レオナルドは許可をもらう事もなくその部屋に入った。
「シオン様」
 この部屋の主、ランドルフ王国の随一貴族カーネリアン家の一人息子である、シオン・アンリ・カーネリアンに声をかけた。
 貴族である以上いつも身なりは整えてくださいと、何度もレオナルドが言っているのだが、当の本人であるシオンはただ美容師を呼んで切ってもらうの面倒だし、時間がもったいない。と、いうだけで腰までのばした金髪を、グルグルと適当に巻いて銀色の髪留めで留めていた。
 服装も今起きたばかりなのか、徹夜したのかは訊かなければわからないが白いネグリジェのままだ。
 貴族の息子たちの中でもひときわ美しく、貴族だけではなく王族の王女様たちにも人気がある。
 その美しい顔は、悲しい事にクマができていた。
「話しかけるな。今、集中してるんだ」
 レオナルドの存在を鬱陶しがるシオンの視線は手元をみつめたままだった。
 文句を言えるくらい余裕で気づいているならノックに答えてくれてもいいのにと、レオナルドは思いたくなるけれど、これもいつもの事だ。
 もう諦めの方があきらかに大きい。
 無視をされているとはいえ、無断で部屋に入った事には違いない。
 ご機嫌をうかがうように近付いてみると案の定。真剣な横顔には、レオナルドの方に振り向こうなどという気持ちはほんの少しもみられない。
 いつもは郵便など、「あとで目をとおしてくださいね」と言って作業台の片隅に置いたりして出直すのだが、今はそんな事をしていられない状況だった。一刻も早く、シオンに伝えなければならない事があったのだ。
「なにをされているんですか……。外は大騒ぎだというのに!」
「騒ぎ? ああ、そういえばさっき街中で号外が配られていたなぁ。興味ないけど」
「興味あるとか、ないとかの問題ではありません。大変な事が起きたんですよ? この国の一大事です!」
「大袈裟だなぁ」
「シオン様っ! お願いですから手を止めて私(わたくし)の話を聞いてください!」
 急きたてるのは、シオンの家庭教師。レオナルド・ハリス。
 家柄でいえば、レオナルドは平民。