「旅人さんたちかい? そこのマーケットは、いつも新鮮な食べ物が揃っているよ。見ておいで」
 印象は、自分の子どもだけではなく、他の家の子どもたちにも、いけない事は注意したり、良い事をすれば頭をガシガシとなでていそうな村人の中でもいちばんのおかあさん的存在という感じだった。
 この人ならなんでも教えてくれるかもしれない。
 と、レオナルドが訊いた。
「すみません、私たちはランドルフ王国から来た者です。こちらで我が国のマーシャ王女様が誘拐されるところを見たという情報があり、やってまいりました。なにかご存知ならば教えてくださいませんか?」
 そう尋ねると、
「すまないけど、そういうのは聞いた事ないねえ。あんたたち、ガセネタつかまされたんじゃないのかい?」
と答えてはくれたものの、さきほどまでは笑顔だったのに、みるみるうちに凍りついていくのをシオンは見逃さなかった。
 これはなにかを隠している。
 そう思ったシオンは『俺が訊きに行けばなら口を割るかも!』と、勝手にマーケットで買い物をしていた若い女性に声をかけた。
 しかし、その女性からも、
「知らないわ。ごめんなさいね」
 と、言われ情報は掴めなかった。
「え、なんで? この俺が訊いてるのに!」
 と、納得いかないと怒りだした。
 レオナルドとソフィアもその場にいた村人たちに聞き込みをしたが、みんな口をそろえて「知らない」と言われてしまった。
 村人たちが口を割らないので、仕方なくシオンたちは村長に会いに行く事にした。
 村長はマーケットの奥にあった、多分役所であろう建物の外でガーデニングを楽しんでいるようだった。
 異国からきた客人にうれしそうな顔で出迎えたが、マーシャ王女様の話に入ると急変した。
「どこからそんな戯言を聞いたか知らんが、うちの村は平和だ。帰ってくれ!」
「でもさー、うわさでは死亡寸前の重体になった事故もあったんだよね?」
 シオンのこの言葉は村長だけではなく、その場にいた数人の村人たちにも聞こえていたようで、村人たちのヒソヒソ話などでザワついた。
 すぐに警察らしき村人たちがシオンたちを取り囲み、古い木造三階建ての建物に連れて行った。
「ちょっと、なにこの人たち! 俺にさわるなって!」