「なんだと!?」

 今の魔法はいったい誰が?
 エイルマットは慌てて周囲を見回して……

 そして、見た。
 フィアと同じように、怒りに燃える青年の姿を。



――――――――――



 間一髪だ。
 危ういところだったけど、フィアを助けることができた。

「ストライン君……?」
「レン!」

 フィアは驚きの表情を。
 アラム姉さんは喜びの表情を。
 俺の登場に、二人はそれぞれ、そんな顔になった。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 もう一度、魔法を放ち、ゴーレムの足を止める。
 その隙にフィアのところへ駆け寄り、倒れそうになっていた体を支えて、そっと壁によりかからせた。

「大丈夫か?」
「わたしは……大丈夫、です。それよりも、お嬢様が……」
「ああ。わかっているよ」

 特殊なゴーレムを製造するために、生きた人間を使うなんて……
 しかも、自分の娘を。

「外道め……!」

 それだけじゃない。

 この男はみんなを傷つけた。
 エリゼを、アリーシャを、アラム姉さんを……
 俺の大事な人達を傷つけた。

 前世では感じたことのない感情がこみあげてくる。
 マグマのような激情。
 戦いの場では冷静にならないといけないのだけど、しかし、どうすることもできない。
 次から次に怒りが湧き上がる。

 ただ、一度その怒りに蓋をした。
 どうにかこうにか優しい表情を浮かべて、フィアを見る。

「すごいな、フィア。ここまでがんばるなんて、俺でも……いや。誰にもできないよ」
「そんな、ことは……それに、わたし、結局お嬢様を助けることが……」
「それは大丈夫。後は俺がなんとかするか」
「……いいんですか?」
「もちろん」
「お願い……します。お嬢様を、助けてください……」
「わかった。約束だ、必ず助ける。だから、フィアはゆっくり休んでいてくれ」
「……はい……」

 そこでフィアの意識が途切れた。
 怪我と緊張と、その二つに耐えることができなかったのだろう。

「治癒光<ヒール>」

 まずはフィアの傷を癒やす。
 それからゴーレムを警戒しつつ後ろへ下がり、意識のあるアラム姉さんの傷も癒やす。

「アラム姉さん、大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか……レーナルトさんは?」
「大丈夫。気を失っているだけです」

 意識はないものの呼吸は安定している。
 傷は治したから、しばらくすれば目が覚めると思う。

「フィアとみんなをお願いできますか?」
「レンは?」
「友達を助けます」

 友達。
 そう言葉にすると、不思議な感情が胸に広がる。
 くすぐったいような温かいような。
 前世では味わうことのなかった感情。

 なぜだろう?
 これを大事にしていきたいと、直感的に思った。

「がんばって」
「はい」
「あと、気をつけて。レンも無事に帰ってこないと意味がないのよ」
「わかりました」

 また不思議な気持ちになる。
 誰かの応援があると、こんなにも力強いなんて。
 アラム姉さんの笑顔で、何倍も力が湧いてくるような気がした。

「さて」

 前に出てゴーレムと対峙する。

「フィアの代わりに言わせてもらうぞ。シャルロッテを返せ!」