シオンは、「りょーかい」と答えながら奥の部屋へと向かった。
 他の部屋とは違う、重厚な観音扉。カーネリアン家にもあるが、ここがパーティなどを催すメインの部屋なのだろう。ならば、誘拐の犯人もいるかもしれない。
「キャロラインちゃんは、そこで待っていてね」
 シオンはソフィアに、安全な場所で待機するように言った。
 それは、ソフィアの魔力の高さを信じていないわけではない。
 無駄にケガを負わせたくなかったのと、ソフィアの魔術が必要な時には出てきてもらいたいというシオンなりの気遣いだった。
「ソフィアさんの魔術が必要な時は呼びますので、その時はよろしくお願いします」
 シオンの意思を汲んだレオナルドが、まだまだ口下手なシオンに代わってソフィアのプライドを守った。
 シオンとレオナルドは、観音扉にピタリと張り付き耳をかたむけた。
「レオ、なにか聞こえるか?」
「いいえ、なにも聞こえません」
 レオナルドの同意に、「やっぱりな」とシオンは扉から離れた。
「防音か」
 カーネリアン家でもパーティを催す部屋は防音だ。
「レオ、俺が先に行くから、気をつけて来いよ」
「わかりました。シオン様こそ慎重に」
 シオンは首を縦におろして『了解』の合図をおくると、右側の扉をそっと開けた。
 攻撃されるかもしれないので、扉をガード代わりにと張りつき、ゆっくりと慎重に。
 そして、そっと開いた扉の隙間から中の様子を覗った。
 すると、いきなり扉の隙間から勢いよく剣が出てきた。
 シオンは咄嗟に避け、その剣の柄に手をかけて、剣の持ち主を引きずり出した。
 剣の持ち主は、シオンの得意とする瞬殺みぞおち膝蹴りに抗う間もなく、そのまま気絶したようだ。
 レオナルドは毎回思う事だけれど、シオンの鮮やかな白兵戦は見事だった。
 剣や拳銃を突きつけられても動じない。ほんの一瞬で相手を倒している。
 シオンはまだ十七歳で体の線も細いし、いつも自由時間は部屋にこもって洋服作りをしている。
 いつも自室にこもり体を鍛えている姿を見た事はないので、シオンのどこにそんな瞬発力と攻撃力があるのかと、レオナルドは不思議で仕方なかった。
 床に転がったその男は小柄なうえ、痩せこけたおじいさんという感じで、シオンの相手にもならないのは理解できるが。
「キャロラインちゃん、このオッサン魔術で拘束しておいてくれる?」