるけど……
 これが続いたら、ちょっとまずいかもしれないな。

 シャルロッテは、おそらく初手から切り札を切っている。
 それが、この異常なまでの詠唱速度の早さだろう。

 いったい、どんな手を使っているんだ?
 俺は防御と回避に専念して、シャルロッテの切り札を解明することに専念した。

 上級魔法などで力任せの反撃に出てもいいのだけど……
 ただ、今は彼女が使う力、技術に興味がある。
 それを解き明かしたい、という欲求を抑えることができない。

 これ、俺の悪い癖だな。

 自嘲しつつ、戦闘を続ける。

「ふふ、逃げてばかりでは勝てませんわよ?」
「くっ……」

 自分の優位を確信するシャルロッテは、立て続けに魔法を放つ。

 って……ちょっとまてよ?
 彼女、ちゃんとした詠唱をしていないのでは?
 詠唱らしきものはしているが、ほんの一言。
 本来、魔法を放つために必要な詠唱を丸々省いているような気がした。

 戦いの最中だから、きちんと確認することはできない。
 見間違えという可能性もあるけど……

 ……いや。
 なるほど、そういうことか。

「これで終わりですの? わたくしの切り札の前に手も足も出ないなんて、それはそれで、ちょっとがっかりですわね。レンは、もっとやれると思っていたのですが」

 思っていた通り、よくわからないタイミングでシャルロッテは挑発めいたことを言う。
 それはただの挑発ではなくて、彼女にとって必要なことなのだ。

「もっとやれるさ」
「え?」
「シャルロッテの切り札、わかったよ」
「なっ……で、デタラメですわ。そのようなことは……」
「遅延魔法」
「っ……!?」

 シャルロッテの顔色が青くなる。

「あらかじめ魔法を唱えておいて、でも、それを発動することなく、矢のようにしてストックしておく。そして任意のタイミングで、ストックしておいた魔法を一瞬で発動することができる。そんな魔法理論があることを、どこかの本で見たんだけど……完成させていたんだな」
「……まさか、こうも早く見抜かれるなんて」

 正解のようだ。
 シャルロッテは苦い顔をしつつ、でも、楽しそうだった。

「さすがレンですわね。下手をしたら見抜かれるかもしれないと思っていましたが、まさか、こんなに早いとは思っていませんでしたわ」
「ありがとう」
「ですが……わたくしの切り札を見抜いたからといって、すぐに攻略法は思いつかないはず! このまま押し切らせてもらいますわ!」

 今の会話の間に充填は完了したらしい。
 連続で魔法を放とうとするけど……

「加速<アクセル>!」

 瞬間的な移動を可能とする魔法を使い、シャルロッテの懐に潜り込む。

「なっ……!?」
「確かにそれは脅威だけど、放つ前に止めたら問題ないよな?」

 ぽんと、シャルロッテのお腹に手を当てて、

「紫電烈閃掌<プラズマインパクト>!」

 アリーシャの時と同じ魔法を放つ
 紫電がシャルロッテを包み込み、その身に宿る魔力を根こそぎ奪い取り……

「あ……うぅ……」

 シャルロッテは意識をなくして、そのまま倒れそうになる。

「おっと」

 そのまま倒れたら危ないので、そっと受け止めた。
 完全に意識を失っている。

「そこまで!」

 審判がそれを確認したところで、俺の勝利が確定した。
 控え室でいつもの検査が問題なく終了した。

 これで今日の試合は終了。
 明日は、第三、第四……そしてうまくいけば、準決勝だ。

 控え室を出ると、先に検査を終えていたらしくシャルロッテの姿があった。

「遅かったわね」
「どうしたんだ?」
「えっと、その……よくやったわね!」
「うん?」

 褒められている……のか?

「わたくしと戦い、まさか勝ってしまうなんて。まあまあですわね。褒めてさしあげますわ!」
「前にも勝ってるけど」
「うぐっ」

 言ってはいけない一言だったらしく、シャルロッテが涙目になる。
 意外と、平時のメンタルは脆いんだよな。

 ふと、彼女の影に隠れていたフィアが出る。

「えっと……お嬢様は、レン君との試合を称えたくて」
「そうなの?」
「はい。お嬢様は負けてしまいましたが、でも、レン君がすごいって言っていて……」
「ふぃ、フィア!? デタラメを言わないでくれません!?」
「えぇ。でも、確かにさっき……」
「わ、わたくしはそのようなことは言いませんわ! ふんっ、いきますわよ」
「あ、お嬢様?!」

 シャルロッテとフィアが立ち去る。

「えっと……」

 苦笑した。
 たぶん、フィアの言う通りなのだろう。

「素直じゃないヤツだな」

 でも、最初会った時と比べると、だいぶ丸くなった方なのかな?
 男嫌いも多少、緩和されたみたいだし。

「明日に備えて今日は休もう……って、そうできたらいいんだけどな」

 純粋に魔法大会を楽しみたいが、そういうわけにもいかない。
 何者かが、大会の裏で妙な魔法陣を設置して、軽い地震を引き起こしている。
 その犯人がメルかもしれない。

 放っておけない。

「先生に報告してもいいんだけど……いや、ダメか。証拠がまるでない」

 もう少し、独自で調査をしなければいけないだろう。

 とはいえ、一人じゃない。
 ハンナが協力してくれている。

 いざという時はエリゼやアリーシャ。
 シャルロッテやフィアに……

「……いや、ダメだ」

 みんなを巻き込みたくない。
 下手をしたら危険なことになるだろうから、俺がやるべきだ。

「できればハンナも安全なところにいてほしいんだけど、彼女はもう知っちゃったからなあ」

 できる限り、俺が前に出て危険なことを担当しよう。

「……ん?」

 ふと、妙な魔力を感じた。
 すぐ近くでもなくて、すごく遠くというわけじゃない。
 中間の距離。

「学院内だな」

 会場を後にして校舎に向かう。
 魔力の流れを辿り、中等部の校舎へ。
 そこからさらに、今は使われていないらしい空き教室へ移動した。

「これは……」

 例の魔法陣が設置されていた。
 淡い光を放ち、まだ稼働中であることを示している。

 ただ、本格的に効果は発動していないみたいだ。
 たぶん、力を貯めている最中なのだろう。
 このまましばらく放置すれば魔法が発動して、また地震が起きるのだろう。

「本当ならメモ帳なんかにしっかりと記録を残しておきたいんだけど」

 その間に魔法が発動したらまずい。
 発動はしばらく先と見ているものの、その見立てが間違っている場合もある。

 じっと見て、頭に記憶。
 それから魔法陣に手を添えて、魔力を流して効果を阻害。

 ビシッ!

 鈍い音と共に魔法陣の一部が欠けて、光が消えていく。
 破壊、成功。
 放っておけば全体も消えて、完全に効果がなくなるだろう。

「大会中も動いていたか。これ、やっぱり……」
「あれ? こんなところでなにをしているの?」

 ちょうど頭に思い浮かべていた人物……メルが空き教室に姿を見せた。
「メル……!?」
「んー……?」

 メルはいつものように呑気な表情で。
 でも、目は鋭く。
 空き教室の状況を確認する。

「なんか、面白いものがあるね。それ、どうしたの?」

 魔法陣のことだ。
 あえて明確に指摘しないのは、なにか意図があってのことか……
 それとも、とぼけているのか。

「ほんと、面白そうなものだけど……こんなところでなにをしているのかな? かな?」

 メルは笑顔だ。
 ただ、目は笑っていない。
 猜疑心をこちらに向けているのがハッキリとわかる。

 もしかして……

 これ、俺がやったと思われている?
 だとしたら、とんだ勘違いだ。

 いや。
 あるいは、俺に罪をなすりつけようと……ダメだ。
 今は情報が足りない。
 そのせいで疑心暗鬼になっていて、なにを信じればいいかわからなくなっていた。

 とにかく、今は誤解を解こう。

「俺もよくわからないんだ。妙な魔力を感じてここにやってきたんだけど、そうしたら、これがあったんだよ」
「ふーん……本当に?」
「本当だよ。まあ、証明する術はないけどな」

 「証拠は?」と言われる可能性もあったため、先にその台詞を潰しておいた。

「……それで、魔法陣はどうしたの?」
「見ての通り、機能を停止させておいた。なんか、嫌な感じがしたからな」
「そっか。それでいいと思うよ? ボクも同じ意見だからね」

 やられた、と思っているのか。
 あるいは、本心からの言葉なのか。

 どうにもこうにも判断がつかない。

 まいったな。
 魔法に関する知識はあるものの、人を観察する知識はない。
 メルが嘘をついているかどうか、まったくわからない。

 そういう方面も勉強しておくべきだったな。

「ま、いいや」

 メルは興味をなくした様子で、くるっと反転した。
 そのまま空き教室を出て……

「あ、そうだ」

 出ていく前に足を止めて、振り返る。

「ボク、今日の試合、ちゃんと全部勝ったからね?」
「……俺も勝ったよ」
「ブロック分けを見ると、決勝戦までいかないとぶつからないけど……レンは、自信はどれくらいある?」
「けっこうあるよ。メルは?」
「ボクも」

 不敵な笑みを浮かべて……
 たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。

「戦えるのを楽しみにしているよ♪」

 ひらひらと手を振りつつ、メルは、今度こそこの場を後にした。

「……はぁ」

 本来なら、魔法大会だけに集中したいのに……
 裏で妙なことが起きている。
 それにメルが関わっているかもしれない。

「まったく……厄介事と縁が切れることはないな」

 これも、前世から続く因縁のせいなのだろうか?



――――――――――



 魔法大会2日目。

「勝者、レン・ストライン!」

 第一試合となり……
 そして、俺は順調に勝利を収めた。

 相手は知らない生徒。
 上級生だったらしく、なかなかに洗練された魔法を使っていたけれど……
 あれならアリーシャやシャルロッテの方が上だ。

 控え室に戻り、次の試合に備える。
 順調に進めば、今日は後二試合だ。

 その二戦目の相手が……

「なんで、よりにもよってエリゼなんだ……」
 舞台の上でエリゼと向き合う。

 エリゼも順調に勝ち上がっていたらしく……
 そして、どんな運命のいたずらか、またも身内で戦うことに。

 ほんと、神様は意地悪だ。

「お兄ちゃん!」
「うん?」
「私、がんばりますね! だから、お兄ちゃんも全力で来てくれると嬉しいです!」

 エリゼはやる気に満ちていた。
 身内で戦うなんて……と、現状を嘆いている様子はない。
 むしろ楽しんでいるらしい。

 ……俺もエリゼを見習うか。

「わかった、手加減はしないよ」
「はい、お願いします」

 たぶん、エリゼは嬉しいんだろうな。

 昔は病弱で、すぐに寝込んでいた。
 でも、それは克服できた。
 こうして大会に出場できるほどになった。

 どこまでできるか?
 それを試したいのだろう。

「始め!」

 審判の合図で、俺とエリゼは同時に動いた。

 俺は距離を詰めるため、前に。
 エリゼは距離を取るため、後ろに。
 それぞれ正反対の動きをした。

「火炎槍<ファイアランス>!」
「光槍<ライトアロー>!」

 それぞれ魔法を放ち、激突。
 どちらかが勝るということはなくて、相殺されてしまう。

 やるな。

 今の『火炎槍<ファイアランス>』はそれなりの魔力を込めていたのに……
 エリゼはそれを相殺してみせた。
 なかなかできることじゃない。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 試しに、もう一度同じ魔法を放ってみた。
 さて、どうする?

「よいしょ!」
「えっ」

 エリゼは魔法で防がない。
 なんと、単純に走って避けてみせた。

 『火炎槍<ファイアランス>』は初級の魔法だけど、魔力を込めれば威力は上昇するし、速度も上がる。
 走るだけで避けられるようなものじゃないんだけど……

 それだけエリゼの身体能力が優れているということか。
 エリクサーを飲んだおかげじゃない。
 元々、運動神経に優れていたんだろう。

「面白いな」

 兄妹対決ということを忘れて、この決闘を楽しみつつあった。

 魔力は高く、身体能力も高い。
 的確な判断をして、咄嗟の機転も効く。
 エリゼは強敵だ。

「これはどうする? 疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」

 中級の風魔法を放つ。
 リングの上に嵐が出現して、エリゼを飲み込もうとした。

「聖盾<ホーリーシールド>!」

 対するエリゼは光魔法で防いだ。

 簡単に防げるようなものじゃないんだけど……
 うん。
 本当に成長したな。
 妹の成長を嬉しく思う。

 ただ……

「火炎槍<ファイアランス>!」
「光槍<ライトアロー>!」
「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
「光槍<ライトアロー>! 聖盾<ホーリーシールド>!」

 魔法の応射が続く。

 よく食らいついているが……
 エリゼは次第に防戦一方になってきた。

 それも仕方ない。
 この辺は経験の差だ。
 普通の学生なら、入学した後に戦術を学ぶ。
 ただ俺は、前世の経験からすでに色々な戦術を覚えている。
 その差は大きい。

「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
「聖盾<ホーリーシールド>! って……え?」

 魔法を唱えるフリで、実際に魔力は注いでいない。
 ただ、エリゼは引っかかり、防御魔法を唱えてしまう。

 それが大きな隙となる。
 一気に距離を詰めて、エリゼの横に回り込む。
 そして、杖を突きつけた。

「ここから逆転する方法はあるか?」
「……ないです」

 エリゼは、ちょっとしょんぼりした様子で降参を告げて……
 でも、すぐに笑顔になった。

「やっぱりお兄ちゃんはすごいです! 私、ぜんぜん敵いませんでした!」
「そんなことないさ。エリゼも強かったと思う」
「本当ですか!? えへへ、お兄ちゃんに褒められてしまいました」
「うわっ」

 喜ぶエリゼはそのまま抱きついてきた。
 試合が終わったばかりで、まだリングの上なのだけど……

「ま、いいか」
 魔法大会が行われている間は、当然、授業は行われない。
 校舎内は空だ。

 たまに生徒が残っているものの、それは極少数。
 ほとんどの生徒は魔法大会の観戦。
 及び、自分達で出店した露店の番をしたり、あるいは他の露店巡りをする。

 基本、お祭りなのだ。
 なにもない校舎に残る者なんていない。

 ……でも、一人の生徒の姿があった。

「うん、できた」

 少女は嬉しそうに言って、教室の床に描いた魔法陣を見る。
 精密に描かれた自慢の作品だ。

 まだ魔力は込めていない。
 タイミングをしっかりと測らないと、また邪魔者が現れてしまうかもしれない。

 まあ、邪魔をされたとしても、実は大して問題はない。
 魔法陣を発動させるよりも、この場所に魔方陣を設置することが大事なのだ。

「これで、あと一つ。今日中に……ううん、無理は禁物。ベストタイミングは明日だから、明日にしよう」

 もうすぐ本物の魔法陣が完成する。
 そうすれば夢が叶う。
 長年、ずっと抱いていた夢が現実のものになる。

「ふふ」

 少女はおさえきれない笑みをこぼして、そっと教室を後にした。



――――――――――



「勝者、レン・ストライン!」

 あれからしばらくして準決勝が行われて、俺は見事に勝利を収めた。

 相手は、名前も知らない生徒。
 でも、ここまで勝ち上がってくるだけあってかなりの強敵だった。
 少し苦戦したものの、そこは経験の差と魔力でカバー。
 最終的に勝った。

 控え室に戻り、体を休める。
 同時にこれからのことを考える。

「今日の試合はこれで終わり。後は自由に動けるけど……」

 今のところ、妙な魔力は感じていない。
 例の魔法陣は設置されていないのか?

 ことごとく潰されたせいで、犯人は諦めて……いや。
 さすがに、それは楽観的すぎるか。
 機会をうかがっていると考えた方がいい。

「さて、どうするか」

 現状、犯人に関する手がかりは少ない。
 魔法陣を調査すれば、犯人に繋がるかもしれないんだけど……
 それは魔力が残っている前提の話だ。
 魔力のない魔法陣を調べても、それはただの落書きでしかないので、あまり意味がない。
 かといって、犯人を調べるために魔法陣をそのままにしておいたら、なにかまずいことになるだろうし……
 ジレンマだ。

「せっかくの魔法大会を妙なことで潰したくないんだよな」

 こういうお祭りは初めてだ。
 前世はもちろん、今世でも。

 前世は戦うことばかり考えていて。
 今世も似たような感じで、娯楽というものに目を向けてこなかった。

 でも、こうして体験すると、とても楽しい。
 よくわからないワクワク感がある。
 なによりも笑顔があふれているのがいい。

 これを守りたいと思う。

「お兄ちゃん、いいですか?」

 控え室の扉がノックされた。

「どうぞ」

 応えると、エリゼが姿を見せた。
 妹だけじゃなくて、アラム姉さん、アリーシャ、シャルロッテ、フィアも一緒だ。

「どうしたんだ、勢ぞろいで」
「みんなで一緒に露店を見て回りませんか?」

 エリゼの目はキラキラと輝いていた。

 魔法陣のこと、犯人を調べたいんだけど……
 でも、せっかくだから楽しみたいという気持ちがある。

「いいよ、いこうか」

 学院を回る必要があるから、ちょうどいいだろう。
 そう判断して、俺はみんなと一緒に露店を巡ることにした。
「わー♪ 色々なお店がありますね!」

 運動用のグラウンドに多数の露店が出店されていた。
 大半が生徒によるもの。
 少数ではあるが、街の人々も関わっている。

 例えば、ケーキ。
 街で提供されているものを、生徒達がお願いして提供してもらう。
 生徒達はおいしいケーキを売りに、露店を開くことができる。
 店は学院でアピールできる。
 ウィンウィンの関係だ。

 そういう店がたくさんあるため、商品はバリエーション豊かだ。

「あら、おいしい匂いがするわ」

 アラム姉さんの視線を追いかけると、たこ焼き屋があった。
 ソースの香ばしい匂いが漂う。

「たこ焼き……初めて聞く料理ですわね。フィア、これはなにかしら?」
「えっと……お祭りなどでよくある、簡単な料理ですね」
「興味がありますわね……ねえ、一つくださいな」

 シャルロッテはたこ焼きを買い……
 しかし、たこ焼きが盛られた紙皿を見て、小首を傾げる。

「これ、どうやって食べますの?」
「シャルロッテさん、こうやって食べるんですよ」

 エリゼが同じくたこ焼きを買い、セットの爪楊枝ですくい、ぱくりと食べた。

「あふ、あふ……んー、おいしいです♪」
「た、立ったまま、ここで食べますの……? しかも、一口で……?」
「そういう食べ物なんです」

 えへん、となぜかエリゼが胸を張る。

 シャルロッテは迷い顔だ。
 お嬢様なので、作法に厳しいのかもしれない。

 でも、覚悟を決めた様子でぱくりと食べる。

「……んーーーっ!?」

 涙目になった。

「あぁ、お、お嬢様!?」
「ダメよ、たこ焼きは熱いから、ゆっくり食べないと」
「今更言っても遅いわ。エリゼ、水を!」
「は、はい!」

 ちょっとした騒ぎになった。

「はぁあああああ……酷い目に遭いましたわ……」
「ごめんなさい。熱いっていうこと、ちゃんと伝えておくべきでした……」
「いいえ、エリゼさんは悪くないわ。それに……熱いけれど、とてもおいしいですわ」

 エリゼは残りのたこ焼きを笑顔で食べる。
 今度は火傷なんかしないで、はふはふとしつつも、おいしく食べていた。

 その後は、みんなで色々な露店を見て回る。

 焼きそば、かき氷、フルーツドリンク。
 的当て、輪投げ、金魚すくい。

 食べ物だけじゃなくて遊戯も用意されていて、ついつい子供心に返って全力で遊んでしまう。

「お兄ちゃん、みなさん。次はどこに行きますか?」
「エリゼ、あまり離れないように。迷子になるわよ」
「大丈夫ですよ」
「まったく」

 なんて言いつつも、アラム姉さんは優しい顔をしている。
 妹が可愛くて仕方ないのだろう。

 ただ、それだけじゃなくて……

「……エリゼ、すっかり元気になったわね」

 どこかしんみりとした様子で言う。

「昔はあんなに病弱だったのに」
「そうだったんですか?」

 話を聞いていたアリーシャが意外そうな顔をした。
 彼女は昔のエリゼを知らないから、そう思うのも当然かもしれない。

「よく熱を出して、ちょっと無理をしたら倒れていたの。命が危ない時もあったわ」
「それは……」
「でも、レンが助けてくれた」

 よしよし、と頭を撫でられる。

「えっと……アラム姉さん?」
「思えば、なにもしていなかったわね。あの時はありがとう、レン。エリゼを助けてくれて」
「そんなの当然じゃないですか。エリゼは、大事な妹なんですから」

 それに、エリゼには色々と感謝している。
 エリゼがいたからこそ、俺は変わることができた。

 ただ力を追い求めるだけじゃなくて……
 誰かのために戦う、ということを知ることができた。

「それと、一応言っておきますけど……アラム姉さんも大事な人ですよ」
「え?」
「嫌な例えですけど……アラム姉さんになにかあった場合、全力で助けますからね」
「……レン……」

 アラム姉さんは感激した顔になって、

「もう、この子ったら」
「ふぐっ!?」

 思い切り抱きしめられた。

 む、胸が……!?

「私も同じよ。レンのためなら、どんなことでもするわ。だって、私はお姉ちゃんだもの」
「ぐぐぐ……!?」

 アラム姉さんは喜んでくれているみたいだけど……

「……レン、なんだか嬉しそうですわね」
「……ず、ずるいです」
「……私も、お兄ちゃんをぎゅっとしたいです」
「……ふーん。レンは、そういうことを狙っていたわけね」

 女性陣の冷たい声が。
 誤解だ!
 俺はなにもしていない!?

 そう叫びたいのだけど、でも、抱きしめられているせいでなにもできなくて……
 この後、誤解を解くのに30分くらいかかった。
 ちょっとした騒動はあったものの、露店巡りは続く。

「なにかしら、あれ?」

 ふと、アリーシャが怪訝そうに言う。

 なにやら紫色のテントが設置されていた。
 よく見てみると、『占い』の二文字が見えた。

「占い屋みたいだな」
「「「占い!」」」

 女性陣が顔をキラキラと輝かせた。
 ものすごく食いついている。

「私、占いやってみたいです!」
「あたしとレンの相性を……」
「やっぱり、ここは定番の恋愛占いかしら?」
「ふふん。わたくしならば、きっと最高の結果になることは間違いないですわ!」
「き、期待したらダメですけど、ちょ、ちょっとくらいなら……」

 どうして、女性はこんなに占いが好きなんだろう?
 転生して色々なことを学んできたつもりだけど、これは未だにわからない。

「えっと……覗いていく?」
「「「もちろん!」」」

 全会一致だった。



――――――――――



「中はけっこう広いですわね」
「そ、それに雰囲気もありますね」

 さっそくテントに入る。
 この人数が押しかけても問題ないくらい広い。
 それと、天井の辺りがキラキラと輝いていた。
 なにかの魔法だろうか?
 ものすごく気になる。

「ようこそ、星の館へ……ここは、あなたの天命を知ることができる場所」

 それらしい格好をした生徒が、それらしいことを口にする。
 雰囲気作りはバッチリだ。

「さあ、来訪者よ。どのような天命に触れることを望みますか?」
「私の運勢を占ってほしいです」
「とある人との相性を」
「恋愛の占いね」
「家のことを占ってほしいですわ」
「えっと、えっと……こ、恋占いで」
「あの……そんなに一度に言われても」

 みんなにものすごく食い気味に答えられて、生徒が素に戻っていた。
 咳払いを一つして、再び雰囲気を作る。

「では、一人ずつ順に……その天命に触れることを許可しましょう」

 最初はエリゼ。
 次はアリーシャ……といった感じで、順々に、さらにテントの奥に案内されていく。

 一人、5分くらい。
 満足のいく結果を得られたのか、戻ってきたみんなは笑顔だった。

「では、最後の方、どうぞ」
「え? いや、俺は……」

 みんなを待っていただけで、占いを待っていわけじゃない。

 ただ……そうだな。
 せっかくだから占ってもらおうか。
 ここまで来て帰るっていうのも相手に失礼だ。

「じゃあ、頼むよ」
「はい。こちらへどうぞ」

 奥に案内されると、小さなテーブルの上に水晶玉が置かれていた。
 こちらも雰囲気はバッチリだ。

「あなたはどのような天命を求めますか?」

 なにを占ってほしい、ってことだろうな。

「えっと……ちょっとやりたいことがあるんだけど、それについて」
「それは、夢ですか?」
「夢じゃないな。なんていうか……使命? いや、大げさか。乗り越えたい壁があって、それに挑んでいる……が、一番近い表現かな?」
「なるほど。では、占いましょう」

 占い師に扮した生徒の手が光る。
 たぶん、魔法だろう。

 占い魔法なんて、まったく聞いたことがないけど……
 オリジナルだろうか?
 ぜひ、後で話を聞いてみたい。

「……えっ!? な、なにこれ……」

 生徒が素に戻った様子で驚いていた。

「どうかした?」
「なに、この嫌な感じは……未来が真っ黒に塗りつぶされている。ものすごい悪意……」

 もしかして……魔王のことか?

「酷い、こんな天命は……あ。でも、全てが悪いわけじゃない? 小さな光が六つ……ううん、本人を含めて七つ。まだ手遅れじゃない? ここから逆転することも可能? だとしたら……」

 ぶつぶつと呟く。
 その表情があまりにも真剣で、こちらが心配になってしまう。

「大丈夫か?」
「え? ……あ、うん。大丈夫」

 水晶玉の光が消えた。
 同時に、生徒も落ち着きを取り戻す。

「えっと、占いの結果だけど……」
「うん」
「その……ものすごく悪いことになりそう」
「そっか……」
「で、でも、諦めないで! よくわからなかったけど、希望はあるの。それもすぐ近くに。絆を紡いで、それを大事にすればいいと思う」

 絆……か。
 そういえば、エル師匠も似たようなことを言っていたな。

「ありがとう、参考になったよ」

 ただのお祭りの占いと思いきや、けっこう確信を射ていたような気がする。

 がんばろう。
 俺は改めて決意を固めて、テントを後にした。
 夜。

 明日は決勝戦が控えている。
 早く寝て万全の体勢で挑みたい。

 ただ……

「やっぱり、なにかあるとしたら今夜だよな」

 連日、学院のあちらこちらに仕掛けられている魔法陣。
 今までのパターンを考えると、犯人は今夜も動くはず。

 合間を見て魔法陣を解析していていたのだけど……
 あれは、周囲の人々の魔力を吸収する性質があることが判明した。
 地震はあくまでも副作用だ。

 どうも、魔法陣は完璧なものではないらしい。
 欠陥品だ。
 魔力を全て吸収することはできず、一部が外に漏れてしまう。
 結果、漏れた魔力が大地に作用して地震を引き起こしてしまう……と。

「魔法陣の効果は突き止めたものの……結局、犯人とその目的はわからないままなんだよな」

 ただ、犯人が明日という日を待ち望みにしていることは推測できた。

 明日は、魔法大会の決勝戦。
 今まで以上に外から人がやってくるだろう。
 魔力を吸い上げるとしたら絶好の機会だ。

「そんなことになる前に、どうにかして止めたいけど……」

 当日、魔法陣を仕掛けている余裕はないはず。
 犯人は、今夜、学院に忍び込むと思う。

 そこを捕まえたいのが、俺一人でとうにかなるか。

「弱気になっていても仕方ないか」

 どうにかなるか、ではなくて、どうにかするのだ。

 そう決意して部屋の外に出て、

「お兄ちゃん?」

 さっそくエリゼに見つかってしまった。

「どうしたんですか、こんな遅くに?」
「えっと……ちょっと喉が乾いたから、なにか買ってこようかな、って」
「食堂はもう閉まってますよ?」
「う」
「じー」

 やばい。
 妹が疑いの眼差しを向けてくる。
 なんとかごまかさないと……

「あら、エリゼにレンじゃない。どうしたの?」
「まだ起きていたの? 早く寝ないとダメよ。レンは、明日決勝戦なんだから」
「もしかして、緊張していますの? ふふ、可愛らしいところもあるのですわね」
「えっと、えっと……飴、舐めますか? 落ち着きますよ?」

 どこからともなくみんなも姿を見せた。
 狙ってやっていないよな……?
 そう疑いたくなるほど、とてもとても悪いタイミングだ。

「お兄ちゃん? なにか隠していませんか?」
「えっと……ちょっと散歩に」
「言ってることが変わりました。本当ですか?」
「ほ、本当だよ」
「じー」
「「「じー」」」

 みんなもジト目を向けてくる。

 ダメだ。
 これはもう、ごまかすことができない。

 俺は観念して事情を説明した。

「……と、いうことなんだ」
「そんなことが起きていたなんて……レン!」

 アラム姉さんが厳しい顔になる。

 それはそうだよな。
 こんな隠し事をされていたら怒るのも当然だ。

「どうして、私達を頼ってくれないの?」

 あれ?
 なんか、思っていたのと違う怒られ方になっているような……?

「そんな大変なこと、一人で処理するのは難しいでしょう?」
「え? まあ、はい。たまに、複数の魔法陣が設置されている時もあったから、大変と言えば大変ですね」
「なら、私達を頼りなさい。一人でなんでも背負おうとしないように」
「でも、それは……」
「レンは優しいから、私達の心配をしてくれているんでしょう? その優しさは嬉しいけど、でも、寂しいの。ね?」

 アラム姉さんがエリゼを見る。
 エリゼは、激しく同意といった感じで、こくこくと頷いた。

「お兄ちゃんは優しいですけど、でもでも、たまに優しすぎるんです。もうちょっと、頼りにしてほしいです。お兄ちゃんが私達のことを心配してくれるように、私達もお兄ちゃんのことが心配なんです」
「……エリゼ……」
「あたしは、レンの力になりたいわ。困っているのなら助けたい。そう思うのは当たり前のことでしょう?」
「……アリーシャ……」
「レンには色々と助けてもらったから、恩を返さないと、って思いますが……でも、そういうのは関係なく力になりたいですわ。だって、わたくし達は友達でしょう?」
「……シャルロッテ……」
「わたしは、その、大したことはできませんけど……でもでも、がんばりたいです! レン君のために」
「……フィア……」

 なんていうか。
 俺、バカだった。

 エル師匠から大事なことを教えてもらったはずなのに。
 でも、理解したつもりになっていただけ。
 本質をまだまだ理解できていない。

 うん、そうだな。
 危険だからと遠ざけるだけが優しさじゃない。
 本当の友達なら、時に、危険だとしても頼りにしなければいけないのかもしれない。

 一人で成し遂げられることなんて、たかがしれているのだから。

「みんな……手伝ってもらえるかな?」
「「「もちろん」」」

 みんなは笑顔で頷いてくれた。