藤乃先生は筆が早く、ネタもすぐぽんと出てきて様々な観点から物事を描ける人だった。私の本来描きたかったストーリーを挙げていくあの人の背中は、いつも遠かった。これまで創作活動を続けてきたけれど、あんなに創作にひたむき過ぎる人も稀だろう。ちょっと褒めるとすぐ調子に乗るところはダメだと思うけど、誰よりも小説を書くことを愛しているのが分かる。好きなものを、好きなように描く。バカみたいに。感想マシュマロも来ないくせに。リクエストだって、私しか入れてないのに。
頼むから、折ってくれ。もう二度と、小説を書くことなんかに一生懸命にならないでくれ。
絶望のどん底に落とされたであろう藤乃先生が会場から走り去る。私がスペースに戻れば、フォロワーの一人であるナマステさんがふらりと手を振った。
「こんちはー。お疲れ様です~」
「ごめんなさい席外しちゃって。もしかして買いに来てくれました?」
「そうなんですけど、めちゃめちゃ出遅れましたね。やば~っ」
「一部あるので、良かったらもらってください!」
「うわ奇跡!ありがたく受け取ります。やったー。サンプルから楽しみにしてたんですよ。いつもとガラッと作風変わりましたよね」
ナマステさんがのんびりと小銭を出し、本を手に取ると頬を綻ばせた。元々字書きだったらしいが、絵も描ける両刀の彼女は小説も漫画も垣根なく愛してくれる、珍しいタイプの人だった。余りの一部は、藤乃先生に受け取ってもらえなかったぶんだ。欲しい人に買ってもらえた方が、きっと作品も嬉しいはずだった。
「藤乃先生っぽさありますよね。ってああ、こういうの言うとやばいか。ごめんなさい」
「……尊敬してるんです。だから、たまには藤乃先生みたいなものも、書いてみたくて」
「あ~。なるほど。あの人、飛ぶ鳥を落とす勢いで書きますよね。いや、飛んでる鳥の中のひとつなんだけど……なんだろう。他の鳥を落としながら飛んでる、みたいな」
コチ、コチ。
……カチッ、と。針が止まる。
私も、落とされた鳥だった。周りに馴染まなければ、作品を売り込まなければ。読まれなければ、無価値なのだと。大して才能もないのだから、書くだけでは届かない場所があるのだと思い知って泣いて、飛ぶことを諦めた。
だから藤乃先生も引きずり落としてやろうと、飛ぶ姿を目掛けて石を放ったつもりだった。
頼むから、折ってくれ。もう二度と、小説を書くことなんかに一生懸命にならないでくれ。
絶望のどん底に落とされたであろう藤乃先生が会場から走り去る。私がスペースに戻れば、フォロワーの一人であるナマステさんがふらりと手を振った。
「こんちはー。お疲れ様です~」
「ごめんなさい席外しちゃって。もしかして買いに来てくれました?」
「そうなんですけど、めちゃめちゃ出遅れましたね。やば~っ」
「一部あるので、良かったらもらってください!」
「うわ奇跡!ありがたく受け取ります。やったー。サンプルから楽しみにしてたんですよ。いつもとガラッと作風変わりましたよね」
ナマステさんがのんびりと小銭を出し、本を手に取ると頬を綻ばせた。元々字書きだったらしいが、絵も描ける両刀の彼女は小説も漫画も垣根なく愛してくれる、珍しいタイプの人だった。余りの一部は、藤乃先生に受け取ってもらえなかったぶんだ。欲しい人に買ってもらえた方が、きっと作品も嬉しいはずだった。
「藤乃先生っぽさありますよね。ってああ、こういうの言うとやばいか。ごめんなさい」
「……尊敬してるんです。だから、たまには藤乃先生みたいなものも、書いてみたくて」
「あ~。なるほど。あの人、飛ぶ鳥を落とす勢いで書きますよね。いや、飛んでる鳥の中のひとつなんだけど……なんだろう。他の鳥を落としながら飛んでる、みたいな」
コチ、コチ。
……カチッ、と。針が止まる。
私も、落とされた鳥だった。周りに馴染まなければ、作品を売り込まなければ。読まれなければ、無価値なのだと。大して才能もないのだから、書くだけでは届かない場所があるのだと思い知って泣いて、飛ぶことを諦めた。
だから藤乃先生も引きずり落としてやろうと、飛ぶ姿を目掛けて石を放ったつもりだった。