色々とあったものの、シャルロッテ誘拐事件は無事に解決した。

 あの後、憲兵に通報してエイルマットは逮捕された。

 娘とその侍女を誘拐。
 違法な研究に兵器の製造。
 それと傷害罪。
 犯罪のオンパレードだ。

 まずは裁判となるため、即座に刑が確定するわけじゃないけど……
 相当重い罪になることは間違いないだろう。
 極刑とまではいかないが、一生、牢から出ることは叶わないかもしれない。

 一方で、俺達は俺達で怒られてしまった。

 シャルロッテとフィアが誘拐された可能性があるのなら、まず最初に憲兵に連絡をすること。
 自分の手で助けに行くとか、なにを考えている?
 うまくいったからよかったものの、下手をしたらエイルマットの毒牙にかかっていた。

 ……そんな感じでたっぷり絞られてしまった。

 大人の言い分は、まあ、わかるが……
 でも、俺は後悔していない。

 シャルロッテとフィアを助けることができた。
 みんなも守ることができた。
 なら、それでいい。
 自分の歩いてきた道を否定することはしない。
 否定するのは、前世の独りよがりな考え方だけだ。



――――――――――



「やあ」
「あら?」
「あっ、こ、こんにちは」

 シャルロッテが入院する治癒院にやってきた。
 花と果物の入ったカゴを手に部屋を尋ねる。

 シャルロッテはベッドの上で体を起こしていて。
 その隣にメイド服姿のフィアがいて、彼女にりんごを剥いて差し出していた。

「元気そうでよかった。はい、これお見舞いの品」
「ありがとうございますわ」

 みんな、怪我は大したことはなかったけど……
 シャルロッテはゴーレムの生体ユニットにされていたため、念のため、一週間ほど検査入院をすることになった。

 今のところ問題は見当たらないらしく、安心だ。

「これ、とても綺麗な花ですわね。あなたが?」
「あー……実を言うと、姉と妹に選んでもらった」

 二人もシャルロッテのお見舞いに来たがっていたのだけど、今日、憲兵の事情聴取を受けることになっていた。
 なので、代わりに花を、という感じだ。

「ふふ、納得ですわ。あなたに、このような綺麗な花を選ぶセンスはなさそうですもの」
「うっさい」
「お、お嬢様、その言い方はちょっと……」
「別に、その……癖のようなものですわ。レンのことが嫌いというわけではないから、安心なさい」
「ほっ、よかったです」
「俺のことが嫌いじゃないってことは、好きなのか?」
「なぁっ!?」

 からかってみたら、シャルロッテが耳まで赤くなる。

「そっ、そそそ、そのようなこと、あるわけないでしょう!?」
「お、落ち着けよ。ただの冗談だから」
「……やっぱり、あなたのことは嫌いかもしれませんわ」

 頬を膨らませて拗ねてしまう。
 からかいすぎてしまったか?

「まあ、元気そうでよかったよ」
「当たり前ですわ。このわたくしが、あの程度のことでどうにかなるなんてこと、ありえませんもの」
「お嬢様は、昔からとても元気でしたからね。まったく風邪を引きませんでしたし」
「……それ、わたくしがバカと言いたいのです?」
「そ、そのようなことは!?」
「ふぃーあー……?」
「ぴゃ!?」

 じゃれあう二人を見ていると、なんだか優しい気持ちになる。

 ちゃんと二人を助けることができてよかった。
 後悔するような結果にならなくてよかった。

 もしも前世の俺が見ていたら、他人に構うなんて余計なことをして、なにが楽しい?
 そんな無駄なことをするなら魔法の訓練をした方が百倍マシだ。

 ……なんてことを言うかもしれない。

 でも、それは間違いだ。
 強くなることよりも大事なことがある。
 そのことを少しずつだけど理解していると思う。

「……ところで」

 迷い、悩んで……
 結果、俺はこの話を持ち出すことにした。

「これに見覚えはあるか?」

 シャルロッテに小さなクマの人形を差し出した。
 くたびれていて汚れてしまっている。

「これは……昔、わたくしがお父様にプレゼントした……」
「やっぱりそうなんだ」
「これをどこで……?」
「憲兵から聞いたんだけど、エイルマットの研究室にあったらしい」

 エイルマットの罪を証明する能力は皆無ということで、話を聞いて貰い受けてきた。

「俺の勝手な想像で、あと、その通りだとしてもエイルマットがしたことは許されないことだけど……彼は彼なりにシャルロッテを愛していたんじゃないかな?」
「……」
「復讐を考える中で、もしかしたら迷いがあったのかもしれない。どこかでシャルロッテのことを想ってしたのかもしれない」
「……だとしても、あまりに勝手すぎますわ」
「そうだな、勝手だよな」
「ですが……」

 シャルロッテは人形を受け取る。
 そして、そっとその頭を撫でた。

 彼女は優しい顔をして……それでいて、どこか泣き出しそうになっていた。