夜。
 エリゼとアリーシャに誘われて、食堂で一緒にご飯を食べることになった。

 それはいいのだけど……

「やっほー」

 メルもいた。

「えっと……」
「あ、お兄ちゃんは初めましてですね。この子は、メル・ティアーズちゃん。アリーシャちゃんのクラスメイトで、それと、私達の友達です」
「病気の療養をしていたみたいで、最近まで休んでいたんだけど、少し前に復帰したの。それで声をかけてみたら仲良くなって……今日は、彼女をレンに紹介しようと思って」

 ということは、メルが二人に近づいたわけじゃない?
 あくまでもアリーシャが声をかけたから?

 いや。

 言動を調整することで、声をかけるように誘導した可能性がある。
 そうやってエリゼとアリーシャの懐に潜り込み……

 潜り込んで、なにをしたいんだ?
 二人に害を及ぼすつもりならとっくにやっているだろうし、そうではないとしても、目的がまったく見えてこない。

「びっくりしたよ。エリゼのお兄ちゃんって、レンだったんだね」
「あれ? メルちゃん、お兄ちゃんのことを知っているんですか?」
「うん。この前、ちょっと話す機会があったんだ……ね?」
「ああ……うん。興味深い話をしていたかな」

 魔王について、とは言えないので詳細はごまかしておいた。

「そうなんですね、すごい偶然です!」
「なら、今日は懇親会になるかしら?」
「はい。みんなで一緒に仲良くご飯を食べましょう」

 本当なら、なにをしているんだ、なにが目的だ。
 と、問い詰めたいところだけど……

 これは断れない流れだ。

 仕方ない。
 今は二人に合わせよう。

 まずは料理を注文して、カウンターで受け取る。
 それを手に改めてテーブルを囲み、食事を取る。

「「「いただきます」」」

 エリゼとアリーシャとメルの三人は笑顔で。
 俺はちょっと微妙な顔で、それぞれ食事タイムになる。

「メルちゃんは、今日はお魚定食なんですね。お魚が好きなんですか?」
「そうだね。前はなかなか食べられなかったから、その反動で。エリゼは野菜炒め……野菜が好き?」
「はい。お野菜は美味しいだけじゃなくて、栄養もあるんですよ」

 すでに名前呼びだ。

 エリゼは人懐っこいものの、でも、人を見る目は確かだ。
 悪人に対して心を開くことはない。
 ということは、メルは大丈夫なのか……?

 でも、彼女の言葉が気になって仕方がない。

「レン、どうしたの?」

 ふと、アリーシャが不思議そうにこちらを見た。

「さっきから、ぜんぜん手が進んでいないけど」
「あ、いや。ちょっとぼーっとしてた」
「そう? 早く食べないと冷めちゃうから、もったないないわよ」
「そうだな」

 ハンバーグを食べるものの、味はよくわからない。
 妙な緊張をしているせいだ。

「ねえねえ、レンはハンバーグが好きなの?」

 メルの興味がこちらに向いた。

「まあ……それなりに」
「うんうん、わかる。ハンバーグは美味しいよねー。肉肉しいっていうか、肉! っていう感じで」
「それは……うん」

 前世では魔法の研究に全てを費やしていたため、料理なんてかなり適当だった。
 でも、今世では貴族の家に生まれたため、しっかりとした料理を口にするようになった。

 まともな料理はものすごく美味しく、俺は前世でなにをやっていたんだろう? と後悔するほどだ。
 食事、大事。

「ボク、肉も好きなんだ。これもなかなか食べれなかったからね」
「……それは、病気の療養で?」
「そうだね。けっこう大変で……って、暗い話になっちゃうからやめようか。それよりも、他の話をしよう。そうだな……例えば、恋バナとか」
「恋!?」
「バナ!?」

 なぜか、エリゼとアリーシャがものすごく大きく反応した。
 そして、示したかのように同時にこちらを見る。

「こ、恋と言われても、私はまだよくわからないです……」
「あ、あたしは、そういうのはないし、気になる相手も……い、いないし?」
「そうなの? ダメダメ。年頃の女の子は、恋の一つや二つしないと。恋をすることで女は磨かれていくんだよ」
「っていうことは……メルは恋人とかいたの?」
「わ、わ。大人です!」
「ふっふっふ。さて、どうでしょう?」
「こら。自分から話を振ってきたんだから話しなさいよ」
「恋の話、聞きたいです!」
「んー、どうしようかなー?」

 なんていう感じで、三人は楽しそうに話をしていた。
 その中にメルがいることはとても自然に見える。

 いったい、いつの間に仲良くなっていたのだろう?

 でも……
 こんなに仲が良いのなら、メルは悪人ではないのだろう。

 そう思うと、少しだけ気が楽になった。