「ふふ」

 私は小さく笑う。

 計画は順調だ。
 誰も私の企みに気づいていない。

 いや。
 誰も、というと語弊があるかもしれない。

 レン・ストライン。

 あの男は、地震が偶発的に起きたものではないと感づいているみたいだ。
 厄介なヤツ。
 面倒になる前に排除したい。

 しかし、計画が達成される前は、大きく動くことは避けたい。
 無害を装い。
 空気のように、なにもないと演じて。

「潰し合ってくれればいいけど……果たして、どうなるかな?」



――――――――――



 魔法大会の開催が3日後に迫った。

 いよいよだ。
 わくわくすると同時に、しかし、落ち着かない気持ちになる。

 例の地震騒動がまだ収まっていない。
 あれから、さらにニ度、地震が起きた。
 そして、いずれも魔法を使用した痕跡を発見した。

 なにかよくないことが進行している。
 そんな気がしてならない。

 ここまできたら、素直に教師に相談した方がいいかもしれない。

「でも……使用されているのは500年前の魔法なんだよな」

 現代でそれを立証することはできない。
 理解してもらうことは難しく、なにかが起きている、という証明は叶わないのだ。

 そうなると、俺の話を信じてもらうことができず……

「やっぱり、犯人を突き止めるまでは自力で調査するしかないか」
「調査?」
「うわっ」

 慌てて振り返ると、見覚えのある女の子が。

「えっと……ハンナ?」

 ハンナ・リーゼロッテ。
 クラスメイトで、そして、魔法大会の実行委員の一人だ。

 責任感が強く、しかし、それを他者に押しつけるようなことはしない。
 自分には厳しいけれど、他人には甘い。
 しっかりとした人で、そして、優しい人でもある。

 彼女の手伝いとして、俺は教室で当日に使う飾り付けの制作をしていた。

「い、いたんだ……」
「いますよ。レン君だけに任せるわけにはいかないからね。それで、調査って?」
「あー……ほら、どういう飾りつけが好まれるかな、っていう。そんな感じ」
「なるほど。せっかくなら、みんなの好きな飾りにして、喜んでほしいですよね」

 よかった、ごまかすことができたみたいだ。

「魔法大会、楽しみですね」
「そうだな」

 色々な人と魔法の力を競うことができる。
 それだけじゃなくて、生徒達が一丸となって作り上げる大会なので、一致団結というか、連帯感のようなものが大きい。

 こういうイベントに参加したことはなかった。
 でもまさか、こんなにもわくわくするものだったなんて。
 自然と心が躍る。
 笑顔になる。

 前世では味わうことができなかったものだ。

「……」
「どうかした?」
「え」
「ハンナ、なんか暗い顔をしているから」
「えっと……すみません、つい」

 ハンナは苦笑した。

 それから、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「その、ちょっと心配なことがあって……」
「どんなこと? 俺でよければ力になるけど」
「ありがとうございます。でも、確かな話ではなくて……その、本当に証拠とかなにもないので、話半分に聞いてくださいね?」

 ハンナの話によると……

 ここ数日、メルが夜中に寮を抜け出すところを見たらしい。
 その翌日に限り、地震が発生していた。

「私の勘違い、というか思い込みなのかもしれないんですけど……メルさんと最近の地震、もしかしたら関係があるのかも、って」
「ハンナも?」
「も、っていうことは……」
「俺も、似たような場面を見たことがあって……メルのこと、ちょっと気になっていたんだ」

 意外なところで意外な証言を得ることができた。
 メルに対する疑惑が深くなっていく。

 ただ……

「……いや、その可能性もあるか」
「なんですか?」
「なんでもないよ。とにかく、ハンナの話が正しいのなら、メルの動向は気にかけた方がいいかもしれないな」
「あ、でも、私の思い込みかもしれないので……」
「それを確かめるためにも、調べる必要があるかもしれない。まあ……そんな時間はないかもしれないけどさ」

 今は魔法大会の準備で忙しい。
 合間に色々と調査を進めているものの、なかなか捗らない。

 でも、同じことを考えているハンナが仲間になってくれたら?
 一緒に調査を進めてくれたら?

 うまくいくかもしれない。

「なら、がんばりましょう」
「ああ、がんばろう」

 俺とハンナは笑い、握手をした。