そして、時間は流れ……
 いよいよ魔法大会が開催されることになった。

 魔法大会は、エレニウム魔法学院の一大イベントだ。
 3日に渡り開催されて、各学年の最強の魔法使い。
 それと学年関係なく、学院最強の魔法使いが決まる。

 参加者は生徒に限定されるものの、観戦なら一般の人も可能だ。
 この日を楽しみにしている人もいるらしく、初日から観戦席は満席になるという。
 立ち見をする人も出てくるとか。

 さらに、そんな観客を狙い、一部の生徒達は露店を出す。
 ここぞとばかりに稼ごうとする精神は、とてもたくましい。
 もちろん、学院に許可されているので問題ない。

 魔法大会はお祭りのようなものなのだ。



――――――――――



 朝。

 生徒は、まずは登校しなければならない。
 各々、教室で先生の話を聞いて、それから解散。
 自由行動だ。

「お兄ちゃん、いよいよですね!」
「エリゼはやる気たっぷりね」

 登校中、エリゼは元気いっぱいだった。
 小さな手をぎゅっとして、やる気をみなぎらせている。

 そんなエリゼを見て、アリーシャはちょっと微笑んでいた。
 妹を思い出しているのかもしれない。

「レンよりもエリゼの方がやる気あるのは、ちょっと意外ね」

 もう一人、一緒に登校しているアラム姉さんが苦笑する。

「俺、そんなに好戦的に見えます?」
「そうね……昔、私のことを魔法で吹き飛ばしてくれたから、こういうイベントは大好きなのかと」
「うっ……あの時はすみませんでした」
「ふふ、冗談よ。私が悪いのだから気にしないで」

 笑顔で頭を撫でられる。
 アラム姉さん、本当に変わったな。
 そのことが嬉しいのと、あと、なんかくすぐったい感じだ。

「私、今までこういうこととは無縁だったので……どこまでできるか、がんばりたいんです」
「そうね、エリゼは体が弱かったから……うん、がんばりなさい。私も応援するわ」
「ありがとうございます、お姉ちゃん!」
「でも、アラムさんは出場しないんですよね?」

 アリーシャが尋ねると、アラム姉さんはまた苦笑した。

「正直に言うと、私はそこまでの熱意はないから」
「自分の力を試してみたいとか、思わないんですか?」
「思わなくはないけど……」

 ちらりと、視線がこちらに。

「身近にいる規格外の存在を見ていると、どうしても勝てないと思ってしまうから」
「……なるほど。ある意味で化け物ですからね」

 アリーシャがしみじみと頷いた。

 待て。
 それはどういう意味だ?

「ごきげんよう」
「お、おはようございます」

 途中でシャルロッテとフィアと合流した。
 短い登校だけど一緒にいたいらしく、わざわざ待ってくれていたみたいだ。

「いよいよですわね!」
「ぷっ」

 シャルロッテがエリゼとまったく同じことを言い、ついつい笑ってしまう。

「な、なんですの……?」
「いや、なんでも。シャルロッテは大会に出るんだよな? フィアは?」
「わ、私なんて……」
「この子ったら、もしもわたくしとぶつかったら負けるしかない。そんな不正はいけないから出場することはできない、って言っているんですの」
「まあ……いいんじゃないか?」

 それはそれで、とても誠実な考え方だと思う。

 魔法大会だとしても、主であるシャルロッテに刃を向けるなんて絶対にできない。
 かといって、わざと負けるのは大会の趣旨に反する。

 そうやって悩んだ末の答えなのだろう。
 真面目で優しいフィアらしい。

「とにかくも……レン!」

 シャルロッテがびしっとこちらを指さしてきた。

「わたくしの第一目標は、あなたを超えることですわ! わたくしと当たった場合は覚悟してくださいませ」
「悪いが、勝つのは俺だ」
「ふふん、その気の強さと自信。それでこそレンですわ」

 シャルロッテが不敵に笑い、

「私も、お兄ちゃんにがんばって勝ってみせます!」
「やるからには負けたくないわね」

 エリゼとアリーシャもやる気をみなぎらせた。

「あなた達、やる気があるのはいいけど、張り切りすぎて怪我をしないようにね?」

 アラム姉さんはそう心配してくれた。

 魔法大会は実戦形式だ。
 結界が展開されているけど、毎年、いくらかの怪我人が出てしまうらしい。
 時に大怪我を負う人も。

 だからこそ、アラム姉さんは心配しているのだけど……

「……ただの事故だけならいいけど」

 事故以上のなにかが起きるかもしれない。
 そして、その中心にメルがいるかもしれない。

 そんな心配と不安があり、アラム姉さんの言葉は思っていた以上に深く俺の胸に刺さった。