後日。
 俺は再び訓練場を訪れていた。

 今回も一人だ。

「エル師匠からは闇属性の魔法を教わり、それと、他にも基礎を教わった」

 基礎は大事だ。
 疎かにしていたらまずいことになる。
 成長が止まってしまうとか、逆に後退してしまうとか。

 そのことをエル師匠は思い出させてくれた。
 どんな時も基礎がまず第一にくる、と。

 その基礎の、とある話を思い返す。

「魔法には属性がある。火、水、土、風、光、闇……このうち、基本的に使えるものは闇を除いた五つだけ。でも、俺は闇属性も使うことができる」

 これは大きなアドバンテージでは?

 ただ、そこで満足してはいけない。
 さらにその上を目指さないと。

「闇属性だけを伸ばしても仕方ない。他の属性も伸ばして……そして、それを活かす」

 魔法人形に手の平を向けて、静かに魔力を練る。

 深く。
 深く。
 深く。

 集中に集中を重ねて、繊細に魔力を編み込んでいく。
 そして……

「……!」

 とある魔法を試射した。
 ゴォンッ! という轟音と共に魔法人形が吹き飛んだ。

「よしっ」

 まだまだ訓練は必要だ。
 でも、切り札と呼べるもののとっかかりは得た。



――――――――――



 魔法大会が近づいてきたある日のこと。

「ピー」

 ニーアがごきげんな様子で、俺の頭の上で鳴いていた。

「ふふ、ニーアはお兄ちゃんが大好きなんですね」
「似合うわよ、レン」
「勘弁してくれ……」

 これから授業なのに、なぜかニーアは俺の頭の上を離れてくれない。
 結局、教室までついてきてしまう。

 怒られてしまうかも、と懸念していたのだけど……

「あら、可愛いわね。授業中は静かにしててくださいね?」
「ピッ」

 先生は笑顔でニーアを受け入れてしまった。
 懐が深いのか、それとも特に考えていないのか。

 たぶん、後者だと思う。

「それにしても……」

 ニーアは不思議な鳥だよな。
 エル師匠から託されたけど、改めて調べてみると図鑑に載っていない。
 新種なのか突然変異なのか。

「……それに」

 何度かニーアに助けられたような気がする。
 この子のおかげで事件の解決の緒を掴めたというか、魔王の片鱗を掴むことができたというか……

 改めて考えると不思議な子だ。

「とりあえず、授業に集中するか」

 もう授業が始まる。
 雑念を振り払い、先生の講義にしっかりと耳を傾ける。
 基礎は大事なのだ。

「ピーッ!!!」

 突然、頭の上のニーアが激しく鳴いた。
 慌てておとなしくさせようとした、その時。

 ゴゴゴ……!

 低い地鳴りと共に校舎が揺れた。