もう部屋に戻っていいでしょ? と、席を立つシオン。
 咄嗟にハミルトンが、「マーティンとターナーも……」とシオンを止めようとしたが、レオナルドが割って入った。シオンが男二人に興味がないのはわかっていたし、無理にパーティに入れようものならまた「断る!」とでも言いだしかねなかったからだ。
 その事はハミルトンも感じ取っていたようで口をつぐんだ。
「あとはもういいでしょ? 詳細決まったらレオに言っておいて。じゃ」
 既にシオンの頭の中はマーシャ王女様救出よりも、ソフィアの洋服のデザイン画でいっぱいだった。
 行くはずだった、高級クラブの事など忘れてしまった様子。
 早くデザインを煮詰めて創作活動したい。そんな心ここにあらずの状態でシオンは応接室を出て行ってしまった。
 肝心の『勇者』が不在になったが、シオンが了承したという事で国王様にも良い報告ができるとハミルトンはなにも言わなかった。
「ありがとうございます! ソフィアさん、共にがんばりましょう! またシオンに代わり、採寸とはいえさきほどの無礼をお詫び申し上げます」
 レオナルドはかしこまりながらも、嬉々として両手でソフィアの手を握って健闘を誓った。
 その光景にハミルトンも安堵したのか、ふう、とひと息をついた。
 もしシオンに断られていたら、国王様になんと報告すれば……。
 いや、報告なんてできるわけがない。一家で夜逃げするしかないと思っていたのだ。
「キャロライン・ソフィア・マイヤー、シオン様をお護りし、しっかりとな。頼んだぞ」
「はい、ハミルトン様」
 応接室の空気はガラリと変わり、みなが士気を高め合った。
 レオナルドとソフィアは、シオンにまかせても本当に大丈夫なのだろうかと疑心暗鬼になった思いはかき消されなかったが。
 しかし、ソフィアはシオンの命令に従わなければならない。
 たとえシオンの言動に思うところがあったとしても、与えられた使命をを全うする。
 それだけを頭に置いてマーシャ王女様の救出に専念しようと思った。