「ピィ」

 肩に乗るニーアがつんつんと頬を突いてきた。
 餌をくれ、とおねだりしている。

「ちょっとまってくれ」

 すぐに餌を用意すると、ニーアはぴょんとジャンプして餌箱の前に着地。
 カンカンと突くようにして食べ始める。

「……こうして見ると、普通の鳥なんだよな」

 でも、時々、高い知性を持っているように感じる。
 シャルロッテとフィアが誘拐された時なんか、ニーアが導いてくれたように感じたし……
 他にも、何度かニーアに助けられてきたように思う。

 調べてみたら、ニーアは図鑑に載っていない未知の鳥だった。
 各地を旅していたエル師匠が連れていたから、未発見だとしても不思議じゃないけど……

「ほんと、不思議なやつだな、お前は」
「ピー?」

 ニーアは小首を傾げるのだった。

「ん?」

 ふと、部屋の扉がノックされた。
 表に出ると、

「ごきげんよう」
「こ、こんにちは」

 シャルロッテとフィアがいた。
 ひとまず部屋に招き入れつつ、問いかける。

「どうしたんだ?」
「あら。わたくしが休日に訪ねてきたのだから、もっと喜ぶべきでは?」
「お、お嬢様。そのような上から目線は……」
「?」

 なにがいけないの、とシャルロッテが小首を傾げた。
 でも、その方が『らしい』と思うので俺は気にしない。

「あら、鳥を飼っているのですね」
「ニーアって言うんだ。家に置いてきたはずなんだけど、どうやってか知らないけど着いてきちゃって」
「ふふ、かわいいですわね」
「本当に。鳥さん、鳥さん、撫でてもいいですか?」
「ピー!」

 ニーアは大人気だった。

「ニーアを見に来たのか?」
「違いますわ。危ない危ない、本来の目的を忘れるところでしたわ……ニーアちゃんの可愛さ、恐るべし、ですわね」
「今日は、特訓のお誘いに来ました」
「特訓?」

 早朝や放課後に自主練、ということだろうか?
 すでに俺はしているが……

 シャルロッテやフィアも特訓をするというのは、ちょっと意外だ。

 シャルロッテの成績はトップクラス。
 フィアも上の下というところで、悪くはない。

「これ以上鍛えてどうするんだ?」
「決まっていますわ、優勝を目指すのです!」
「優勝?」

 なんの話だ?

「えっと……レン君は、もしかして知らないんですか?」
「なにを?」
「魔法大会です」

 え、なにその面白そうな大会。

「知らなかったみたいですね……」
「ふふん、なら特別に教えてさしあげますわ!」
「うん、教えてくれ」
「……素直ですわね。まあいいですわ。かいつまんで説明すると」

 エレニウム魔法学院、魔法大会。

 それは、学期末に行われる、学院で一番優れた魔法使いを決める大会だ。
 中等部高等部、学年関係なく全校生徒で競い合い、頂点に立つ者を決める。

 負けてもペナルティはない。
 しかし勝者は複数の特典が与えられる。

 賞品を手に入れるために。
 あるいは栄誉を手に入れるために、数多くの生徒が魔法大会に参加するのだという。

「へぇ、そんな大会があったんだ」
「強制参加というわけではないので、参加しない方もいますが、ほとんどの方は出場しますわね」
「負けてもペナルティはないですし、優勝しなくても、それなりの順位でそれなりの賞品がもらえるんですよ」
「賢者の石とかもらえる?」
「最高峰の魔法触媒をもらえるわけないでしょう。学食無料券とか賞金とか、そういったレベルのものですわ」
「残念……」
「あ、でも。国が管理する機密図書館の立ち入りが許可される権利、とかもありましたよ」

 それは興味がある。
 一般に立ち入れない図書館なんて、レアな魔法書が眠っていそうだ。

「レンも出場するものと思い、特訓に誘いに来たのですが……」
「レン君はどうするんですか?」
「もちろん出場するよ」

 そんな話を聞かされて、出場しないなんて話はありえない。

 賞品がおいしい。
 ただ、なによりも競い合うところが素晴らしい。

 前世は、誰よりも強くあろうとした。
 今世ではその目的はちょっと変わりつつあるけど……
 それでも、自身の力を試す場というのはわくわくしてくるものだ。

「じゃあ、これからは一緒に特訓ですわね」
「ああ、よろしくな! 朝晩みっちりやろう」
「えっと……で、できれば手加減していただけると……あぅ」