「はい。大変強い魔力なので吸い取るのに時間がかかってしまいました」
「それを?」
「はい、こうします!」
 ソフィアは、吸い取った大量の黒い煙を門に向かって真上から地面まで振りおろした。
 大量の黒い煙が一気に前方へと向かう。
 門にぶつけると、門も、周りの高い塀も、古城の一部もあっけなく壊れた。
「すごいですね、ソフィアさん。先ほどまで近づく事すらできなかったのに」
「他人の魔術を利用してって事か。なかなかやるね、キャロラインちゃん」
 レオナルドとシオンに褒められ、ソフィアは嬉しそうに白い歯を見せた。
「シオン様、さすがですね。おっしゃるとおりです。このような魔術の使い方があるのは知っていましたが、初めて使ったので本当に成功できてよかったです」
「そーなんだ。やっぱりキャロラインちゃんは優秀な魔術師なんだね!」
「いえ、それほどでも」
 と、ソフィアは照れたようにはにかんでみせた。
「魔術による結界はなくなりましたので、もう中へ入って大丈夫です」
「じゃあ行きますか。キャロラインちゃん、お手を」
 シオンがソフィアの手を自分の手のひらに置き、エスコートする。
 門や塀のがれきで足元が悪い。ソフィアは今度はシオンの申し出を断らず委ねた。
「レオも気をつけて来いよー」
「はい、お気遣いありがとうございます」
 レオナルドは、まだ周囲にモンスターがいないかどうかと、それらがシオンやソフィアに危害を与えないかどうか確認しながら二人の後ろを歩いた。
 古城は、玄関までもをソフィアが壊していたので、すんなりと入る事ができた。
 さきほどソフィアが壊したために発生したがれきの砂埃と、古い建物だからか、あまり掃除はされていないのだろうと思われるカビ臭さもあった。
 まずソフィアが目についたのは、二階へと上がるシンメトリーの大階段。そして、いくつ部屋があるのだろうという印象。
 シオンも同じ事を思ったようで、一部屋ずつ扉を開けては閉めと繰り返していた。
 派手に古城を壊したにもかかわらず、誰もやって来ない。
 城壁も室内もコンクリートの打ちっ放しなせいか、シーンと静まりかえり、コツンコツンとソフィアが歩くヒールの音が響いた。
 その事に違和感を感じたレオナルドはシオンに、
「なにが起こるのかわかりません。気をつけてください」
 と、進言した。