創作が好きでもない奴らに撃ち落されるくらいなら、私がその筆を折ってやりたかったのだ。
藤乃先生が居なくても、この界隈は続く。むしろ、安定するんじゃないだろうか。居なくなってせいせいする、そう呟く人がたくさん居るだろう。
その一人が、私だ。私はただの、飛べなくなったことを、あの人の言い訳にする凡人の一人でしかない。
針は、止まったままだった。

あれから、藤乃先生はしばらくして無言でアカウントを消していた。安心したはずなのに、私の世界が止まっている間も、あの人はまだ諦めていないような気がしていた。不安を残して生きていた。
2年が経過していた。ジャンルからは人がだいぶ減ってしまい、勢いがあった頃には劣るものの自カプのプチオンリーが開かれる運びとなっていた。安定して書いてくれる層がいるおかげだ。ナマステさんとは今でも付き合いが続いていて、彼女はあちこちをふらふらしながらも、いて欲しいタイミングでひょこっと顔を出してくれるのがありがたい。
今日も息抜きにと、商業BLの映画に誘われていた。ナマステさん曰く、「みいらさんが好きそうなやつだったので」らしい。あらすじを事前に公式ページで見て、これは原作も読んでから見なければと思った。映画が始まるまでの時間で読もうと、待ち合わせのカフェに早めに到着して文庫本を開く。商業をほとんど読まない私だけれど、クソデカ感情を抱き合う男二人のほぼほぼブロマンス寄りのBLと聞いて、食指が動いた。
――これ、藤乃先生が書いてた作品にそっくりだ。
当時の記憶より、かなり技術が上がっていた。どこにも姿を見せず、誰からも認められなくなったくせに。どうして筆を折ってくれなかったのだろう?
藤乃先生は、私にあの日、確かに空から撃ち落された。けど、もう一度飛ぶための翼を、空を飛ぶ物語を書いた。そうして、またどこまでも、私なんかには到底届かない場所へ一人きりで飛べる。あの人は、そういう人だった。
認められるまで書くだけの力がないと諦めて逃げた私を、藤乃先生は置いて行った。初めから彼女は、誰かを引き止めたくて書いていたのではないのだから、当然だ。
焦がれるのすらおこがましい、空の高さを。私は地面から、見上げているだけ。

針が私を急かしている。