なんだ、今の感覚は……?

 メルと握手をしたら、軽くてが痺れて……
 それだけじゃなくて、妙な懐かしさを覚えた。

「……」

 同じような感覚を得たらしく、メルも驚いていた。

 ただ、俺とは若干反応が違うような……?

 単純に驚く俺とは違い、メルは小さな笑みを浮かべている。

「メル……?」
「……ん? どうしたの?」

 どうかした? と問いかけてくるような感じで、メルは小首を傾げた。
 その様子におかしなところはない。

「……気のせいかな?」
「なんのこと?」
「いや、なんでもないよ。それよりも、カフェにでも行く?」
「ナンパ? ボク、そんなに軽く見えるかなあ?」
「いやいや……」
「ふふ、冗談だよ。本について語り合うんだよね? 行こうか」

 メルに手を引かれてカフェに移動した。

 あんな冗談を口にしたかと思えば、積極的に誘う。
 よくわからない子だ。

「レンは、ああいうジャンルの物語が……あ、レンって呼んでいいよね?」
「いいよ。俺も、メルでいい?」
「オッケー」

 とても気さくな性格をした子だ。

「レンは、ああいう物語が好きなの?」
「けっこう好きだよ。王道だけど、そこがまたいいというか……」
「うんうん、わかる。期待を裏切らない展開がいいんだよね。予想外の展開っていうのも面白いんだけど、でも、それと比べると安定感があるというか」

 本当に本が好きらしく、途端に饒舌になる。

 俺も次第にテンションが上がり、それからしばらくの間、本について語り合う。
 とても楽しい時間だ。

「あー、満足。こんなに語ったのは久しぶりだよ」

 メルはにっこり笑顔でアイスティーを飲んだ。
 たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。

 好きなものを好きなだけ熱く語る。
 そして、語ることができる相手がいる。
 それはとても素晴らしいことだ。

 できるなら本だけじゃなくて魔法についても語りたいんだけど……

「ところで、話は変わるけど……レンはエレニウム魔法学院の生徒だよね?」
「そうだけど、どうしてわかったんだ?」
「自分が有名人だっていうこと、もう少し認識した方がいいんじゃないかな」

 メル曰く……

 男なのに魔法が使える異端児。
 それだけじゃなくて、トップクラスの成績を誇る。
 さらに、いくつかの事件を解決に導いた。

「……っていう感じで、すごい有名人だから、すぐにわかったよ」
「あー……うん、なるほど。納得だ。っていうか、それじゃあメルは……」
「うん。ボクもエレニウム魔法学院の生徒だよ」

 そう言いつつ、メルは一緒に頼んだポテトをつまむ。
 それからストローを噛みつつドリンクを飲んだ。

「どんな人なのかな? って前から興味があったんだけど……」
「期待には応えられた?」
「ばっちり」

 メルはニヤリと笑い、ドリンクの氷を噛んだ。

「レンなら、あるいは……」

 ふと、ひどく真面目な顔になる。
 思い詰めたような、追い詰められたかのような……
 そんな顔。

 目の前にいるメルがひどく遠くに感じた。

「ねえ、レン」

 ふと、メルがこちらをまっすぐに見た。

「ちょっとした面白い話を知っているんだけど、レンは聞いたことないかな?」
「面白い話?」

「魔王」