翌日の放課後。
 さっそく特訓が開始されるのだけど……

「んー……お兄ちゃん、この魔法はどうやって使えばいいんですか?」
「それは、ここをこうして……」
「ねえ、レン。次、あたしの相手をしてくれない?」
「オッケー」
「レン、あまり根を詰めてはダメよ。適度な休憩が必要なんだから」
「わかってますよ、アラム姉さん」

 他のみんなの姿があった。
 どこからか話を聞いたらしく、『私達も参加する!』という流れに。

 拒む理由なんてないので、一緒に特訓をすることにした。

 幸いというか、シャルロッテとフィアとすぐに仲良くなった。
 女の子同士、色々と気が合うのだろう。

「……それにしても」

 妹がいて、姉がいて。
 そして友達がいる。

 前世では考えられない光景だ。
 ずっと一人で過ごしてきた俺が、こんなにもたくさんの人に囲まれて、そして、笑うことができるなんて。

 前世の俺は、他人と馴れ合う必要はない。
 足を引っ張られてしまう、余計な気を回してしまう。
 故に、強くなるためには一人でいることが正解なのだ。

 ……なんてことを考えていた。

 その考えは正しく、しかし、間違ってもいる。
 確かに俺は強くなれた。
 力を手に入れることができた。

 でも、心は乾ききっていた。

 そんな人生になんの意味があるのだろう?
 今ではそう考えられるようになって、この絆を大事にしたいと思っている。

 そのためにも強くなって、もっともっと強くなって……
 そして、魔王を倒さないと。



――――――――――



 特訓が始まり、数日が経った。

 今日は休息日だ。
 毎日特訓を続けていたら息が詰まる。
 それに、体を休めることも大事だ。

「さてと……なにかいいものはないかな?」

 書店を巡る。
 魔法書ではなくて、普通の小説を探していた。

 最近の趣味は読書だ。
 のんびり過ごすことができるから、けっこう楽しいんだよな。

 面白い本と巡り合うことを期待して、こうして街を歩くことが多い。

「おっ」

 いくつかの本屋を巡り、面白そうな本を見つけた。
 少年剣士が幼馴染と一緒に旅をして、やがて英雄になるというものだ。

 こういう王道の物語、好きなんだよな。
 読んでいてわくわくする。

「「あ」」

 本を取ろうとしたら、別の人の手と重なってしまう。

 顔をあげると、そこには俺と同じくらいの女の子がいた。

 まだあどけなさが残る顔。
 綺麗というよりは可愛いという感じで、健康的な魅力があった。

 髪は長く、足元に届くほど伸びていた。
 一部を束ねて横に流している。
 サイドテールというやつだ。

 背は低く、体も細い。
 体の凹凸は……これからに期待。
 ただ、その身にまとう雰囲気は不思議と、とても大人びていた。
 だから、小さいけど俺と同じくらいかな? って思ったのだ。

「ごめん」
「いやいや、ボクこそごめんね?」

 一人称が『ボク』という変わった女の子だった。

「君、この本が好きなの?」
「いや。なんとなく興味を惹かれて買ってみようかな、って」
「奇遇だね。ボクも似たようなことを考えて手に取ろうとしたのさ」
「へぇ」

 そんな偶然、あるものなんだな。
 妙な縁を感じてしまう。

 それは向こうも同じだったらしく、小さく笑う。

「時間ある? よかったら、少し話していかない?」
「いいよ」
「よかった。ボクは、メル。メル・ティアーズだよ」
「俺は、レン・ストライン」

 俺とメルは笑顔で握手を交わして……

「っ……!?」

 瞬間、ピリッと手が痺れ、妙な感覚を受けるのだった。