「……今、なんて?」

 俺はどんな顔をしているだろう?

 冷静さを保てているだろうか?
 それとも、思い切り動揺を表に出してしまっているだろうか?

「ふふ、すごい顔をしているよ」
「それは……」

 今までにも魔王の影を感じたことはある。

 アリーシャの事件、アラム姉さんの事件、シャルロッテとフィアの事件。
 どれも、どこかで魔王が関わっていると思われた。

 それらについて、もしかして、メルはなにかを知っている……?

「怖いな。そんなに睨まないで?」
「……メル、お前は何者だ?」
「さて、何者でしょう」

 メルは不敵に笑う。

 魔王の影響を受けた者か……
 もしかしたら、魔王本人という可能性も。

 だとしたらまずい。
 こんな街中で事件を起こされたら、どれだけの被害が出るか……

 先手を狙い、一気に制圧するか?
 いや、待て。
 まだ敵と決まったわけじゃない。

 でも……

「だいぶ混乱しているみたいだね」
「……誰のせいだと思っている」
「ボクのせいだね。ふふ♪」

 その笑みが憎たらしい。

「大丈夫。別に、ここで暴れたりはしないから。あと、ボクは君の敵になるつもりはないよ」
「そう言うのなら、信じられるだけの根拠をくれ」
「んー……それはまだ内緒♪」

 ふざけているのだろうか?

 ただ……

 メルからは敵意や害意といったものは感じられない。
 ここで暴れるつもりはないという言葉は信じてもよさそうだ。

「賭けをしない?」
「賭け?」
「今度、魔法大会が開かれるでしょう? そこで、勝った方が負けた方に一つ、なんでも命令できる……っていうのはどうかな? あ、もちろん命令は常識の範囲内で。死んで、とかそういう命令はなしで」
「……そんな賭け、乗る必要性を感じられないが」
「乗ってくれたら、勝負の結果に関わらず、大会が終わった後にボクのことを教えてあげる。他にも、レンが疑問に思っていることに答えてあげるよ?」
「それは……」
「で、さらに勝者特権を使っていいよ。ボクにあーんなことやこーんなことをしてもいいよ、ふふ♪」

 小悪魔のように微笑む。

「どう? ボクのこと、気になっているんだよね? ボクとしては、賭けに乗ることをオススメするよ」

 どうする?
 どうしたらいい?

 ものすごく怪しいのだけど……
 しかし、同時に、メルのことはものすごく気になる。

 彼女は確かに『魔王』と口にした。
 魔王の関係者なのか、その情報を持っているのか……
 あるいは、本人なのか。

 それを知ることで、俺はこの時代に転生までした目的を果たすことができるかもしれない。
 宿願だ。
 そのために、なんでもしたいところだけど……

 ただ、みんなに危険が及ぶようなことは避けたい。
 誰かを巻き込むようなことも避けたい。
 俺は一人じゃないのだから。

「……その賭けは、俺とメルの間でのみ成立するんだよな? 他の人が巻き込まれるとか、そういうことは?」
「ないよ」
「わかった。なら、賭けに乗るよ」
「そうこなくっちゃ♪」

 賭けに乗ると伝えると、メルはとても嬉しそうに……そして、不敵に笑うのだった。