わたくしの名前は、シャルロッテ・ブリューナク。
名門ブリューナク家の長女で、いずれ後を継ぐ者。
家を継ぐために様々な知識を蓄えて。
より優れた魔法使いになるために、エレニウム魔法学院に通っている。
自分で言うのもなんだけど、成績はトップクラス。
筆記、実技共に問題はない。
目標は首席で卒業すること。
そうやって己の力を示して……
そして、完璧な存在になって家を継ぐ。
それが目標だ。
そんなわたくしには、とある悩みがあった。
男性が嫌い。
愚かな父の影響で、どうしても男性というものが汚く見えてしまう。
浅く、狭く。
どうしようもない愚か者に感じてしまう。
そんな価値観を壊してくれたのが、レン・ストラインだった。
男なのに魔法を使えるという異端児。
男嫌いを公言しているにも関わらず、彼はわたくしに普通に接してきた。
話してみると意外と筋が通った人で、しっかりとした考えを持っていて……
少しだけ心を許すようになった。
少なくとも名前で呼ぶことを許すくらいには。
そして……
復讐を企む父が暴走するという事件が起きた。
わたくしはなにもできず、侍女のフィアと一緒に捕まってしまう。
正直なところを告白すると、あの時は半分くらい諦めていた。
魔法が使えないという状況に詰んでいたのもあるけれど、それだけではなくて、犯人が父親でわたくしを利用しようとしていたこと。
その事実がわたくしの心を打ち砕いた。
どうしようもない愚か者ではあるけれど……
それでも父なのだ。
思うところはたくさんある。
だから、父がわたくしを利用しようとした時、密かに心で涙していた。
でも……
そんなわたくしをレンが助けてくれた。
それだけじゃなくて、父がどこかでわたくしのことを気にかけていることも教えてくれた。
彼には感謝してもしきれない。
なにか恩返しがしたい。
そうだ。
彼をブリューナク家に迎えるというのはどうだろう?
立場に興味がなさそうではあるけれど、魔法には強い関心を持っている。
ウチに来れば魔法に研究がし放題だ。
わたくしも魔法の研究がしたい。
そうして一緒に過ごして……
そして、彼との子供なら産んでもいい……かも?
って、さすがに発想がひやくしすぎですわ!?
なにを考えているの、わたくしは。
まあ……
「そんな未来の可能性も悪くないのかもしれませんね」
――――――――――
わたしは、フィア・レーナルト。
自分に自信がありませんでした。
例えば、新しい物事に挑む時。
まず最初に思うことは、うまくできるかな? というものでした。
がんばろう、とか、楽しみ、とか……
そういう前向きな感情は湧いてこなくて、ただただ不安になっていました。
幼い頃から私はこうでした。
なにをやってもうまくいかず……
どんくさいというかドジというか、失敗ばかりで……
自信は失われていくばかり。
トドメになったのは、シャルロッテさまと初めて顔を合わせた時のこと。
失礼がないように、と両親から何度も念押しをされていましたが……
やらかしてしまいました。
緊張のあまり気分が悪くなり、シャルロッテさまに介抱されてしまう始末。
仕えるはずのお嬢さまの手を煩わせるだけではなくて、ウチの面子を完全に潰してしまった瞬間でした。
幸いというべきか、シャルロッテさまは「あなたおもしろい子ね」と、なぜかわたしを気に入ってくれて……
シャルロッテさまの家族も、子供のすることと本気で怒るようなことはありませんでした。
でも、わたしの両親は別で……
その日、家に帰ると、たくさん怒られました。
泣いても許してくれないほどに怒られて、怒られて、怒られて……
その日から、わたしは自分に対する自信というものを完全に失いました。
なにをやってもダメ。
なにをやっても無駄。
失敗ばかりで、得るものはゼロ。
周囲に迷惑をかけないようにと思い、ひっそりと生きてきました。
ただ、せめて侍女の仕事だけはがんばろうと、一生懸命お嬢様に尽くしました。
その分、お嬢様も笑顔を向けてくれて……
ドジなわたしだけど、これだけはがんばろう、と思えました。
ある日、わたしの世界を、わたしの価値観を壊してしまう人が現れました。
レン・ストライン。
男の子なのに魔法が使えるという不思議な人。
魔法を使えるだけじゃなくて、とんでもない実力を秘めた人。
あっさりとシャルロッテさまに勝ってしまうほどの力を持っていました。
おとぎ話に出てくる勇者様のように、憧れの対象になりました。
ストライン君は気さくな性格をしていて、わたしにも優しくしてくれました。
お嬢様とも仲良くなりました。
わたしにとって彼は、本当に勇者様のような存在でした。
一緒にいると楽しくて、前向きな気持ちになることができて。
そして、勇気をもらうことができる。
だから、お嬢様が誘拐されるという事件が起きた時、わたしはがんばることができました。
なにができたか、そこは怪しいけど……
でも、後悔することなく動くことができました。
一生懸命に立ち向かうことができました。
全部、ストライン君が勇気をくれたおかげです。
あの人のようになりたいと思い、がんばることができたからです。
弱い自分を捨てなければいけない。
どうせダメだから、というつまらない考えを打ち砕かないといけない。
新しい自分に生まれ変わらないといけない。
そんな決意をしました。
ストライン君のおかげで、わたしは変わることができました。
前を向いて歩くことができるようになりました。
それは、まるで魔法のよう
人の心を変えることができる不思議な力。
それこそが彼の持つ本来の力なのかな……なんて、そんなことを思いました。
ストライン君のおかげです。
感謝です。
とてもとても感謝です。
でも……と、不思議に思います。
ストライン君は、どうしてここまでしてくれるんしょうか?
どうして、わたしなんかのために、ここまで……
ストライン君に聞いたら、きっと、友達だからと答えるんだと思います。
でも……本当にそれだけなのか?
気になってしまいます。
友達だから、という理由だけじゃなくて……
他の感情がまぎれこんでいないかな?
なんてことを思ってしまいます。
つまり、なんていうか……
わたしが特別だから……とか?
……っーーー!!!?
そんなことを考えてみたら、ものすごく恥ずかしくなりました。
どうしてわたし、そんなことを……
そうあってほしい、と心のどこかで願っているのかもしれません。
だとしたら……
わたしは、ストライン君のことをどう思っているんでしょうか?
大事な友達?
それとも……
今は、まだわかりません。
わからないけど……
この温かい気持ちを、そっと優しく、大事に育てていきたいと思います。
名門ブリューナク家の長女で、いずれ後を継ぐ者。
家を継ぐために様々な知識を蓄えて。
より優れた魔法使いになるために、エレニウム魔法学院に通っている。
自分で言うのもなんだけど、成績はトップクラス。
筆記、実技共に問題はない。
目標は首席で卒業すること。
そうやって己の力を示して……
そして、完璧な存在になって家を継ぐ。
それが目標だ。
そんなわたくしには、とある悩みがあった。
男性が嫌い。
愚かな父の影響で、どうしても男性というものが汚く見えてしまう。
浅く、狭く。
どうしようもない愚か者に感じてしまう。
そんな価値観を壊してくれたのが、レン・ストラインだった。
男なのに魔法を使えるという異端児。
男嫌いを公言しているにも関わらず、彼はわたくしに普通に接してきた。
話してみると意外と筋が通った人で、しっかりとした考えを持っていて……
少しだけ心を許すようになった。
少なくとも名前で呼ぶことを許すくらいには。
そして……
復讐を企む父が暴走するという事件が起きた。
わたくしはなにもできず、侍女のフィアと一緒に捕まってしまう。
正直なところを告白すると、あの時は半分くらい諦めていた。
魔法が使えないという状況に詰んでいたのもあるけれど、それだけではなくて、犯人が父親でわたくしを利用しようとしていたこと。
その事実がわたくしの心を打ち砕いた。
どうしようもない愚か者ではあるけれど……
それでも父なのだ。
思うところはたくさんある。
だから、父がわたくしを利用しようとした時、密かに心で涙していた。
でも……
そんなわたくしをレンが助けてくれた。
それだけじゃなくて、父がどこかでわたくしのことを気にかけていることも教えてくれた。
彼には感謝してもしきれない。
なにか恩返しがしたい。
そうだ。
彼をブリューナク家に迎えるというのはどうだろう?
立場に興味がなさそうではあるけれど、魔法には強い関心を持っている。
ウチに来れば魔法に研究がし放題だ。
わたくしも魔法の研究がしたい。
そうして一緒に過ごして……
そして、彼との子供なら産んでもいい……かも?
って、さすがに発想がひやくしすぎですわ!?
なにを考えているの、わたくしは。
まあ……
「そんな未来の可能性も悪くないのかもしれませんね」
――――――――――
わたしは、フィア・レーナルト。
自分に自信がありませんでした。
例えば、新しい物事に挑む時。
まず最初に思うことは、うまくできるかな? というものでした。
がんばろう、とか、楽しみ、とか……
そういう前向きな感情は湧いてこなくて、ただただ不安になっていました。
幼い頃から私はこうでした。
なにをやってもうまくいかず……
どんくさいというかドジというか、失敗ばかりで……
自信は失われていくばかり。
トドメになったのは、シャルロッテさまと初めて顔を合わせた時のこと。
失礼がないように、と両親から何度も念押しをされていましたが……
やらかしてしまいました。
緊張のあまり気分が悪くなり、シャルロッテさまに介抱されてしまう始末。
仕えるはずのお嬢さまの手を煩わせるだけではなくて、ウチの面子を完全に潰してしまった瞬間でした。
幸いというべきか、シャルロッテさまは「あなたおもしろい子ね」と、なぜかわたしを気に入ってくれて……
シャルロッテさまの家族も、子供のすることと本気で怒るようなことはありませんでした。
でも、わたしの両親は別で……
その日、家に帰ると、たくさん怒られました。
泣いても許してくれないほどに怒られて、怒られて、怒られて……
その日から、わたしは自分に対する自信というものを完全に失いました。
なにをやってもダメ。
なにをやっても無駄。
失敗ばかりで、得るものはゼロ。
周囲に迷惑をかけないようにと思い、ひっそりと生きてきました。
ただ、せめて侍女の仕事だけはがんばろうと、一生懸命お嬢様に尽くしました。
その分、お嬢様も笑顔を向けてくれて……
ドジなわたしだけど、これだけはがんばろう、と思えました。
ある日、わたしの世界を、わたしの価値観を壊してしまう人が現れました。
レン・ストライン。
男の子なのに魔法が使えるという不思議な人。
魔法を使えるだけじゃなくて、とんでもない実力を秘めた人。
あっさりとシャルロッテさまに勝ってしまうほどの力を持っていました。
おとぎ話に出てくる勇者様のように、憧れの対象になりました。
ストライン君は気さくな性格をしていて、わたしにも優しくしてくれました。
お嬢様とも仲良くなりました。
わたしにとって彼は、本当に勇者様のような存在でした。
一緒にいると楽しくて、前向きな気持ちになることができて。
そして、勇気をもらうことができる。
だから、お嬢様が誘拐されるという事件が起きた時、わたしはがんばることができました。
なにができたか、そこは怪しいけど……
でも、後悔することなく動くことができました。
一生懸命に立ち向かうことができました。
全部、ストライン君が勇気をくれたおかげです。
あの人のようになりたいと思い、がんばることができたからです。
弱い自分を捨てなければいけない。
どうせダメだから、というつまらない考えを打ち砕かないといけない。
新しい自分に生まれ変わらないといけない。
そんな決意をしました。
ストライン君のおかげで、わたしは変わることができました。
前を向いて歩くことができるようになりました。
それは、まるで魔法のよう
人の心を変えることができる不思議な力。
それこそが彼の持つ本来の力なのかな……なんて、そんなことを思いました。
ストライン君のおかげです。
感謝です。
とてもとても感謝です。
でも……と、不思議に思います。
ストライン君は、どうしてここまでしてくれるんしょうか?
どうして、わたしなんかのために、ここまで……
ストライン君に聞いたら、きっと、友達だからと答えるんだと思います。
でも……本当にそれだけなのか?
気になってしまいます。
友達だから、という理由だけじゃなくて……
他の感情がまぎれこんでいないかな?
なんてことを思ってしまいます。
つまり、なんていうか……
わたしが特別だから……とか?
……っーーー!!!?
そんなことを考えてみたら、ものすごく恥ずかしくなりました。
どうしてわたし、そんなことを……
そうあってほしい、と心のどこかで願っているのかもしれません。
だとしたら……
わたしは、ストライン君のことをどう思っているんでしょうか?
大事な友達?
それとも……
今は、まだわかりません。
わからないけど……
この温かい気持ちを、そっと優しく、大事に育てていきたいと思います。