「魔法剣・火炎槍<ファイアランス>!」

 アリーシャの剣が炎をまとう。
 その状態で剣を振る。

 距離は十分に離れていた、剣の間合いじゃない。
 しかし……

「うわ!?」

 アリーシャの剣の軌跡に従い、炎が吹き荒れた。
 思っていた以上に速く鋭い。

 防御魔法を展開するヒマはない。
 地面を蹴り、横に跳んで回避した。

「驚いた。前に見た時よりも、威力も精度も大きく上がっているじゃないか」
「だからこその不意ちになるのだけど……初撃でダメージを与えられなかったのは痛いわね」
「でも、諦めるつもりはないんだろう?」
「当然よ!」

 今度はアリーシャが前に出た。
 加速しつつ、炎をまとう剣を振る。

「氷雪剣<アイシクルソード>!」

 回避ではなくて防御でもなくて、迎撃を選んだ。
 氷の剣を作り出して、アリーシャの炎を斬り消す。

「剣の扱いも上手なのね!」
「アリーシャには負けるけどな!」

 ギィンッ!

 切り結ぶ。
 甲高い音が響いて、俺とアリーシャの力比べに移行した。

 でも、俺は男だ。
 基礎トレーニングも欠かしていない。
 単純に、力は俺の方が上。
 このままアリーシャを押し切り……

 ……というわけにはいかないか。

「雷撃槍<ライトニングランス>!」

 至近距離でアリーシャが魔法を放つ。
 魔法剣ではなくて、普通の魔法だ。

 彼女の得意は魔法剣。
 それ以外を使うことがないと思う人は多く、だからこそ、普通の魔法だとしても不意をつかれやすい。

「あぶな!?」

 実際、俺も彼女の策にハマりかけた。
 危ういところで回避に成功する。

「惜しいわね」
「魔法剣を消して、すぐに別の魔法を唱える……器用な真似をするな」
「言ったでしょう? あたしも、色々と勉強しているの……魔法剣・火炎槍<ファイアランス!>」

 アリーシャは再び剣に炎を灯した。
 ステップを踏むように距離を詰めてきて、回転。
 体を捻り、その勢いを剣に乗せて攻撃を放つ。

 角度、軌跡、タイミング。
 全てが完璧だ。
 その一撃を避けることはできない。

 ……でも、そんな完璧な攻撃を待っていた。

「ぐっ!?」

 アリーシャの攻撃がヒット。
 ごっそりと魔力を削られてしまい、それなりの脱力感が俺を襲う。

 でも、それだけ。

 意識が消えることはないし、倒れることもない。
 体も自由に動く。

「悪いな、俺の勝ちだ」
「えっ!?」
「紫電烈閃掌<プラズマインパクト>!」

 近接戦専用の上級魔法を放つ。
 紫の雷撃がアリーシャの懐で炸裂して、彼女の魔力を大きく奪う。

「うっ……くぅ」

 アリーシャは倒れない。
 剣を杖のようにして、なんとか体を支えている。
 でも、魔力が空っぽになっているのは間違いないだろう。

 疲労困憊といった様子で、アリーシャは小さく笑う。

「あたしの攻撃……もしかして、わざと受けたの?」
「アリーシャの油断を誘うにはそれしかないかな、って。俺、魔力量には自信あるから、たぶん、一撃くらいじゃダウンしないと思ったんだよ」
「そんな捨て身の戦術、読めるわけないじゃない……ああもう、悔しい。レンに届くために、たくさんがんばってきたのに……」
「そのがんばりは無駄じゃないさ。アリーシャはすごく強くなっていた、本当だ。それだけの努力を重ねてきたアリーシャを、俺は尊敬するよ」
「……そういうの、ずるい」

 アリーシャは照れたように頬を染めて……
 でも、そこが限界だったらしく、意識を失い倒れてしまうのだった。

「そこまで! 勝者、レン・ストライン!」