「メル……!?」
「んー……?」

 メルはいつものように呑気な表情で。
 でも、目は鋭く。
 空き教室の状況を確認する。

「なんか、面白いものがあるね。それ、どうしたの?」

 魔法陣のことだ。
 あえて明確に指摘しないのは、なにか意図があってのことか……
 それとも、とぼけているのか。

「ほんと、面白そうなものだけど……こんなところでなにをしているのかな? かな?」

 メルは笑顔だ。
 ただ、目は笑っていない。
 猜疑心をこちらに向けているのがハッキリとわかる。

 もしかして……

 これ、俺がやったと思われている?
 だとしたら、とんだ勘違いだ。

 いや。
 あるいは、俺に罪をなすりつけようと……ダメだ。
 今は情報が足りない。
 そのせいで疑心暗鬼になっていて、なにを信じればいいかわからなくなっていた。

 とにかく、今は誤解を解こう。

「俺もよくわからないんだ。妙な魔力を感じてここにやってきたんだけど、そうしたら、これがあったんだよ」
「ふーん……本当に?」
「本当だよ。まあ、証明する術はないけどな」

 「証拠は?」と言われる可能性もあったため、先にその台詞を潰しておいた。

「……それで、魔法陣はどうしたの?」
「見ての通り、機能を停止させておいた。なんか、嫌な感じがしたからな」
「そっか。それでいいと思うよ? ボクも同じ意見だからね」

 やられた、と思っているのか。
 あるいは、本心からの言葉なのか。

 どうにもこうにも判断がつかない。

 まいったな。
 魔法に関する知識はあるものの、人を観察する知識はない。
 メルが嘘をついているかどうか、まったくわからない。

 そういう方面も勉強しておくべきだったな。

「ま、いいや」

 メルは興味をなくした様子で、くるっと反転した。
 そのまま空き教室を出て……

「あ、そうだ」

 出ていく前に足を止めて、振り返る。

「ボク、今日の試合、ちゃんと全部勝ったからね?」
「……俺も勝ったよ」
「ブロック分けを見ると、決勝戦までいかないとぶつからないけど……レンは、自信はどれくらいある?」
「けっこうあるよ。メルは?」
「ボクも」

 不敵な笑みを浮かべて……
 たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。

「戦えるのを楽しみにしているよ♪」

 ひらひらと手を振りつつ、メルは、今度こそこの場を後にした。

「……はぁ」

 本来なら、魔法大会だけに集中したいのに……
 裏で妙なことが起きている。
 それにメルが関わっているかもしれない。

「まったく……厄介事と縁が切れることはないな」

 これも、前世から続く因縁のせいなのだろうか?



――――――――――



 魔法大会2日目。

「勝者、レン・ストライン!」

 第一試合となり……
 そして、俺は順調に勝利を収めた。

 相手は知らない生徒。
 上級生だったらしく、なかなかに洗練された魔法を使っていたけれど……
 あれならアリーシャやシャルロッテの方が上だ。

 控え室に戻り、次の試合に備える。
 順調に進めば、今日は後二試合だ。

 その二戦目の相手が……

「なんで、よりにもよってエリゼなんだ……」